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第4章 エルセニム国のおてんば姫

第4章第009話 ダーコラ国への遠征

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第4章第009話 ダーコラ国への遠征

・Side:ツキシマ・レイコ

 はい。伯爵家に呼ばれました。
 マーリアちゃんも貴族街への入城許可が出て、同行です。

 「お初にお目にかかります。エルセニム国王女 マーリア・エルセニム・ハイザート殿下。私、この街の領主を賜っておりますバッシュ・エイゼル・アイズン伯爵と申します」

 おお。出迎えた伯爵がマーリアちゃんに丁寧な挨拶をしてます。マーリアちゃん戸惑っていますが。
 確かに、伯爵と王女ではマーリアちゃんの方が格上なのですね。

 「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。エルセニム国王バヤルタ・エルセニム・ハイザートと王妃コリーマ・エルセニム・ハイザートの娘、マーリア・エルセニム・ハイザートと申します。この度はいろいろとご迷惑おかけしており、お詫び申し上げます」

 こちらの世界でも、カテーシーは似た雰囲気ですね。着ている者は旅装束で、豪華さとは無縁ですが。落ち着いて優雅に返しています。…本当にお姫様だったのね、マーリアちゃん。
 ダンテ隊長とエカテリンさんは、食堂でのマーリアちゃんを見ているので、びっくりしています。

 「で、こちらが私のパートナーのセレブロです」

 …マーリアちゃんの席の後で寝転がって大人しくしている巨大な銀狼。レッドさんがまた上に寝そべっています。その位置が気に入りましたね?
 アイズン伯爵と護衛騎士さん達は、ちょっとビビってる?

 「う…うむ。よしなにな。にしても、クラウヤートの白狼にも驚いたが。それに輪をかけてすごい狼じゃな」

 控えている侍女さん達もビビっていますけど。大丈夫、大人しい子ですよ?



 「では。まずはダーコラ国の反応じゃな。ネイルコードの王室経由で抗議を送って返答が着たのじゃ我。簡単に言えば、今回の件はエルセニム国側の自作自演でありダーコラ国に責は無く。ダーコラ国から拉致したマーリア姫の返還と、レイコ殿を引き渡しを求めておる」

 エカテリンさんが、「当たり~」と小さくガッツボーズしていますが。こんなの当たってもうれしくないですよ。
 ダンテ隊長も苦笑しています。
 予想通りすぎて、なんといったらいいのやら。まだ私を諦めていないんですか? しつこい男は嫌われますよ。もう嫌いですけど。

 「まだ正式な宣戦布告の後で軍属を出したとかならまだしも、暗殺が露見したのと同じじゃからな。更なる抗議の意味を兼ねて王妃自らダーコラ国へ赴かれることになった」

 地球でのルールからは外れますが、こちらでは宣戦布告後なら暗殺はありのようです。もっとも、暗殺の応酬になるのを恐れてそうそう取られる手段でもないそうですが。

 「ローザリンテ殿下自らですか?」

 「ローザリンテ殿下はダーコラ国の出身じゃからな、里帰りの意味も込めて…なんてのは表向きにもならんが。ネイルコード国海軍の軍船八隻に兵員を満載してダーコラ国に送り込むための建前じゃ。まぁ、いいかげんネイルコード国も本気で腹を立てているという示威じゃな」

 ローザリンテ殿下は確か。ダーコラ国の先代国王の弟の娘…でしたっけ。
 もともと友好のためにネイルコード国に嫁いできたので、国同士の縁戚強化のためにダーコラ国の王位継承権は剥奪されていないと聞いています。まぁお飾りの継承権ですが、形式に面子を乗せるダーコラ国には無視できる物でも無い…とのことです。

 「前の国境紛争では、ダーコラ国も兵を一万出していたと聞いていますけど。船八隻分の兵で大丈夫なんですか?」

 「ダーコラ国の兵は、基本的に八割が民からの臨時徴兵じゃったからな。純粋な兵や騎士はそう多くない。もちろん、ネイルコード国本土からもあの国境脇にも兵を出して、そちらからも圧力をかける。ダーコラがわからすれば、エルセニム国側に貼り付けている兵力も剥がせぬからな、ダーコラの国力では一度に対応は難しかろうな」

 同数なら確実にネイルコード国側の有利で。五倍差でも勝てるとはいいませんが、けっこうな兵数差があっても質の差で覆せる…と言うことらしいです。
 うーん。国境紛争の時、ダーコラ国はどうやって勝つつもりだったんでしょうか? あの赤い鎧の人の事です、精神論でなんとかなると思ったのか、自分に超越した軍才でもあると勘違いしたのか。オルモック将軍の困り顔が浮かびます。

 「ローザリンテ殿下からは、レイコ殿に念押しして欲しいと言い含められておるのじゃが。ネイルコード国はダーコラ国を侵略しようとかは考えておらん。正教国との断衝国としてそこそこ役には立つのでな。ただ、前回の国境紛争や今回の刺客など、ちと嫌がらせが目に余るようになってきたのでな。ここで一つ、ガツンとしておくべき…という意見で、王宮がまとまってな」

