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第5章 クラーレスカ正教国の聖女
第5章第041話 正教国の政教分離
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第5章第041話 正教国の政教分離
・Side:ツキシマ・レイコ
重傷負ったマーリアちゃんはしばらくお休み。
…サラダーンはまだ症状出ていないようですが、死亡待ちです。まぁ、普通に裁判にかけられても死刑判決出ていたでしょうが、やはり気持ちが良いものではないですね。「お前はもう死んでいる」なんてセリフも笑えません。
数日して。アインコール殿下、ネタリア外相、アイズン伯爵が、新しく正教国代表となったリシャーフさんと会談です。
私も呼ばれましたよ。
当然の流れですが。教会からのネイルコードに対する破門の話は白紙となりました。同時に、私の巫女としての扱いは、正式にネイルコード国の赤竜教教会、正教国から見ると正教会ネイルコード国支部管轄となりました。まぁ、私自身はネイルコードに滞在して、宗教関係からの接触はネイルコードの教会窓口に集約される…という以上のことはないんですけどね。教会に纏わる問題は、とりあえず巻き戻しとなりそうです。
赤井さんが赤竜神である以上、今後もまったく無関係とも行かないでしょうけど。適度な距離を測っていきたいところですね。
カリッシュについては、正教国に戻した上でサラダーンの介護をさせるそうです。
サラダーンは今はまだ牢の中で元気ではありますが、今後どうなるかは治療院に伝えてあります。まさに神の祟りがこれから発現と、恐々としていますが。カリッシュにはその神罰の発現を間近で見てもらうということになりました。エグい罰を考えますね、だれの発案だろ?
カリッシュ自体の処分は、その後の彼の変化によって再検討だそうです。
正教国は、政教分離のための教会と政治を分離した組織作りから改革を始めることになります。 今までは、立法と行政と司法まとめて教会で牛耳っていましたからね。
お金は大事です。ですから拝金派が絶対悪というわけでもないのです。ただ、そこに宗教が入ると、具体的に何にお金を使うという話よりは、私腹を肥やす方に流れがちになるんですよね。
「立法した者が、それに沿った行政を行う責任を持ち、それが正しく行なわれているかを司法で管理するべきではないのかい?」
アインコール殿下に聞かれました。三権まで分離するのが非効率に感じるようです。施政する側と監視する側、この二つで良いのでは?という意見ですね。
まぁ確かに、小さい政府なら分ける数が少ない方が効率は良いんでしょうが。
「権力が集中すると腐ることが前提なんですよ。例えば特定の商会に都合の良い法律作って、予算偏らせて、不正を見逃して賄賂を貰うとかですね。アインコール殿下やアイズン伯爵らが不正するなんてことは無いでしょうけど、穴を潜ろうという者は必ず出る…という考えです」
「ふむ…なるほど。必ず腐るか… まぁ金が集まるところにはたしかにそういうのが集ってくるな」
正教国である以上、宗教色は皆無とはなりませんが。改革後は立憲立法の指針として口出す程度となります。行政を司る文官には、必然的に祭司出身者が多くなりますが、徐々に一般からの登用も増えるでしょう。
司法については、まずは刑法の明文化と、そこからの宗教色の排除が構想されています。一般人の教会に対する義務みたいなものまで記載されていて。それこそ異端審問で死刑なんてものもありますからね。
司法の管轄は、騎士団の上位が司るのは、ネイルコードと同じですね。地球での警察関係は、ここでは騎士団の仕事です。ここも最初は聖騎士団が関わるのは、致し方ないところですか。
リシャーフさんは、聖女であるとともに騎士団長でもありますので、しばらくは"王"と変わらない立場となりますが。次代までには改革を終わらせると張り切っています。
商法と民法は、既にある者を基礎に時代の要求に合わせて改善していけば良いでしょう。
あとびっくり。ザフロ祭司が教都に召喚されることになりました。リシャーフさんが是非助けて欲しいとのことです。先代聖女の兄で、現聖女の叔父ですからね。
実際の招喚の交渉はこれからとのことですが、実現したら、六六が寂しくなりますね。
奴隷制の廃止と、人種民族宗教による差別の廃止。これも明文化されます。私の名前も使われますけど、致し方無しですか。
この辺、正教国なのに非信心者がはびこることになるのでは無いかと、反発する祭司が結構いるそうですが。
「どうせ今までは、前例が無いとか神の御心にそぐわないとか程度の言葉で異論反論を封じてきたんでしょうけど。あなたたちも知識層を自認するのなら論破しなさい、論破。権威で他人の言論をねじ曲げようだなんて、あなたの首の上に乗っている物は飾り物?」
