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第2章 ユルガルム領へ

第2章第006話 キャラバン結成

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第2章第006話 キャラバン結成

・Side:ツキシマ・レイコ

 一週間後。早朝にギルドの馬車停め広場に来ています。

 ランドゥーク協会の他にも、塩やら舶来の食料品や、様々な物産を扱う商会の荷馬車も参加しています。
 ジャック会頭は今回は非同行なので、ランドゥーク商会の代表はなんとタウロさん。名目上、このキャラバンの代表です。
 護衛隊の隊長は、前回と同じくタルタス隊長。あとから合流だそうですが、伯爵のご家族の護衛騎士も、前回と同じくダンテ隊長らです。
 あっと。護衛隊の方に覇王様が参加していますね。ラウルさんです。横モヒカンの二人も一緒。

 「お?あのときの嬢ちゃんか。客枠か?」

 荷物だけでは無く、旅行客を乗せていくことも結構あるそうです。でも今回はお仕事。
 作ってもらったばかりのゴルゲットを見せます。

 「私も護衛です。よろしくお願いしますね先輩!」

 「え?冗談だろ?」

 「でもこの紋章、確かにギルドのだぜ」

 そこにタルタス隊長が通りかかる。

 「その子が護衛なのは本当だぞ。いろいろ便利な子だから楽しみにしておけ」

 タルタス隊長、便利って何ですか?

 「兄弟。おれ気になっていたんだけど、あの子が背負っているのって、もしかして」

 「そういや、赤竜神様の巫女が街にやってきているとか噂があったよな…」

 騒ぎにならない程度の噂ならいいですよ。



 さて。出発です。
 まずは、エイゼル市の西の関所を目指して移動。季節がら、以前より成長した麦畑が広がっています。なんかすでに懐かしいですね。
 関所にて、伯爵家の馬車と護衛騎士達と合流。並び順や護衛のローテーションを軽く打ち合わせして、再出発。今日の目的地はトクマクの街です。

 クラウヤート様に、一緒の馬車に乗らないかと誘っていただきましたが。そちらの馬車には既に侍女さんも三人乗っていますし、ちょっと窮屈になりますよ。
 今回はお仕事ですので、流石に中に籠もってはいられません。まぁ私は馬にも乗れませんので、伯爵家馬車の御者さん隣が私の定位置です。あ、御者はエカテリンさんです。
 レッドさんもちゃんとお仕事してます。伯爵家の馬車は先頭から二番目、御者のエカテリンさんの膝の上がレッドさんの定位置で、ここから見える範囲をマナで索敵してます。

 しばらく行くと、レッドさんからメッセージ。さっそく、五百メートル先に反応が6ほど。
 馬で併走しているダンテ隊長に知らせます。

 「ダンテ隊長。五百ベレム先の六つ反応が固まってあります。」

 ちなみに、1ベレムが1メートルほどです。1キロは1ベールと呼びます。似た感じで楽ですね。ヤーポンでないのはありがたいです。
 ダンテ隊長が他の騎士に斥候を命じますが。すぐに戻ってきました。

 「街道整備の者達でした。人足五名に馬一頭です」

 「ご苦労。小竜様は流石だな。問題ないと思うが、それでも各自警戒は怠るな!」

 索敵はまぁこんな感じで進めます。
 先に進むと、砂利等を積んだ馬車に作業員。警戒してる騎士でちょっとピリピリしてますが、その横を何事もなく通り過ぎました。
 この後も、エイゼル市に向かう荷馬車などとすれ違いつつ、昼休みに街道脇の開けたところに、昼休憩のために一時停車です。
 昼食は、簡単にお湯を沸かして、エイゼル市から持ってきたお弁当です。私とレッドさんが、伯爵家一行の席に誘われました。タルタス隊長に許可貰って、お呼ばれします。
 クラウヤート様は、レッドさんにお弁当をあげられてご満悦です。

 昼食後はすぐに出発。夕方にはトクマクの街につきました。本日は、領邸に宿泊です。

 警備の関係で、伯爵家の三人は同じ部屋に宿泊です。
 なにげに私も同じ部屋に誘われましたが。…クラウヤート様はレッドさん目当てでしょ? さすがに恐れ多いので、辞退します。だから、私は今回お仕事ですって。
 伯爵家の両隣の部屋が護衛の部屋になっていますので、私はそこに宿泊です。レッドさんなら、寝てても異常は分るからね。
 私は、不寝番免除です。その分、昼間頑張ってくれとのこと。



 特に問題も無く、トクマクを出発です。今日の目的地は、焼き肉村…の一つ手前の村。もともと前回も宿泊地予定だった村ですね。
 この辺はまだ魔獣の脅威はほとんど無いので、警備は護衛騎士主導です。すれ違う馬車やら村人が見える都度、みなさんピリっとなるのが分ります。バッセンベル領の嫌がらせって、そこまで深刻なんだろうか?

