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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル
第6章第006話 タロウさんのご両親とチャラ貴の血族
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第6章第006話 タロウさんのご両親とチャラ貴の血族
・Side:ツキシマ・レイコ
"幼女にケツ叩かれてやっとのこさ"アイリさんにプロポーズしたタロウさんっ! しかし、商品品定めの期間として、回答に三日の猶予が設けられました。
結局その日はいつものように食事して、タロウさんかアイリさんを六六に送って終わり。…送り狼はあり得ないとしても。帰り道、何か話とかしたんですかね?あの二人。
特に騒ぎも無く時は過ぎ、回答の前日の夕方です。回答日は明日ですね。
いや、ほんと何も無いですね。普通に二人でファルリード亭に食事に来ていたし。奢りも割り勘も無くお会計はそれぞれ。甲斐性見せるために「支払いは任せろ~バリバリッ!」って展開も無く。…まぁアイリさんはタロウさんの年収とかランドゥーク商会の年商とか知っているんじゃないかと思いますしね、経済力アピールは意味がないのか。
ともかく、何か伸展なりあるのか?とみんな期待していたのですが。
渦中のアイリさんとタロウさんが一緒にファルリード亭にやって来ました。運命の日は明日だというのに、今日も今までと変わらない雰囲気で過ごしてしまったようで、なんか微妙な表情のタロウさんです。
あと。お二人に続いてさらに二人入ってきました。壮年のご夫婦ですね。タロウさんに紹介されました。
「ランドゥーク商会の王都店に詰めている俺の両親ね。ケーン・ランドゥークにリマ・ランドゥーク」
「初めまして、赤竜神の巫女様。愚息と愚父がお世話になりながら、ご挨拶に伺うことが遅れたことをお詫びいたします。ケーン・ランドゥークに妻のリマ・ランドゥークと申します。以後お見知りおきを」
膝付いての挨拶ですっ! ああああっ!
「あああ。私の方こそタロウさんやランドゥーク商会にはお世話になっていますっ!と。立って下さいっ!立って下さいっ!」
なんとか立ち上がってもらえました。夫婦で顔見合わせて、ほら見ろって感じですね。
…なんかみんな、私がアワアワするのを楽しんでませんか?
「話に伺っていた通りの方ですな。本当は父…ジャック会頭が巫女様を保護されたって話を聞いたときに飛んできたかったのですが。御気性について伺うに、騒ぎにされるのは苦手とのこと。それを聞いて自重しておりました」
「…お気遣いいただきありがとうございます」
「いやまぁ先日、息子が求婚したと早馬が来ましてな。こんな面白…いや息子の人生の一大事、是非見届けたいと向こうの仕事をまとめてからエイゼル市に戻ってきた訳なのですが。相手があのアイリさんとは、我が息子ながらなかなか見る目がありますな」
今面白いって言いましたね。しかも息子の求婚で早馬飛ばすとは。
「アイリさんについてはもちろんいろいろ知っておりますぞ。孤児院に居たころから院と六六の子供達をとりまとめて、子供にでも出来る仕事というか子供に丁度良い仕事を街から集めて、商会みたいなことを始めてましたな。六六での内職管理の手伝いをしていたタロウが商会にスカウトしたのが、アイリ殿との縁の最初だったかな」
いろいろ詳しいですね。まぁ商会の従業員ですから、それなりにチェックはしているという所でしょうか?