人種では無く故人の能力で。所属する宗教組織に頼るのでは無く、共存するか論破しろと。まぁこんな感じです。
巫女からこう言われては、教会に所属するものとしては知能で勝負するしかなくなるでしょう。
「学問に対して、経典を理由にした否定や弾圧もこれを禁止します。…例えば、太陽は世界の周りを回っているなんて…言ってる?」
「えっ? 違うのかい?」
アインコール殿下…だけではなく、ここに居る人みんながぽかーんとしてますね。
「いや…数十年前、暦を作っている祭司がそのようなことを言っていたという話を聞いたことが…」
同席している祭司さんには心当たりがあるようです。
「太陽の大きさは、この世界の直径の百倍くらいありますからね」
「…そ…そんなに大きいのですか?…しかしあんなに小さく…」
「この世界の方がその場で一日一回転していて、さらに一年かけて太陽の周りを一周しているんです。太陽までの距離は一億ベール以上ありますよ」
「一億…一万の一万倍ですな…遠すぎてちょっと想像できないですな」
皆が窓の外の太陽を眺めています。今日はだいたい晴れ、少し雲。雲を透かせて丸い形が見えています。目がいい人には、横線も見えるのでしょう。
「地球でも、太陽の方が回っている…天動説って呼ばれていましたけど、それを唱えた人が教会から迫害されていました。教会が間違いを認めて謝罪するのに四百年くらいかかりましたけど。太陽までの距離が分かれば太陽の大きさが分りますから。太陽が世界の周りを回っているってのに無理があるのは、いずれ皆が知ることなのです」
「…まぁ、間違いを認めることは、権威にとっては致命的じゃからの。言い訳だけは人一倍…っと失礼」
アイズン伯爵がぽろっと言いかけますが、ここが教会だとというの思い出して続きは慎みました。まぁ言いたいことは分ります。自分が正しいということを前提から降ろせない人とは、議論が成立しないですからね。
「教会が間違いを認めることは権威が傷つくから出来ないというのなら、そもそも何が正しいということも安易に言うべきではないです。だから、宗教は学問に口を出すなってことで」
ケルマン総祭司長についてはそのまま葬儀が執り行われました。
この人、私視点だと全く無実というわけでもないのですが、もともと祭司総長の権限内でやっていたと言われれば間違いでも無く。これを罪とするには遡及法となってしまいます。
サラダーンを放置し、マナ操作の人体実験を後押ししてきた彼ですが。リシャーフさんを庇って亡くなった後に鞭打つつもりはありません。
ただ、葬儀自体は教会関係者や参列できる近くに住む人達だけで、静かなものとなりました。各領や各国へは。外交の文官を通じて連絡だけ入れられることになりそうです。
リシャーフさんの罪状については、真っ白。…この辺は、ケルマン総祭司長の親心だったのでしょうか、後ろ暗いことには一切関わらせて居なかったようです。
サラダーン元祭司長について細かい描写は止めましょう。
あのカリッシュは治療師の助手としてサラダーンの介護をしていますが。それ以外の時間は治療院内の祭壇に向かって毎日長時間祈っている所を見ると、その惨状が分かるという物です。
経過観察もしている治療師さんからは…ほんと巻き込んでごめんなさい、もろもろ含めてあと数日しか持たないだろうとの見立てでした。アインコール殿下曰く、この辺の詳細は、本物の天罰のとして故意にリークしてもらっているそうです。…これが抑止力になることを祈ります。
周辺国は、正教国の政変に対して静観を続けています。
正教国に直接国境を接しているのは、ダーコラ国の他に5カ国。さらにその西にいくつもの国があるそうで。その西の果ての向こうには砂漠が続き、海に突き当たって終点だそうです。
お父さんが、赤道付近を除けば、だいたい大陸の東側は湿潤で西側は乾燥しているって言ってました。ここの大陸でも同じ感じのようですね。
皆が大陸と呼んではいますけど、どれくらいのサイズなんでしょうね? 私は、せいぜいヨーロッパ大陸程度だと思っているんですけど。東方諸島に、さらに東に行くと魔女の帝国の大陸があると言われています。おそらく他にもいくつもの大陸があるのでしょうし、アライさんも比較的近くにある大陸が出身地じゃないかなんて推測しています。
あ…大航海時代に必要な天測と航海技術が頭に…レッドさんがニコニコとこちらを見ています。ギュッとしました。でも、地図はくれないのね。
赤竜教の権威、正教国の武力、両方から圧力を受けていた周辺国は、正教国がネイルコードに屈服したという報を受けて瞬間蠢動はしたのですが。サラダーン祭司長に下った天罰の詳細のリーク、赤竜神の巫女のレイコ・バスターの詳細記録のネイルコードからの提供、そしてリシャーフさんが"許された"という事実に、ネイルコードとのは関係修復がなされたと判断したようです。この辺を鑑みて、軍事的に動くことは諦めたようですね。