 御者をやっているエカテリンさんにそのへん聞いて見たところ。暗殺とか毒殺のような直接的な行為はまだないんだけど。どうも、買収やら使用人の脅迫とか、下準備の段階の活動が目立ってきているんだそうです。
 まぁ、活動しているのはサッコレベルの人間が多いそうで、まともに成功していないとか。

 特に問題なく宿泊地の村に到着。村長の家の客室が伯爵家に割り当てられます。
 結構大きな家に住んでいる村長だな…と思いましたが。もともと宿泊地としての利用が多いそうで、貴族の宿泊のための家でもあるそうです。
 村長の家の居間が警護の詰め所。周辺にも常設の宿舎が建っていて護衛と護衛騎士の人達は各自宿泊。周りを固めます。

 夕食には、私も伯爵家と同席しました。
 件のボアの肉を燻製にしたものというのが出ました。ポトフっぽい料理でした、美味しかったです。
 以前通ったときのボア退治と焼き肉パーティーの話題が出ましたが、面白がっていただけたようで。

 この村での宿泊も、問題なく過ごし。翌朝出発です。
 件の焼き肉の村は、今回は昼休憩に寄るだけで通過するのですが。レッドさんが相変わらず子供達に大人気でした。
 あ、クラウヤート様のところに逃げた。クラウヤート様うれしそうです。



 さて。タシニの街に着きました。伯爵家と護衛騎士は領館に宿泊です。
 近くのパン屋、あの毒殺未遂事件に巻き込まれた店ですね。おばさんはエイゼル市に修行の名目で保護されており、今はあのおばさんの息子夫婦が代理で店を切り盛りしているそうです。毒の話はとくに広まっておらず、領館での食事はここのパンが出ました。
 まぁそれでも、護衛騎士の人はピリピリしてましたが。毒味役のレッドさん曰く、問題ないそうです。ご安心を。

 次の朝。
 実は、タルタス隊長以外の護衛隊には、伯爵家一行は馬で峠越えすると知らされていたようで。護衛騎士含めて馬車で遠回りコースとなったことに、皆さんびっくりしています。

 「敵を騙すのなら、まず味方から…ですね」

 「嬢ちゃん、うまいこと言うな」

 覇王様にうけました。でも、覇王様も事情は詳しいようで、スパイを警戒している感じかな?
 峠越えで向こう側を通るのなら、道中の村や街があるので野営は必要ないですが、王領やエイゼルやユルガルム以外の別領内を通ることになります。その領とエイゼル領との関係は基本的に良好ではあるのですが。崖崩れが原因で反エイゼル勢力が蠢動を始めているとかで、そいつらがバッセンベルに協力することを恐れています。
 遠回りの方の道は、野営が三泊必要ですが。直接ユルガルム領に入れるんだそうです。

 ここで、タルタス隊長とダンテ隊長の朝礼です。

 「既に発表されたように、伯爵家お三方は、東ルートで我々に同行することになった。この先は村も無く、魔獣の出現する可能性も高い。よって、移動中の警備についてはタルタス殿に指揮権を委譲する。いざというときには各騎士はギルド護衛の指示に従うように」

 あれ?タロウさんがこのキャラバンのトップでは? ああ部隊の指揮はさすがに無理ですか。

 格下と思っているギルド護衛の指示に従えと言われて、露骨に不満げな顔をする騎士もいますが。

 「レイコ殿によるジャイアントボア討伐のとき、キャラバンに同行していた者は多いだろう。知らないものは、そのときの状況を知っているものから聞いておけ。対人戦なら騎士は確かに強いが、この先に出る魔獣や野生動物は護衛隊の方が専門だ。獣相手の話だからと、自分より知識がある者を卑下して油断しないように」

 釘を刺された騎士らが、苦笑する。当時参加していた同僚が肩を叩いて、道すがら教えてやると語りかけています。

 ここで。横モヒカンの一人が手を上げます。

 「タルタス隊長! 昨日酒場で、地元の猟師がこの先ででっかい狼を見たと言ってまして」

 「狼?」

 「牛くらいの真っ白ででかいのが二頭、二廻り小さいのが二頭だそうです。親子ですかね。こちらを遠巻きに見ていただけで襲っては来なかったので、魔獣というわけではなさそうですが。念のため知らせといた方が良いかなって」

 「ふむ、良い情報をありがとう。白くてでかいのなら、ユルガルムの森狼か、北方山脈の銀狼か? まぁ目撃した猟師が襲われていたら、そもそもそういう情報が我々の耳に入ることもないからな。襲ってこなかったというのも、たまたま腹が膨れていたからかもしれんし、狼がキャラバンを襲うなんて話は聞かないが、油断しないようにしよう。それでは各自出立準備を」

 横モヒカンの人、やりますね。

 「情報の共有ってやつ? 外れたならそれに越したことは無いけど、当たったときが大変ってやつな。アニキに教えて貰ったんだよ」

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