「あら。タロウは招いた教師が厳しくて逃げ出した先が教会だったと聞いてますけど。家の人は、その頃からアイリさんに目を付けてたようですけど。ただまぁ優秀だから、今では縁談もいろいろ来ているとか… ここで息子が男になれるかどうか、見物ですわね。ほほほほっ」
…この二人、完全に遊びに来ているな。なんかタロウさんがぐったりしています。話題となっているアイリさんのぽかんですね。
「父さん、母さん…まだ答えを貰ったわけじゃ無いんだから、あまり面白がらないでくれよ…」
「まぁ人生がかかった判断ですからね。アイリさん、よく考えるのですよ。もちろん、我が家としては大歓迎な話ですけどね」
「ありがとうございます、リマ様…」
…なにげに両親がやって来て圧をかけているようにも見えます。ランドゥーク商会から見てもアイリさんは優良物件のようですね。
「レイコ殿、言っとくけど俺が親を呼んだわけじゃないからな。会頭が面白がって早馬なんか出して…」
これはジャック会頭の援護射撃かな? 単純に面白いから呼んだって線も濃厚ですが。
なんだかんだで。ファルリード亭で夕食を召し上がっていったタロウ親子とアイリさんでした。
まぁアイリさんは、タロウさんのご両親との会食とかは初めてではないとのことですが。…もう孫の話なんかもしているし。こういうのを"外堀を埋める"と言いますよね?。
さて、つぐのひ。タロウさん運命の日です。
お昼ちょっと前にアイリさんとタロウさんがファルリード亭に来ました。ランドゥーク商会の中でも噂が広まっている上に、ご両親とジャック会頭もエイゼル市の商館に常駐していると言うことで、居たたまれなくなって避難して来たそうです。
とりあえず、二人掛けの隅の席へご案内。飲み物だけ出してきました。アイリさん曰く、タロウと二人きりでいろいろ話したいそうです。
ファルリード亭のいつもの面々で集まって、こちらでも会議です。
皆の見通しとしては8対2以上で求婚成立ではありますが。2の方も、結婚はしばらく様子見でまず結婚を前提としたお付き合いからと言うパターンで、タロウさんがフラれるというオッズはありませんね。
…事情を知っている客も何人かが聞き耳立てていますね。
さて、どうなるやら…と思ってましたら。タロウさんが机に突っ伏しました。…よもやこれは?と見守っていた面々がザワついたのですが。
その時。
「アイリ殿はいずこっ!」
入り口の戸を蹴り破るかのように開けて入ってきたのは…ラージュ・トラン・アーウィー、チャラ貴2です。
「おお巫女様、またお会いしましたな。実はここにアイリ殿が連行されたという話を聞きましてな」
連行とはまた人聞き悪いことを大声でこの人はまた…
「なんですか? 私は別に連行なんかされていませんよ」
さすがに騒ぎに気がついたのか、アイリさんが出てきました。
「アイリ殿っ!、無事で良かった… 無理矢理結婚を迫られていると聞いて、こうしてお助けに参ったわけです」
「無理矢理? まぁ多少強引な気はするけど、求婚なんてそんなもんだろうし。無理矢理では無いですよ。」
「ランドゥーク商会の次期会頭が夫婦で王都からやって来て圧力をかけたと聞きましたぞ!」
「タロウのご両親はランドゥーク商会の次期会頭だし。私はランドゥーク商会の従業員だし。まぁ興味を持ってタロウのところに来るのはおかしいとは思わないけど。そもそもあなたに心配していただくようなことでもないでしょう?」
「我慢しなくても良いんですよアイリ殿! 従業員に息子と結婚しろなんて圧力をかけるような商会など、とっとと辞めるべきです! そしてアマランカ領に一緒に行きましょうっ!」
満面の笑顔で手を差し出すチャラ貴… これが漫画とかなら絵になるシーンなのですが。この人の完全に独りよがりなのを知っていると、痛々しいことこの上ないです。
「ラージュ様…」
「なんでしょうっ? アイリ殿っ!」
「なんか前提をいろいろ勘違いされているようですけど。レイコちゃんの奉納関係の権利は全部ランドゥーク商会預かりの物ですし。レイコちゃんも私とではなくランドゥーク商会と契約しているのですから、私がランドゥーク商会辞めてそちらに行ってもアマランカ領にはなんの利益も入ってきませんし。レイコちゃんへの直接依頼権は基本的に国が抑えていますので、レイコちゃんの協力が得られるなんてことも無いですよ?」