その代わり、ネイルコードの動きに警戒しつつも、今後ネイルコードにすり寄ってくる国は多そうですが。ネイルコードが正教国以西に侵攻といった具体的な動きを見せなければ、それも沈静化するだろうとはアインコール殿下の言です。まぁ、交易や文化的交流なら歓迎するという挨拶は、正教国と連名で送るようですが。
あと。ハバエラ主任は辛うじて生き延びました。あちこち骨折してしばらく寝たきりですけどね。マーリアちゃん刺しやがって、生きているだけありがたいと思いやがれ。
ハバエラの研究施設、これが結構大きな規模で研究員も多かったのですが。そこから例のユルガルムの蟻が出てきました。
昆虫に対するマナ投与の実験の結果、数十世代を得て出来上がったそうですが。ユルガルム領に出た蟻はどうやらここから持ち込まれたようですね。どう言う経緯で炭鉱の奥に住み着くことになったのかは、サラダーンの残した書類なども精査する必要がありますが。ネイルコード国内の協力者をあぶり出すと、ネタリア外相が悪い顔しています。
他の国に魔獣を解き放つ、普通に考えて戦争行為と大差ないのですが。アインコール殿下は、今回の件もろもろを正教国に対する"貸し"とするようです。今の正教国を責め立てたところで得るものはありませんので、リシャーフさん本人に恩を売った方が得だと判断したのでしょう。とりあえず直近の得として、恣意的に変動されていた正教国以西の国々との交易に関する関税の明文化と、正教国のエルセニム人奴隷を全てエルセニム国に帰還させることが決定されました。嫌がらせの税はこれで違法化されますし、エルセニム人連れ去りの問題も現在出来うる限りのことがなされます。
あと。正教国のエルセニム国への謝罪とか賠償は直接的にはありません。私からすれば違和感はあるのですが。アインコール殿下曰く、「当時のエルセニム国が弱いのが悪い」んだそうです。
勝ったから過去に遡ってと謝罪と賠償をなどは、勝った負けたの都度それを繰り返すのは不毛だとか。エルセニム国とダーコラ・正教国連合との戦争は既に決着して、一方的な条件とはいえ正式に講和は成立しています。国家間で決着が付いているのですから、いまさらこれは覆せないようです。
奴隷制度も正教国では合法でした。エルセニム人を奴隷にしたことについても、それを咎めることは遡及法になってしまいます。
それでも。リシャーフさんがマーリアちゃんに頭を下げていました。新法によって奴隷制は廃止されエルセニム人の奴隷も解放されますし、正教国の奴隷の扱い方の法から逸脱した部分があれば補償されます。今はこれで飲み込む必要があります。
アイズン伯爵は、こちらの文官と連日会議モードです。奴隷制の廃止に伴う経済混乱の解消と、今後の経済振興指針ですね。なんか私も誘われて出席しています。
動けるようになったマーリアちゃんも勉強になるじゃろとばかりに、伯爵に誘われて参加して聞いていますが。…席の後ろに寝転ぶセレブロさん、その上で戯れるアライさんとレッドさんまで。ちょっと面白い光景です…私もそっちいきたい…
「これが奴隷を全て解放した場合の予測ですか… 奴隷が市民となってお金を使う、それで商人が儲かる、税収も増えると… そこまで上手く行く物なのか…」
「そもそも、労働者の賃金は、その労働力で得られた利益から賄われるわけじゃからな。奴隷制を廃したところで、雇い主が賃金を払うようになるだけで、商会の商売が細るわけじゃないから、そちらからの税が減るわけじゃ無い。まぁ商会が只で使っていた奴隷に賃金が発生わけだから一時的に商会の利益は減るが、まぁその程度という話じゃな」
奴隷、無料の労働力がいないとやっていけないような商会はもともとギリギリなので、そういうところは除外しますけどね。
「一時的ですか?」
「ふむ、ここが肝じゃな。賃金を貰った元奴隷はその金をどうする? 当然物を買うじゃろ。元奴隷が金を使うだけじゃない、その増えた客層に物を売るために、商会はその規模を大きくしなければならん」
「なるほど…元奴隷が客として動くようになることで、商会の商いの規模も増える、いや増やさなくてはいけないと…」
「それでこのエイゼル市での数字じゃ、だいぶ古いがな。わしがスラムを解体した後の紡績関係の商会の商い規模の推移じゃ。その商会では、スラム出身の人間を大量雇用して、布から服まで今も大量に生産しておる。服の類いは、買う人間が減ることは無いからな」
ランドゥーク商会のことですね。この頃からの活動なんだ。
「す…すごい増加ですね。税率を下げてるのに税収は増える…」
「漁船なんかを作っている工場も、何倍にも仕事が増えたぞ」