 そこはもう何というか。ダーコラ国に対してなら仕方が無いかもと私も思いますが。

 「…ローザリンテ殿下が危険ではないですか?」

 「常識的に考えれば、もしローザリンテ殿下を害したらそれこそ国滅ものじゃ。ネイルコード国はゆるさんからの。…万が一の話ではあるが、もしそうなった場合にはレイコ殿にはダーコラ国への本格的侵攻を黙認していただきたいとのことじゃが。まぁもちろんそうならないように手は尽くすじゃろうがな」

 ローザリンテ殿下に…と言うより、王都側にそれだけの覚悟があるということでしょう。
 逆に、ダーコラ国にはそこまで覚悟するような必要も無いと思いますが。それだけローザリンテ殿下の警護に自身があるようですね。

 「ローザリンテ殿下は、ダーコラ国の王族として現ダーコラ国国王の退位を迫るおつもりじゃ。次期国王には何人か候補があるが、実際にローザリンテ殿下が会った者は居ないのでな。その辺の見定めのためにもローザリンテ殿下にはダーコラ国へお出まし願うというわけじゃな。そのための八隻分の兵だし、さらにはレイコ殿にも護衛として参加して欲しいとのことじゃ」

 やはり私も計算の内ってことですね。

 「マーリアちゃんについては?」

 「マーリア様に関しては、すでにネイルコード国への亡命をされた…と言うことになっているが。いかがじゃな?姫」

 「私自身は構いませんが。私がネイルコード国に付いては、ダーコラ国の同胞の扱いが心配です」

 「今回のローザリンテ殿下の遠征では、エルセニム国の扱いと奴隷制の廃止、この辺も改革を迫ることになるな。同国人同士を戦わせるような非道は、放置して置かんよ。…主にレイコ殿がな」

 なんかいきなり話を振られました。
 うーん、これも侵略といえば侵略なのかもしれませんが。ダーコラ国がしでかしたことも、なあなあで終わらせたら今後碌な事にならないように思います。やはりここはわたしもガツン派ですね。

 「しかたないですね。私も協力します」

 心なしかアイズン伯爵が安堵したように見えます。まぁいろいろ利用されている感じもしますが、ここでの平穏な暮らしのためには避けては通れない障害と思うことにします。
 だいたいの方針が分ったところで。マーリアちゃんがいきなり立ち上がり、頭を下げました。

 「赤竜神の巫女ツキシマ・レイコ様、小竜様、アイズン伯爵。この度は私の早とちりでご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 「マっ…マーリアちゃん。どうしたのいきなり?」

 「いや、まだレイコにはちゃんと謝っていなかったと思って。…あの決闘、普通なら死なせていたし」

 マーリアちゃん、頭下げたままです。

 「謝罪は受け入れるから、頭上げて欲しいかな」

 「クーッククーッ!」

 「ほら、レッドさんも気にしていないって」

 マーリアちゃんがやっと頭を上げます。

 「うん。ありがと、レイコ。…ローザリンテ殿下にも、お礼と謝罪がしたいけど…」

 「まぁ機会はすぐにでもあるじゃろ。ただ、ローザリンテ殿下はネイルコード国の国妃じゃ。情を計算に入れはしても、情だけで動くこともない。今回もネイルコード国の利益は十分考えておられる。余り気にすることも無いぞ」

 「…はい」

 マーリアちゃんが正教国のゴルゲットを外してテーブルに置きます。

 「これをお預けします」

 「…ふむ。了承した」

 後で聞きましたが。ゴルゲットを預けるってのは、完全降伏とか自身の扱いをお任せしますという意味になるんだそうです。
 


 「おじいさまっ!」

 バンと扉を開けてはいってきたのはクラウヤート様です。

 「なんじゃクラウヤート。礼儀がなっとらんぞっ」

 「申し訳ありませんっおじいさま。ここにでっかい狼が来ているって聞いて! ああ、この子ですか? すごい!大きい!」

 「しょうがないの。マーリア姫、こちらは私の孫のクラウヤート・エイゼル・アイズンじゃ。クラウヤート、こちらはエルセニム国王女マーリア・エルセニム・ハイザート殿下じゃ。きちんと挨拶せい」

 「失礼しました! クラウヤート・エイゼル・アイズンです!」

 「マーリア・エルセニム・ハイザートです。よろしくね?クラウヤート様」

 おお?クラウヤート様、マーリアちゃん見て赤くなっています。まぁマーリアちゃん、すっごい美少女ですしね。
 …あ。部屋の入り口の処にバール君が…セレブロさんを見て、尻尾が後ろ足の間に隠れています。あなたも結構な大型犬なんですけどね、セレブロさんが恐いですか?

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