正確には、レイコ・バスターを使ったお仕事は、国か国から許可をもらった自治体…今のところはエイゼル市とユルガルム領ですね、ここからしか受けないことになっています。よって。もしアマランカ領が私に依頼するのなら、まず国の方に話を通す必要があります。
仮にアイリさんが他領に嫁いだとしてアイリさんに頼まれたとしたら… 無碍にすることはしませんが、緊急でない仕事なら私から国の方に話を通してから動くでしょうね。
もちろん非常時には私の判断で使うこともできますが、やっていることは基本的に破壊活動ですからね。使う時と場所は慎重になる必要があります。
「…えっ?」
いまさら"聞いてないよ?"って顔をするチャラ貴2。
アイリさん、チャラ貴2の目論見らしき所を見事に突いていきますね。
まぁ、貴族家同士のような婚姻のつもりのようです。先方の援助とか利権を期待していたのでしょうが。身寄りの無いアイリさんに求婚したところで、社員の引き抜きと同じ話で、商会の利権は何一つ付いてきませんよね。当たり前ですけど。
「あなたが仰ったとおり、私は従業員ですから。お給金はいただいていても、商会の利権のお金が入ってくるわけないじゃないですか」
「…えっ?」
チャラ貴2は混乱している。
「この人、アイリさんと結婚とまで思いついたはいいけど、ランドゥーク商会との関係を悪化させたにも関わらず利益を引っ張って来れるのかあたりを考えるだけの常識がなかったのか、はたまた頭が無かったのか…」
エカテリンさんがまた冷静に分析しています。地味に相手の心をえぐる攻撃です。
「さらに言っておきますけど。ランドゥーク商会を辞めないままあなたと結婚したとしても、私用で利権をアーウィー家に融通したりも出来ませんよ? 当たり前ですけど」
「……えっ? …そんな…」
…私を直接籠絡できないからと外堀狙ってきたけど… 商会というものがどういう風に運営されているかよく分からずに粉かけてきたってところですかね? 従業員との血縁と貴族に対する忖度で利益を融通して貰えると思っていたようです。
「くそ…お婆さまが言っていたことと全然違うじゃないかっ! …失礼しました。今日の所はお暇させていただきます」
慌てて出ていきました、チャラ貴2。
「お婆さまって言ってましたね。多分、王姉殿下のことでしょう」
声をかけてきたのは"影"のファルリード亭常駐の警備当番、今日はクッフさんです。入り口と店内を見回せる席が既に彼ら専用です。いつもお茶飲んでます。ほとんど用心棒ですね。
「王姉って姉? クライスファー陛下の?」
「三十年前の政変で、旦那の実家に引き取られる形で臣籍降下したんですけどね。その家が当時のアマランカ国王、現在の辺境候でして」
陛下のお兄さん二人は、互いに暗殺と毒殺で亡くなったんでしたっけ? その間で風見鶏で二人を煽っていたのが、先王の三人目の子供たるその姉だったとか。
どちらか有利な方…ではなく、ちょっと不利な方に味方することで恩を売り、戴冠の暁にはいろいろ利益を得ようとしていた…って話ですが。結局、対象の兄二人が殺し合って自滅した形になり、彼女がやらかしていたこともいろいろ公になって。結果、王位継承権の剥奪と臣籍降下と、事実上の王都追放。
それの孫があのチャラ貴2なわけですが。領に籠もってからも、いろいろ蠢動しているってことでしょうかね? 気が長い話です。多分蠍座でしょう。ここには蠍座無いけど。…アンタレスももう爆発して無いんだろうな。
「この方、妙にローザリンテ殿下を敵視していましてね。自分の不遇が全部ローザリンテ殿下のせいだってくらいに。それでも直接敵対したらどうなるか理解しているはずなんですけど。今回の話がローザリンテ殿下に報告が行ったら、どうなるやら…」
そういう謀事は、ローザリンテ殿下の方が一枚…どころか十枚くらい上手だと思います。
…あれ? そういえばアイリさんの回答はどうなった?