「元奴隷が船を買うんですか?」
「魚の需要の方が増え、漁村での船の需用が増えたということじゃ。もちろん、漁村で雇われる者達も増えるがな。直接的にも間接的にも、動く金が増えれば儲けるところが出てくる」
「な…なるほど」
アイズン伯爵、なんか生き々々としていますね。
「さらに人口も増える。生活に余裕が出来た者らが所帯を持つようになるからの。商売を増やすだけでは無く、増える人の分だけ予め農地も広げなくてはいかん。将来の労働力たる新たに生まれてくる子供らを飢えさせるわけにはいかんからな。さらにそれら産物を運ぶための街道の整備等も。これらを五年先、十年先を見通しつつ、予め計画しておく必要がある。年5分で人口が増えたとしても、10年で6割の人口増加じゃ。無策ではおられんぞ」
「…いいのですか?アイズン伯爵。本来なら国家の機密として扱われそうな内容に思われるのですが…」
「なに。我が国に訪れてちょっと勉強すれば、これくらいはすぐに分る。それにな、国と国が経済的に結びつけば、おいそれと戦争が出来なくなる。この辺は陛下もご承知じゃ」
「ネイルコードでは、王としての教育の際にその辺のことは叩き込まれたんだよ。父上…クライスファー陛下も、アイズン伯爵の元で文官の経験が、それが相当役に立っているらしい」
またアイズン伯爵が、正教国の文官祭司に対してニヤッと笑ってます。
「おぬしらはこれから、これらのことを国内の商人豪農だけではなく、正教国傘下だった国々も説明し、奴隷の解放をさせねばならん。大変じゃぞ?」
「…国内はなんとかなるでしょう。問題は他国なのですが…」
「それこそ飴と鞭じゃな。先ほどの説明に加えて、奴隷制を続けていれば赤竜神の巫女様が天罰を下しに来る…とでも言えば良い。なんだかんだで前例ができてしまったからの。正直、ここまで短期間にダーコラ国と正教国が変わるとは思わなんだ」
相変わらず悪い顔でニヤッとしてこちらを見るアイズン伯爵です…。頬は治ったはずなのにね。
「他国がネイルコードに対して心配すべきは、武力侵攻ではない。経済で太刀打ちできない国は、全てネイルコードの経済に組み込まれるようになり、結果としてネイルコードに逆らえなくなる。恐れるのなら、それこそを恐れるべきなのだ」
もっとも恐れるているのは為政者だけだがな…とアインコール殿下がぼそっと言いました。
矢継ぎ早に、ルシャールさんの祭司総長就任式が行なわれました。
ネイルコード国からはアインコール殿下、エルセニム国からはマーリアちゃんが参列ということで、これらの国の関係修復をアピールすることになります。
さらに私も参加して、ルシャールさんにゴルゲットを与えることになりました。私自身の自己評価はともかくとしても、私がゴルゲットを与えるともなれば、赤竜神の巫女が正教国を認めたと見なされるでしょう。正確に言えば、以前の正教国ではなく、ルシャールさんが立ち上げる新しい正教国と赤竜教をです。箔付けとしては十分でしょうが、多分アインコール殿下やアイズン伯爵が推したんだろうなぁ…と。
帆船クイーン・ローザリンテは大忙しで、外交官や文官、連絡員を運んで始終往復して港に一泊する時間がありません。
ザフロ・リュバン祭司も、その一便で正教国に来られ、就任式に列席しています。正教国に戻るかどうかは、まだ未定だそうですが。
リシャーフさんのお母さんでありザフロ祭司の妹さんであるフェリアナさん。…霊廟で棺桶の中でマナ付けになっていた遺体を、お墓に移しました。ケルマン元祭司総長の隣となります。リシャーフさんとザフロ祭司は墓前で長いこと祈っていました。
正教国の総祭司長と言えば、地球で言えば教皇とか国王に相当する地位です。ただ、慣例的に聖女の王配が就任していたのですが。今回は例外的に聖女との兼任となります。さらに聖騎士団団長も兼任。本来なら、権力が集中しすぎると喧々諤々となるところですが。一年で聖女以外の地位を捨てることと。祭司総長の地位は廃止して、教会のトップとしての祭司長と、新しく作られる議会で選出される行政的なトップの宰相を分けて設けるシステムを作ることを宣言することで押さえました。
リシャーフさん、凄く忙しそうですね。国政の改革もですが。教会の悪習と赤竜騎士団のような連中がはびこっているのは、ここに来るまでに一緒に周った関やら街やら、通ってきたところだけでは無いでしょう。
先行して調査する監察人員をまずはばらまき。騎士団で街々をローラー作戦で巡検することになりそうだとのことです。
…騎士は鎧の色で、祭司は体重で判別したら?と冗談で言ったら「それだ!」って言われて。さすがに容疑はきちんと調べてから処罰してくださいね。
ついでと言ってはなんですが。カリッシュの放火については賠償金が払われることになりました。結構良い額ですよ?
