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第2章 ユルガルム領へ

第2章第021話 連座

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第2章第021話 連座

・Side:ツキシマ・レイコ

 アイズン伯爵にお呼ばれしたので、貴族街に向かいます。今回は、私とレッドさんだけです。

 手配された馬車で伯爵邸に着くと、クラウヤート様がバール君を連れて出迎えてくれた。二人とも仲が良さそうでなにより。
 バール君、首輪ならぬ銀のゴルゲットを着けています。おお、アイズン伯爵の紋章入り!
 ほぼ毎日、バール君を連れて貴族街を散歩するそうですが。他の貴族令嬢にも、このモフモフが大人気だそうで、よく撫でさせてくれと声をかけられるそうです。…人気なのはバール君だけかな?

 屋敷に入っると、執務室の方に案内されました。ダンテ隊長も一緒です。
 応接室や食堂より、シックな雰囲気です。木目を生かした棚や机。うん、いかにも書斎という感じがいいんだよね。渋いです。

 「ご足労戴き感謝する、レイコ殿。…まずは、良い知らせというか悪い知らせというか…」

 なんか歯切れが悪いですね、伯爵。

 「バッセンベル領のサッコ・ジムールが処刑された。罪状は、商人への脅迫、人身売買、殺人未遂じゃな。貴族と言っても、男爵家の三男だから、勘当されれば即平民じゃ。バッセンベル領とはいえネイルコード国の一部じゃからな、適用される法は同じじゃ。さらに、今までしでかしてきて有耶無耶にされてきた罪がごっそり追加されておるな」

 …自分で半殺しにしておいて何ですが。殺されたと聞くと、ちょっと後味悪いですね。
 まぁ、あの素行ではしかたないと思う。たまたまエイゼル市でやらかしたから露見しただけで、他にも色々やってたそうですし。

 「気持ちの良い話ではないがの。奴の若い妻と子も連座した。子供は、五歳と二歳だったそうだ」

 ゾン…
 心の底が一気に冷えるのが分る。

 「レ、レイコ殿! 確かに無惨な話ではあるのだが。貴族とはそういうものなのだ。後の混乱を最小にするには、責任は血筋で取る必要があることも…」

 私の雰囲気の変化に気がついたのか、ダンテ隊長が蒼白になりながら説明してくれるが。
 …それでも幼子まで殺す必要があるのか?

 「…五歳と二歳の子供になんの責任があると言うんですか! そんなくだらない事で子供を殺すなんて!」

 妻ならまだ諫める責任とか問われるのかもしれない。しかし、五歳や二歳にどうしろというのだ!

 「それは、この国の法律なんですか?」

 「…連座の適用は、認められているというだけで。適用する範囲は、今回の場合は領主の裁量じゃ」

 つまり。バッセンベル領が尻尾切りのために子供まで殺したと。

 「責任を取るってのなら、バッセンベルの領主自身が取りなさいよ!あんなのを放置して。…これだから面子にこだわる貴族とかって嫌いなのよ!」

 いつのまにか涙が流れていた。

 「…レイコ殿のせいではないぞ」

 それでも、自分が関わったところで子供が殺されている。私は、どうすれば良かったんだろう?

 「…変えたいか? その法を変えたいか?」

 「?」

 「来週、わしは会議で王都に出向く。まぁ毎週行っておる定例のものじゃがな。そこに同行して王に謁見して、直接言ってみてはいかがかな?」

 「…そんなこと許されるんですか?」

 「赤竜神の巫女様からの嘆願じゃからの。レイコ殿が言えば無碍には出来まいて。どうする?」

 …こういう貴族絡みのトラブルはまだ起きると思う。
 今後似たようなことを起きたときに、無責任な処刑が起きないようにするには、行ってみるしかないのかな…
 正直、あまり国のお偉いさんとかには余り積極的に関わりたくはないけど。
 アイズン伯爵は、人柄を理解した上で信用しているし、伯爵が最初に会った貴族だったというのは幸運なのだろう。だけどサッコみたいなのだって当たり前に居るのがこの世界だ。王都に行くともなれば、自然にそういうハズレの確率は上がるでしょう
 …とはいえ、こうなるのも時間の問題だったかも。

 「…分りました。同行させていただきます」



・Side:バッシュ・エイゼル・アイズン

 「あれは言わなくて良かったですな」

 ダンテ隊長の言う"あれ"とは。バッセンベル領のやつ、謝罪の印として、サッコらの首を送ってきた。家族の首と共に。
 サッコがやらかしたあの場には、お忍びで王妃殿下も同席されていたことは伝えてある。焦った結果、悪気も無く…と取れなくも無いが。

 とはいえ。領主のジートミル・バッセンベル・ガランツ辺境候がそれを指示したとは思えん。やつはこういう形で力を示そうなどとは、絶対考えないタイプだ。
 ガランツ辺境候は、現在は病床だと聞く。娘のトラーリ嬢とアトラコム伯爵が領政を担っているとは訊いているが。アトラコム伯爵に関しては、良い噂は聞かん。おそらく今回は、アトラコム伯爵あたりの独断じゃろうな。

 「レイコ殿のことを知っていてあれをやったとすれば、嫌がらせとしては上々でしょうが。あのレイコ殿に不快感を持たれるようなことをわざわざする意味があるのでしょうか?」

 「普通ならせんじゃろ。ただ、嫌がらせをして相手を不快にさせれば勝ちとか、その程度のことしか考えておらんのではないか?」

 反目している貴族とは言え、同じネイルコード国じゃ。当然、武力や経済封鎖のような実力行使は認められていないし、そこまでになる前に国の仲裁が入る。よって、貴族間の対立となると出来ることと言えばせいぜい嫌がらせ程度になってしまう。
 レイコ・バスターじゃったか。ユルガルムの蟻の巣を丸ごと吹き飛ばしたと報告されたレイコ殿の強力なマナ術。もしレイコ殿がその首のことを知ったら、バッセンベル領都をそれで吹き飛ばしていたかもしれん。…ワシに感謝せいよ。

 「首は丁重に葬るよう、差配してくれ」

 「…承知しました」

 レイコ殿泣いていたの…自分が不甲斐なく感じるわい。

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