・Side:ツキシマ・レイコ
"幼女にケツ叩かれてやっとのこさ"アイリさんにプロポーズしたタロウさんっ! しかし、商品品定めの期間として、回答に三日の猶予が設けられました。
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特に騒ぎも無く時は過ぎ、回答の前日の夕方です。回答日は明日ですね。
いや、ほんと何も無いですね。普通に二人でファルリード亭に食事に来ていたし。奢りも割り勘も無くお会計はそれぞれ。甲斐性見せるために「支払いは任せろ~バリバリッ!」って展開も無く。…まぁアイリさんはタロウさんの年収とかランドゥーク商会の年商とか知っているんじゃないかと思いますしね、経済力アピールは意味がないのか。
ともかく、何か伸展なりあるのか?とみんな期待していたのですが。
渦中のアイリさんとタロウさんが一緒にファルリード亭にやって来ました。運命の日は明日だというのに、今日も今までと変わらない雰囲気で過ごしてしまったようで、なんか微妙な表情のタロウさんです。
あと。お二人に続いてさらに二人入ってきました。壮年のご夫婦ですね。タロウさんに紹介されました。
「ランドゥーク商会の王都店に詰めている俺の両親ね。ケーン・ランドゥークにリマ・ランドゥーク」
「初めまして、赤竜神の巫女様。愚息と愚父がお世話になりながら、ご挨拶に伺うことが遅れたことをお詫びいたします。ケーン・ランドゥークに妻のリマ・ランドゥークと申します。以後お見知りおきを」
膝付いての挨拶ですっ! ああああっ!
「あああ。私の方こそタロウさんやランドゥーク商会にはお世話になっていますっ!と。立って下さいっ!立って下さいっ!」
なんとか立ち上がってもらえました。夫婦で顔見合わせて、ほら見ろって感じですね。
…なんかみんな、私がアワアワするのを楽しんでませんか?
「話に伺っていた通りの方ですな。本当は父…ジャック会頭が巫女様を保護されたって話を聞いたときに飛んできたかったのですが。御気性について伺うに、騒ぎにされるのは苦手とのこと。それを聞いて自重しておりました」
「…お気遣いいただきありがとうございます」
「いやまぁ先日、息子が求婚したと早馬が来ましてな。こんな面白…いや息子の人生の一大事、是非見届けたいと向こうの仕事をまとめてからエイゼル市に戻ってきた訳なのですが。相手があのアイリさんとは、我が息子ながらなかなか見る目がありますな」
今面白いって言いましたね。しかも息子の求婚で早馬飛ばすとは。
「アイリさんについてはもちろんいろいろ知っておりますぞ。孤児院に居たころから院と六六の子供達をとりまとめて、子供にでも出来る仕事というか子供に丁度良い仕事を街から集めて、商会みたいなことを始めてましたな。六六での内職管理の手伝いをしていたタロウが商会にスカウトしたのが、アイリ殿との縁の最初だったかな」
いろいろ詳しいですね。まぁ商会の従業員ですから、それなりにチェックはしているという所でしょうか?