あと、アライさんを保護したときに払った帝国金貨が戻ってきましたね。あの後の教都での騒動を聞いた件の商人が、私が本当に本物だったということで、このままでは天罰が恐いと返却してきたのです。ただ、さすがに無料では悪いので、ネイルコードの大金貨を二枚届けてもらうように手配しました。まぁアライさんを動物扱いではありましたが、健康状態を見るにそこまで酷い扱いでも無かったようですからね。
「帝国金貨か。王室でも三枚購入して、宝物庫に納めてあるぞ」
…お買い上げありがとうございます…
「レイコ殿。その戻ってきた一枚、正教国に譲っていただけないでしょぅか?」
「リシャーフさんも欲しいんですか?」
「レイコ殿を経由して赤竜神様ご当人からもたらされた物としては、正教国でも聖物として祭壇に奉りたいと思います。教会の箔付けにもいろいろ使えますからね? 皆が見に来ますよ、これ」
とウィンクしたりしていますよ、この人。ちょっと強かになったようですね。
ザフロ・リュバン祭司は、リシャーフさんのサポートとして二年に限定して正教国に留まるそうです。ザフロ祭司曰く、ネイルコードのワインは名残惜しいとか。…リシャーフさんがネイルコードからワインを手配して留めそうですけどね。
・Side:ツキシマ・レイコ
重傷負ったマーリアちゃんはしばらくお休み。
…サラダーンはまだ症状出ていないようですが、死亡待ちです。まぁ、普通に裁判にかけられても死刑判決出ていたでしょうが、やはり気持ちが良いものではないですね。「お前はもう死んでいる」なんてセリフも笑えません。
数日して。アインコール殿下、ネタリア外相、アイズン伯爵が、新しく正教国代表となったリシャーフさんと会談です。
私も呼ばれましたよ。
当然の流れですが。教会からのネイルコードに対する破門の話は白紙となりました。同時に、私の巫女としての扱いは、正式にネイルコード国の赤竜教教会、正教国から見ると正教会ネイルコード国支部管轄となりました。まぁ、私自身はネイルコードに滞在して、宗教関係からの接触はネイルコードの教会窓口に集約される…という以上のことはないんですけどね。教会に纏わる問題は、とりあえず巻き戻しとなりそうです。
赤井さんが赤竜神である以上、今後もまったく無関係とも行かないでしょうけど。適度な距離を測っていきたいところですね。
カリッシュについては、正教国に戻した上でサラダーンの介護をさせるそうです。
サラダーンは今はまだ牢の中で元気ではありますが、今後どうなるかは治療院に伝えてあります。まさに神の祟りがこれから発現と、恐々としていますが。カリッシュにはその神罰の発現を間近で見てもらうということになりました。エグい罰を考えますね、だれの発案だろ?
カリッシュ自体の処分は、その後の彼の変化によって再検討だそうです。
正教国は、政教分離のための教会と政治を分離した組織作りから改革を始めることになります。 今までは、立法と行政と司法まとめて教会で牛耳っていましたからね。
お金は大事です。ですから拝金派が絶対悪というわけでもないのです。ただ、そこに宗教が入ると、具体的に何にお金を使うという話よりは、私腹を肥やす方に流れがちになるんですよね。
「立法した者が、それに沿った行政を行う責任を持ち、それが正しく行なわれているかを司法で管理するべきではないのかい?」
アインコール殿下に聞かれました。三権まで分離するのが非効率に感じるようです。施政する側と監視する側、この二つで良いのでは?という意見ですね。
まぁ確かに、小さい政府なら分ける数が少ない方が効率は良いんでしょうが。
「権力が集中すると腐ることが前提なんですよ。例えば特定の商会に都合の良い法律作って、予算偏らせて、不正を見逃して賄賂を貰うとかですね。アインコール殿下やアイズン伯爵らが不正するなんてことは無いでしょうけど、穴を潜ろうという者は必ず出る…という考えです」
「ふむ…なるほど。必ず腐るか… まぁ金が集まるところにはたしかにそういうのが集ってくるな」
正教国である以上、宗教色は皆無とはなりませんが。改革後は立憲立法の指針として口出す程度となります。行政を司る文官には、必然的に祭司出身者が多くなりますが、徐々に一般からの登用も増えるでしょう。
司法については、まずは刑法の明文化と、そこからの宗教色の排除が構想されています。一般人の教会に対する義務みたいなものまで記載されていて。それこそ異端審問で死刑なんてものもありますからね。
司法の管轄は、騎士団の上位が司るのは、ネイルコードと同じですね。地球での警察関係は、ここでは騎士団の仕事です。ここも最初は聖騎士団が関わるのは、致し方ないところですか。
リシャーフさんは、聖女であるとともに騎士団長でもありますので、しばらくは"王"と変わらない立場となりますが。次代までには改革を終わらせると張り切っています。
商法と民法は、既にある者を基礎に時代の要求に合わせて改善していけば良いでしょう。
あとびっくり。ザフロ祭司が教都に召喚されることになりました。リシャーフさんが是非助けて欲しいとのことです。先代聖女の兄で、現聖女の叔父ですからね。
実際の招喚の交渉はこれからとのことですが、実現したら、六六が寂しくなりますね。
奴隷制の廃止と、人種民族宗教による差別の廃止。これも明文化されます。私の名前も使われますけど、致し方無しですか。
