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第2章 ユルガルム領へ

第2章第027話 王子と王女

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第2章第027話 王子と王女

・Side:ツキシマ・レイコ

 美味しいものに使える食品量産と、連座の廃止については、了承いただけましたので。とりあえず私は会議室を退出です。
 アイズン伯爵も含めて、皆さんはもうちょっと会議を続けるそうです。まぁ、私がいるところでは出来ない話をするのでしょう。

 そろそろお昼です。庭園の見えるテラスで、軽食をいただけることになりました。
 庭園より一段高いところにテラス付きの応接室がありまして。そこから整った庭園を見渡せます。庭の感じは、西洋の庭園という感じですね。天気も良いですし、素晴らしい眺めです。

 お?卵サンド? どうやら、タルタルソースをサンドの具に流用することをここの料理人は思いついたようです。
 こちらの国では、カトラリーにナイフがない分、サンド系の手で持つ食べ物には、特に抵抗はないようですね。手を洗うボールとお手拭きも常備されています。

 ついてきた護衛と侍女の人が毒味を申し出てきましたが。私には毒が効かないことを説明して辞退しました。
 んー、それでも、サンドはお皿に一杯盛り付けられていて、とても一人では食べきれない量ですね。毒味の体裁で皆さんにも召し上がっていただきましょう。おいしいですよ?これ。



 食事も終わって、暇になりました。
 警備の騎士さんは先ほどと同じ方だったので、ムーンウォークやパラパラの教示なんかしております。
 面白い足運びに、侍女さんもトライしてます。…裾持ち上げて自分の足運びを確認しているメイド服。なんか絵になりますね。お、騎士さん良い感じにマスターです。あれは結構、足首周りの筋力が必要なんですよ。重たい鎧着ていて良く出来ますね。

 ムーンウォーク。体重をかけていないように見えるつま先立ちした方の足に体重かけて。体重かけているように見える足には体重をかけずに後ろにスライドさせる。スムーズにするには練習が必要ですが、原理は結構簡単です。



 「プリンの方がここにいるて伺ったのですが!」

 私はハムの人ですか?
 庭の方からテラスへ、女の子が駆け込んできました。うしろから騎士さんと侍女さんも追いかけてきています。

 「クリス! 巫女様なんだから失礼の無いようにって言われているだろ!」

 今度は男の子。

 「はいお兄様! 赤竜神の巫女様、はじめまして。クリステーナ・バルト・ネイルコードと申します」

 小三くらい? ブロンドとまでは行かないけど、薄いブラウンの軽くウェーブした髪の毛の女の子。ネイルコードとついてるので、お姫様ですね。
 ちょっとたどたどしいカテーシーが、微笑ましいです。

 「はじめまして、赤竜神の巫女様。王太子アインコール・バルト・ネイルコードの嫡男、カルタスト・バルト・ネイルコードと申します」

 おお。こちらは王子様!うん、利発そうなお子様です。見た目の年齢は私と同じくらい?

 「ご丁寧にありがとうございます。ツキシマ・レイコと申します」

 「レイコ様!レイコ様がプリンを考えられたと伺ったわ! 素晴らしいお菓子でした!あんなの初めて」

 「僕は、魚のフライが良かったな。正直魚はちょっと苦手だったんだけど。あのソースと一緒なら、いくらでも食べられるよ」

 お気に召していただき幸いです。

 「あの。そちらの子はもしかして」

 クリステーナ様が、机でお菓子摘まんでいるレッドさんを見つけます。

 「はい。レッドさんです、よろしくお願いしますね」

 「うわっ。本当に赤くて角と…これは羽?」

 これ見たいの?とばかりに、レッドさんが羽を広げます。

 「わー。すごいすごい! レイコ様、レッド様は飛べるですよね?」

 もちろんです。
 試しに、テラスからポンと放りだしてやると。殆ど羽ばたかずにスーと庭を一周して戻ってきました。…鷹匠みたいですね。

 レッドさんも、普通の鳥のように羽ばたいて離陸したり、ホバリングも出来るのですが。あの大きさの羽をバタバタすると、突風やら埃が舞うやらで、けっこう周囲に迷惑をかけるのです。室内で羽ばたくなんてもってのほか。
 …よく漫画やゲームに出てくるお供キャラは、どうして主人公の周りをふわふわ出来るんでしょうね。
 お父さんは、「主人公と同じ画面に収まるために飛べるようになっている」と言ってましたけど。

 クリステーナ様は、レッドさんを抱っこしてご満悦です。
 カルタスト様も、うれしそうに撫でています。

 「レイコ様。レッド様に掴んで貰って飛べませんか?」

 クリステーナ様が無茶降りしますね。
 レッドさん、体本体はせいぜい仔犬程度です。この子に乗る上に乗るのは無理でしょうけど。
 え?私を吊して短距離滑空するくらいなら行けるかもとレッドさんが言っています。 …やってみましょう。

 レッドさんが頭の後ろに位置し、翼を目一杯広げます。
 私が庭に駆け下りて助走を始めると、レッドさんの翼がボウっと光り、さらに思いっきり羽ばたきます。浮いた!