「あら。タロウは招いた教師が厳しくて逃げ出した先が教会だったと聞いてますけど。家の人は、その頃からアイリさんに目を付けてたようですけど。ただまぁ優秀だから、今では縁談もいろいろ来ているとか… ここで息子が男になれるかどうか、見物ですわね。ほほほほっ」
…この二人、完全に遊びに来ているな。なんかタロウさんがぐったりしています。話題となっているアイリさんのぽかんですね。
「父さん、母さん…まだ答えを貰ったわけじゃ無いんだから、あまり面白がらないでくれよ…」
「まぁ人生がかかった判断ですからね。アイリさん、よく考えるのですよ。もちろん、我が家としては大歓迎な話ですけどね」
「ありがとうございます、リマ様…」
…なにげに両親がやって来て圧をかけているようにも見えます。ランドゥーク商会から見てもアイリさんは優良物件のようですね。
「レイコ殿、言っとくけど俺が親を呼んだわけじゃないからな。会頭が面白がって早馬なんか出して…」
これはジャック会頭の援護射撃かな? 単純に面白いから呼んだって線も濃厚ですが。
なんだかんだで。ファルリード亭で夕食を召し上がっていったタロウ親子とアイリさんでした。
まぁアイリさんは、タロウさんのご両親との会食とかは初めてではないとのことですが。…もう孫の話なんかもしているし。こういうのを"外堀を埋める"と言いますよね?。
さて、つぐのひ。タロウさん運命の日です。
お昼ちょっと前にアイリさんとタロウさんがファルリード亭に来ました。ランドゥーク商会の中でも噂が広まっている上に、ご両親とジャック会頭もエイゼル市の商館に常駐していると言うことで、居たたまれなくなって避難して来たそうです。
とりあえず、二人掛けの隅の席へご案内。飲み物だけ出してきました。アイリさん曰く、タロウと二人きりでいろいろ話したいそうです。
ファルリード亭のいつもの面々で集まって、こちらでも会議です。
皆の見通しとしては8対2以上で求婚成立ではありますが。2の方も、結婚はしばらく様子見でまず結婚を前提としたお付き合いからと言うパターンで、タロウさんがフラれるというオッズはありませんね。
…事情を知っている客も何人かが聞き耳立てていますね。
さて、どうなるやら…と思ってましたら。タロウさんが机に突っ伏しました。…よもやこれは?と見守っていた面々がザワついたのですが。
その時。
「アイリ殿はいずこっ!」
入り口の戸を蹴り破るかのように開けて入ってきたのは…ラージュ・トラン・アーウィー、チャラ貴2です。
「おお巫女様、またお会いしましたな。実はここにアイリ殿が連行されたという話を聞きましてな」
連行とはまた人聞き悪いことを大声でこの人はまた…
「なんですか? 私は別に連行なんかされていませんよ」
さすがに騒ぎに気がついたのか、アイリさんが出てきました。
「アイリ殿っ!、無事で良かった… 無理矢理結婚を迫られていると聞いて、こうしてお助けに参ったわけです」
「無理矢理? まぁ多少強引な気はするけど、求婚なんてそんなもんだろうし。無理矢理では無いですよ。」
「ランドゥーク商会の次期会頭が夫婦で王都からやって来て圧力をかけたと聞きましたぞ!」
「タロウのご両親はランドゥーク商会の次期会頭だし。私はランドゥーク商会の従業員だし。まぁ興味を持ってタロウのところに来るのはおかしいとは思わないけど。そもそもあなたに心配していただくようなことでもないでしょう?」
「我慢しなくても良いんですよアイリ殿! 従業員に息子と結婚しろなんて圧力をかけるような商会など、とっとと辞めるべきです! そしてアマランカ領に一緒に行きましょうっ!」
満面の笑顔で手を差し出すチャラ貴… これが漫画とかなら絵になるシーンなのですが。この人の完全に独りよがりなのを知っていると、痛々しいことこの上ないです。
「ラージュ様…」
「なんでしょうっ? アイリ殿っ!」
「なんか前提をいろいろ勘違いされているようですけど。レイコちゃんの奉納関係の権利は全部ランドゥーク商会預かりの物ですし。レイコちゃんも私とではなくランドゥーク商会と契約しているのですから、私がランドゥーク商会辞めてそちらに行ってもアマランカ領にはなんの利益も入ってきませんし。レイコちゃんへの直接依頼権は基本的に国が抑えていますので、レイコちゃんの協力が得られるなんてことも無いですよ?」