この辺、正教国なのに非信心者がはびこることになるのでは無いかと、反発する祭司が結構いるそうですが。
「どうせ今までは、前例が無いとか神の御心にそぐわないとか程度の言葉で異論反論を封じてきたんでしょうけど。あなたたちも知識層を自認するのなら論破しなさい、論破。権威で他人の言論をねじ曲げようだなんて、あなたの首の上に乗っている物は飾り物?」
人種では無く故人の能力で。所属する宗教組織に頼るのでは無く、共存するか論破しろと。まぁこんな感じです。
巫女からこう言われては、教会に所属するものとしては知能で勝負するしかなくなるでしょう。
「学問に対して、経典を理由にした否定や弾圧もこれを禁止します。…例えば、太陽は世界の周りを回っているなんて…言ってる?」
「えっ? 違うのかい?」
アインコール殿下…だけではなく、ここに居る人みんながぽかーんとしてますね。
「いや…数十年前、暦を作っている祭司がそのようなことを言っていたという話を聞いたことが…」
同席している祭司さんには心当たりがあるようです。
「太陽の大きさは、この世界の直径の百倍くらいありますからね」
「…そ…そんなに大きいのですか?…しかしあんなに小さく…」
「この世界の方がその場で一日一回転していて、さらに一年かけて太陽の周りを一周しているんです。太陽までの距離は一億ベール以上ありますよ」
「一億…一万の一万倍ですな…遠すぎてちょっと想像できないですな」
皆が窓の外の太陽を眺めています。今日はだいたい晴れ、少し雲。雲を透かせて丸い形が見えています。目がいい人には、横線も見えるのでしょう。
「地球でも、太陽の方が回っている…天動説って呼ばれていましたけど、それを唱えた人が教会から迫害されていました。教会が間違いを認めて謝罪するのに四百年くらいかかりましたけど。太陽までの距離が分かれば太陽の大きさが分りますから。太陽が世界の周りを回っているってのに無理があるのは、いずれ皆が知ることなのです」
「…まぁ、間違いを認めることは、権威にとっては致命的じゃからの。言い訳だけは人一倍…っと失礼」
アイズン伯爵がぽろっと言いかけますが、ここが教会だとというの思い出して続きは慎みました。まぁ言いたいことは分ります。自分が正しいということを前提から降ろせない人とは、議論が成立しないですからね。
「教会が間違いを認めることは権威が傷つくから出来ないというのなら、そもそも何が正しいということも安易に言うべきではないです。だから、宗教は学問に口を出すなってことで」
ケルマン総祭司長についてはそのまま葬儀が執り行われました。
この人、私視点だと全く無実というわけでもないのですが、もともと祭司総長の権限内でやっていたと言われれば間違いでも無く。これを罪とするには遡及法となってしまいます。
サラダーンを放置し、マナ操作の人体実験を後押ししてきた彼ですが。リシャーフさんを庇って亡くなった後に鞭打つつもりはありません。
ただ、葬儀自体は教会関係者や参列できる近くに住む人達だけで、静かなものとなりました。各領や各国へは。外交の文官を通じて連絡だけ入れられることになりそうです。
リシャーフさんの罪状については、真っ白。…この辺は、ケルマン総祭司長の親心だったのでしょうか、後ろ暗いことには一切関わらせて居なかったようです。
サラダーン元祭司長について細かい描写は止めましょう。
あのカリッシュは治療師の助手としてサラダーンの介護をしていますが。それ以外の時間は治療院内の祭壇に向かって毎日長時間祈っている所を見ると、その惨状が分かるという物です。
経過観察もしている治療師さんからは…ほんと巻き込んでごめんなさい、もろもろ含めてあと数日しか持たないだろうとの見立てでした。アインコール殿下曰く、この辺の詳細は、本物の天罰のとして故意にリークしてもらっているそうです。…これが抑止力になることを祈ります。
周辺国は、正教国の政変に対して静観を続けています。
正教国に直接国境を接しているのは、ダーコラ国の他に5カ国。さらにその西にいくつもの国があるそうで。その西の果ての向こうには砂漠が続き、海に突き当たって終点だそうです。
お父さんが、赤道付近を除けば、だいたい大陸の東側は湿潤で西側は乾燥しているって言ってました。ここの大陸でも同じ感じのようですね。
皆が大陸と呼んではいますけど、どれくらいのサイズなんでしょうね? 私は、せいぜいヨーロッパ大陸程度だと思っているんですけど。東方諸島に、さらに東に行くと魔女の帝国の大陸があると言われています。おそらく他にもいくつもの大陸があるのでしょうし、アライさんも比較的近くにある大陸が出身地じゃないかなんて推測しています。
あ…大航海時代に必要な天測と航海技術が頭に…レッドさんがニコニコとこちらを見ています。ギュッとしました。でも、地図はくれないのね。
赤竜教の権威、正教国の武力、両方から圧力を受けていた周辺国は、正教国がネイルコードに屈服したという報を受けて瞬間蠢動はしたのですが。サラダーン祭司長に下った天罰の詳細のリーク、赤竜神の巫女のレイコ・バスターの詳細記録のネイルコードからの提供、そしてリシャーフさんが"許された"という事実に、ネイルコードとのは関係修復がなされたと判断したようです。この辺を鑑みて、軍事的に動くことは諦めたようですね。