 …は良いのですが。レッドさんは、私の頭にしがみついてる形なわけで。私の頭から下は、ぶらーん状態なわけで。
 クリステーナ様は、レッドさんに両手を掴んで貰っての飛行とかを想像していたのでしょうが。…この絵面は、宙を舞う首つりと大差ありません。

 ばっさばっさ。浮くのが精一杯で、あまり速度も出ませんね。とりあえず、庭を一周して戻ってきました。
 クリステーナ様は、泣きそうな顔をしています。

 「…無理なお願いをして申し訳ありません…」

 カルタスト様に謝られてしまいました。クリステーナ様のフォロー、お願いします。夜にうなされそうな顔していますので。



 お二人とわいわいしていたところ、会議が終わったのか、国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、アイズン伯爵が来られました。

 「お父様!」

 「一緒にいたのか。二人とも、レイコ殿ご迷惑かけていないな?」

 アインコール殿下がクリステーナ様を抱っこして聞いていますが。…周囲のお着きの人は、微妙な顔をしています。

 「…何かあったのか?」

 付き人の反応に、アインコール殿下が訝しげな顔をしますね。あとでカルタスト殿下に聞いて下さい。

 クライスファー陛下が私の所に来ます。

 「ふむ、早速二人と仲良くなったか。孫達とも、今後も仲良くしいただければ幸いだ」

 うーん。実は陛下の思惑には、なんとなく気がついています。これで見当違いなら、うぬぼれも良いところなのですが。一応言っておきましょう。

 「陛下。私のこの体はこれ以上大きくならないですし。子供も出来ないそうです。赤井…赤竜神が言ってましたので」

 陛下、驚いた顔をしています。やっぱそういうことだったようですね。

 「でも、お友達と言うことなら、大歓迎ですよ」

 カルタスト様は、変に王子と言うことをひけらかしていないですし。うーん、妹の奔放さがいい反面教師になっている? 
 クリステーナ様ももちろん良い子ですよ。

 「ふ…ふむ。まぁ、よろしくお願いする」

 陛下、ドキマギしています。



・Side:クライスファー・バルト・ネイルコード

 嫡男アインコール。我が息子ながら、些か威厳が物足りないが。王太子府を善く取り仕切り、国政にも幅広く関わって実績を積んでいる。王子と呼ばれつつも、もう三十三歳だ。わしがいつ隠居しても心配は無いだろう。

 次男カステラード。今は国軍のトップだ。王としての威厳なら、兄よりむしろこやつの方がとも思うが。国の剣として盾として、兄を支えると広言して憚らない。此奴を王に推す勢力はそこそこ残ってはいるが、小さい頃からの兄弟仲も良かったので、この辺は特に心配していない。
 それでも東西領の武断派や他国の工作員がカステラードに接触してきてはいるが。本人は、むしろ監視がし易かろうと情報を丸ごと妻に流している。

 妻ローザリンテ。誰もが知ってはいるが誰も実態は知らない、ネイルコード王国の"影"。この組織を率いているのは、実は我妻だ。ダーコラ国から輿入れしてくる際に彼の国を見限り、これら組織を丸ごと率いていた。おかげでダーコラ国の諜報能力は激減して、現在でも回復しきっていない。この事は、我が国の大きな助けになっている。
 今は、影を受継ぐものとして王太子妃ファーレルの教育に余念が無い。

 「非力だからこそ、女の方が腹黒いことは得意なのですよ」

 とは、妻の言だが。…私は妻を非力だと思ったことなぞ未だかつてないぞ、うん。むしろそう言い切る妻が怖い。
 "影"は、もちろん我が国の諜報工作の要であり、レイコ殿のことをいち早く詳細に掴んで接触できたのも、妻と影の功績だ。

 レイコ殿の年格好を聞いてまず思い浮かんだのは、我が孫カルタストとの縁組みだ。カルタストは、ちょうど十歳となる。今から交流を育めば、十年後には赤竜神の眷属と王家の間に血縁が…と思ったのだが。

 「私のこの体はこれ以上大きくならないですし。子供も出来ないそうです」

 偶然を装って孫に会わせたわしの思惑は、レイコ殿にはお見通しか。

 まぁ致し方ない。
 子が成せぬのなら、永劫巫女であり続けられるということだ。他勢力がレイコ殿に接触しようとする動機の半分はこれで消滅するし。男と関係が持てないのなら、御伽噺だかの帝国の魔女のようなことにもならないだろう。

 …ふむ。残念ではあるが、これはこれで良しとしておこう。

 ところでクリスよ。レッド様をおじいちゃんにも抱っこさせてくれないかね? クリスごと抱っこでもいいぞ。

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