正確には、レイコ・バスターを使ったお仕事は、国か国から許可をもらった自治体…今のところはエイゼル市とユルガルム領ですね、ここからしか受けないことになっています。よって。もしアマランカ領が私に依頼するのなら、まず国の方に話を通す必要があります。
仮にアイリさんが他領に嫁いだとしてアイリさんに頼まれたとしたら… 無碍にすることはしませんが、緊急でない仕事なら私から国の方に話を通してから動くでしょうね。
もちろん非常時には私の判断で使うこともできますが、やっていることは基本的に破壊活動ですからね。使う時と場所は慎重になる必要があります。
「…えっ?」
いまさら"聞いてないよ?"って顔をするチャラ貴2。
アイリさん、チャラ貴2の目論見らしき所を見事に突いていきますね。
まぁ、貴族家同士のような婚姻のつもりのようです。先方の援助とか利権を期待していたのでしょうが。身寄りの無いアイリさんに求婚したところで、社員の引き抜きと同じ話で、商会の利権は何一つ付いてきませんよね。当たり前ですけど。
「あなたが仰ったとおり、私は従業員ですから。お給金はいただいていても、商会の利権のお金が入ってくるわけないじゃないですか」
「…えっ?」
チャラ貴2は混乱している。
「この人、アイリさんと結婚とまで思いついたはいいけど、ランドゥーク商会との関係を悪化させたにも関わらず利益を引っ張って来れるのかあたりを考えるだけの常識がなかったのか、はたまた頭が無かったのか…」
エカテリンさんがまた冷静に分析しています。地味に相手の心をえぐる攻撃です。
「さらに言っておきますけど。ランドゥーク商会を辞めないままあなたと結婚したとしても、私用で利権をアーウィー家に融通したりも出来ませんよ? 当たり前ですけど」
「……えっ? …そんな…」
…私を直接籠絡できないからと外堀狙ってきたけど… 商会というものがどういう風に運営されているかよく分からずに粉かけてきたってところですかね? 従業員との血縁と貴族に対する忖度で利益を融通して貰えると思っていたようです。
「くそ…お婆さまが言っていたことと全然違うじゃないかっ! …失礼しました。今日の所はお暇させていただきます」
慌てて出ていきました、チャラ貴2。
「お婆さまって言ってましたね。多分、王姉殿下のことでしょう」
声をかけてきたのは"影"のファルリード亭常駐の警備当番、今日はクッフさんです。入り口と店内を見回せる席が既に彼ら専用です。いつもお茶飲んでます。ほとんど用心棒ですね。
「王姉って姉? クライスファー陛下の?」
「三十年前の政変で、旦那の実家に引き取られる形で臣籍降下したんですけどね。その家が当時のアマランカ国王、現在の辺境候でして」
陛下のお兄さん二人は、互いに暗殺と毒殺で亡くなったんでしたっけ? その間で風見鶏で二人を煽っていたのが、先王の三人目の子供たるその姉だったとか。
どちらか有利な方…ではなく、ちょっと不利な方に味方することで恩を売り、戴冠の暁にはいろいろ利益を得ようとしていた…って話ですが。結局、対象の兄二人が殺し合って自滅した形になり、彼女がやらかしていたこともいろいろ公になって。結果、王位継承権の剥奪と臣籍降下と、事実上の王都追放。
それの孫があのチャラ貴2なわけですが。領に籠もってからも、いろいろ蠢動しているってことでしょうかね? 気が長い話です。多分蠍座でしょう。ここには蠍座無いけど。…アンタレスももう爆発して無いんだろうな。
「この方、妙にローザリンテ殿下を敵視していましてね。自分の不遇が全部ローザリンテ殿下のせいだってくらいに。それでも直接敵対したらどうなるか理解しているはずなんですけど。今回の話がローザリンテ殿下に報告が行ったら、どうなるやら…」
そういう謀事は、ローザリンテ殿下の方が一枚…どころか十枚くらい上手だと思います。
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