その代わり、ネイルコードの動きに警戒しつつも、今後ネイルコードにすり寄ってくる国は多そうですが。ネイルコードが正教国以西に侵攻といった具体的な動きを見せなければ、それも沈静化するだろうとはアインコール殿下の言です。まぁ、交易や文化的交流なら歓迎するという挨拶は、正教国と連名で送るようですが。
あと。ハバエラ主任は辛うじて生き延びました。あちこち骨折してしばらく寝たきりですけどね。マーリアちゃん刺しやがって、生きているだけありがたいと思いやがれ。
ハバエラの研究施設、これが結構大きな規模で研究員も多かったのですが。そこから例のユルガルムの蟻が出てきました。
昆虫に対するマナ投与の実験の結果、数十世代を得て出来上がったそうですが。ユルガルム領に出た蟻はどうやらここから持ち込まれたようですね。どう言う経緯で炭鉱の奥に住み着くことになったのかは、サラダーンの残した書類なども精査する必要がありますが。ネイルコード国内の協力者をあぶり出すと、ネタリア外相が悪い顔しています。
他の国に魔獣を解き放つ、普通に考えて戦争行為と大差ないのですが。アインコール殿下は、今回の件もろもろを正教国に対する"貸し"とするようです。今の正教国を責め立てたところで得るものはありませんので、リシャーフさん本人に恩を売った方が得だと判断したのでしょう。とりあえず直近の得として、恣意的に変動されていた正教国以西の国々との交易に関する関税の明文化と、正教国のエルセニム人奴隷を全てエルセニム国に帰還させることが決定されました。嫌がらせの税はこれで違法化されますし、エルセニム人連れ去りの問題も現在出来うる限りのことがなされます。
あと。正教国のエルセニム国への謝罪とか賠償は直接的にはありません。私からすれば違和感はあるのですが。アインコール殿下曰く、「当時のエルセニム国が弱いのが悪い」んだそうです。
勝ったから過去に遡ってと謝罪と賠償をなどは、勝った負けたの都度それを繰り返すのは不毛だとか。エルセニム国とダーコラ・正教国連合との戦争は既に決着して、一方的な条件とはいえ正式に講和は成立しています。国家間で決着が付いているのですから、いまさらこれは覆せないようです。
奴隷制度も正教国では合法でした。エルセニム人を奴隷にしたことについても、それを咎めることは遡及法になってしまいます。
それでも。リシャーフさんがマーリアちゃんに頭を下げていました。新法によって奴隷制は廃止されエルセニム人の奴隷も解放されますし、正教国の奴隷の扱い方の法から逸脱した部分があれば補償されます。今はこれで飲み込む必要があります。
アイズン伯爵は、こちらの文官と連日会議モードです。奴隷制の廃止に伴う経済混乱の解消と、今後の経済振興指針ですね。なんか私も誘われて出席しています。
動けるようになったマーリアちゃんも勉強になるじゃろとばかりに、伯爵に誘われて参加して聞いていますが。…席の後ろに寝転ぶセレブロさん、その上で戯れるアライさんとレッドさんまで。ちょっと面白い光景です…私もそっちいきたい…
「これが奴隷を全て解放した場合の予測ですか… 奴隷が市民となってお金を使う、それで商人が儲かる、税収も増えると… そこまで上手く行く物なのか…」
「そもそも、労働者の賃金は、その労働力で得られた利益から賄われるわけじゃからな。奴隷制を廃したところで、雇い主が賃金を払うようになるだけで、商会の商売が細るわけじゃないから、そちらからの税が減るわけじゃ無い。まぁ商会が只で使っていた奴隷に賃金が発生わけだから一時的に商会の利益は減るが、まぁその程度という話じゃな」
奴隷、無料の労働力がいないとやっていけないような商会はもともとギリギリなので、そういうところは除外しますけどね。
「一時的ですか?」
「ふむ、ここが肝じゃな。賃金を貰った元奴隷はその金をどうする? 当然物を買うじゃろ。元奴隷が金を使うだけじゃない、その増えた客層に物を売るために、商会はその規模を大きくしなければならん」
「なるほど…元奴隷が客として動くようになることで、商会の商いの規模も増える、いや増やさなくてはいけないと…」
「それでこのエイゼル市での数字じゃ、だいぶ古いがな。わしがスラムを解体した後の紡績関係の商会の商い規模の推移じゃ。その商会では、スラム出身の人間を大量雇用して、布から服まで今も大量に生産しておる。服の類いは、買う人間が減ることは無いからな」
ランドゥーク商会のことですね。この頃からの活動なんだ。
「す…すごい増加ですね。税率を下げてるのに税収は増える…」
「漁船なんかを作っている工場も、何倍にも仕事が増えたぞ」
「元奴隷が船を買うんですか?」
「魚の需要の方が増え、漁村での船の需用が増えたということじゃ。もちろん、漁村で雇われる者達も増えるがな。直接的にも間接的にも、動く金が増えれば儲けるところが出てくる」
「な…なるほど」
アイズン伯爵、なんか生き々々としていますね。
「さらに人口も増える。生活に余裕が出来た者らが所帯を持つようになるからの。商売を増やすだけでは無く、増える人の分だけ予め農地も広げなくてはいかん。将来の労働力たる新たに生まれてくる子供らを飢えさせるわけにはいかんからな。さらにそれら産物を運ぶための街道の整備等も。これらを五年先、十年先を見通しつつ、予め計画しておく必要がある。年5分で人口が増えたとしても、10年で6割の人口増加じゃ。無策ではおられんぞ」
「…いいのですか?アイズン伯爵。本来なら国家の機密として扱われそうな内容に思われるのですが…」
「なに。我が国に訪れてちょっと勉強すれば、これくらいはすぐに分る。それにな、国と国が経済的に結びつけば、おいそれと戦争が出来なくなる。この辺は陛下もご承知じゃ」
「ネイルコードでは、王としての教育の際にその辺のことは叩き込まれたんだよ。父上…クライスファー陛下も、アイズン伯爵の元で文官の経験が、それが相当役に立っているらしい」
またアイズン伯爵が、正教国の文官祭司に対してニヤッと笑ってます。
「おぬしらはこれから、これらのことを国内の商人豪農だけではなく、正教国傘下だった国々も説明し、奴隷の解放をさせねばならん。大変じゃぞ?」
「…国内はなんとかなるでしょう。問題は他国なのですが…」
「それこそ飴と鞭じゃな。先ほどの説明に加えて、奴隷制を続けていれば赤竜神の巫女様が天罰を下しに来る…とでも言えば良い。なんだかんだで前例ができてしまったからの。正直、ここまで短期間にダーコラ国と正教国が変わるとは思わなんだ」
相変わらず悪い顔でニヤッとしてこちらを見るアイズン伯爵です…。頬は治ったはずなのにね。
「他国がネイルコードに対して心配すべきは、武力侵攻ではない。経済で太刀打ちできない国は、全てネイルコードの経済に組み込まれるようになり、結果としてネイルコードに逆らえなくなる。恐れるのなら、それこそを恐れるべきなのだ」
もっとも恐れるているのは為政者だけだがな…とアインコール殿下がぼそっと言いました。
矢継ぎ早に、ルシャールさんの祭司総長就任式が行なわれました。
ネイルコード国からはアインコール殿下、エルセニム国からはマーリアちゃんが参列ということで、これらの国の関係修復をアピールすることになります。
さらに私も参加して、ルシャールさんにゴルゲットを与えることになりました。私自身の自己評価はともかくとしても、私がゴルゲットを与えるともなれば、赤竜神の巫女が正教国を認めたと見なされるでしょう。正確に言えば、以前の正教国ではなく、ルシャールさんが立ち上げる新しい正教国と赤竜教をです。箔付けとしては十分でしょうが、多分アインコール殿下やアイズン伯爵が推したんだろうなぁ…と。
帆船クイーン・ローザリンテは大忙しで、外交官や文官、連絡員を運んで始終往復して港に一泊する時間がありません。
ザフロ・リュバン祭司も、その一便で正教国に来られ、就任式に列席しています。正教国に戻るかどうかは、まだ未定だそうですが。
リシャーフさんのお母さんでありザフロ祭司の妹さんであるフェリアナさん。…霊廟で棺桶の中でマナ付けになっていた遺体を、お墓に移しました。ケルマン元祭司総長の隣となります。リシャーフさんとザフロ祭司は墓前で長いこと祈っていました。
正教国の総祭司長と言えば、地球で言えば教皇とか国王に相当する地位です。ただ、慣例的に聖女の王配が就任していたのですが。今回は例外的に聖女との兼任となります。さらに聖騎士団団長も兼任。本来なら、権力が集中しすぎると喧々諤々となるところですが。一年で聖女以外の地位を捨てることと。祭司総長の地位は廃止して、教会のトップとしての祭司長と、新しく作られる議会で選出される行政的なトップの宰相を分けて設けるシステムを作ることを宣言することで押さえました。
リシャーフさん、凄く忙しそうですね。国政の改革もですが。教会の悪習と赤竜騎士団のような連中がはびこっているのは、ここに来るまでに一緒に周った関やら街やら、通ってきたところだけでは無いでしょう。
先行して調査する監察人員をまずはばらまき。騎士団で街々をローラー作戦で巡検することになりそうだとのことです。
…騎士は鎧の色で、祭司は体重で判別したら?と冗談で言ったら「それだ!」って言われて。さすがに容疑はきちんと調べてから処罰してくださいね。
ついでと言ってはなんですが。カリッシュの放火については賠償金が払われることになりました。結構良い額ですよ?
あと、アライさんを保護したときに払った帝国金貨が戻ってきましたね。あの後の教都での騒動を聞いた件の商人が、私が本当に本物だったということで、このままでは天罰が恐いと返却してきたのです。ただ、さすがに無料では悪いので、ネイルコードの大金貨を二枚届けてもらうように手配しました。まぁアライさんを動物扱いではありましたが、健康状態を見るにそこまで酷い扱いでも無かったようですからね。
「帝国金貨か。王室でも三枚購入して、宝物庫に納めてあるぞ」
…お買い上げありがとうございます…
「レイコ殿。その戻ってきた一枚、正教国に譲っていただけないでしょぅか?」
「リシャーフさんも欲しいんですか?」
「レイコ殿を経由して赤竜神様ご当人からもたらされた物としては、正教国でも聖物として祭壇に奉りたいと思います。教会の箔付けにもいろいろ使えますからね? 皆が見に来ますよ、これ」
とウィンクしたりしていますよ、この人。ちょっと強かになったようですね。
ザフロ・リュバン祭司は、リシャーフさんのサポートとして二年に限定して正教国に留まるそうです。ザフロ祭司曰く、ネイルコードのワインは名残惜しいとか。…リシャーフさんがネイルコードからワインを手配して留めそうですけどね。
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