上 下
45 / 317
第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第043話 覚悟のすすめ

しおりを挟む
第1章第043話 覚悟のすすめ

・Side:ツキシマ・レイコ

 座学が終わると、次はギルド横の訓練場のような処に皆で出ました。
 魔獣化した動物の攻撃の仕方とその対処方法の講義です。

 あのヘルメットの角や横モヒカンには、きちんと意味があって。対峙したときにはまずこちらからも威嚇するのが第一なんだそうです。
 魔獣はともかくまっすぐ突進しがちだけど、目的はこちらの急所狙い。まっすぐ突っ込むのが危険だ判断すると、速度を緩めて他のところを狙おうとしてくるので、そこを付く。この隙を作るために角や横モヒカンが役に立つのだそうですが。…まぁ、雇い主に顔を覚えて貰う意味もあるそうですが。
 威嚇で速度を落した魔獣は、噛み付き攻撃を仕掛けてくるそうです。狼のような元々肉食の魔獣は首を狙ってくるか。他の動物は、肩や手首足首を狙って組み伏せようとしているとかで。それを防ぐためにトゲトゲが防具についてます。
 ちなみに、トゲトゲは木製で、防具に並べて貼ってあるだけだそうで。まぁ鉄だと重たいよね。

 武器は、ショートソードかダガー。両方持っている人も多いそうです。
 魔獣との接近戦では、長い獲物よりは小回りの効くダガーが薦められました。人と違って、防具を着けているわけでは無いですから、斬撃力は必要ないそうです。

 横モヒカンの人が、魔獣役で覇王様に対峙します。
 揃えた両手を口に見立てて、覇王様の手脚を狙ってくるが。そこをカウンターで首や横腹を刺す。もちろん武器は本物ではなく、訓練用の木製ナイフです。たまに変なところに入ったのか、横モヒカンが悶絶していますが。

 魔獣のテリトリーでは盗賊はまず出ないですが。対人戦についても話してくれました。
 防具の有無や、互いの狙い所など、魔獣とは全く違う立ち回りが必要だとかで。覇王様も訓練をしているそうだけど、我流の喧嘩剣法では参考にならないだろうと、その辺は兵士なり騎士様に講義を受けた方がという話で締めくくられました。



 最後に、覚悟について。
 最悪の状況で、護衛対象を見捨てるのか。仲間が殺されそうになっているところで逃げるのか。それとも自分が代わりに死ぬのか。
 理想ならいくらでも語れるでしょうが、全滅するのが美学などと思うなと。もちろん、各自譲れない線はあるだろうし、答えがある話でもないですが。この辺は、兵士や船乗りでも同じ話で、命の危険がある職に付くのなら、もしかしたらという最悪は心の隅に常に置いておけ…と言われました。
 講義を受けていた子供達は、神妙な顔つきになります。年齢からしてそろそろ将来の職を決めるべき時期なのでしょうが、たぶんこの講義には跳ねっ返りを牽制する目的があるのだと思います。

 「まぁ俺たちは、アニキに付いていくだけだけどね。姉御とガキどもの泣き顔見たくないから、盾くらいにはなりやすぜ」

 横モヒカンがまた小突かれてました。これは覇王様の照れ隠しでしょう。



 ここで、遠くから鐘が聞こえてきました。お昼です。
 ギルドの食堂から軽食が運ばれ、子供達にも振舞われます。ただ、子供達は静かですね。護衛職希望でここに来たのはいいですが、先ほどの覚悟の話が結構効いているようです。
 一人の男の子がつぶやきます。

 「…俺の父ちゃん、護衛中に死んでるんだ。ただ、物を運ぶほどこの国はでかく成る、このギルドはとっても意義がある仕事だって、父ちゃんは言ってた。だから、おれはギルド目指してみるよ」

 「タマス、ギルドの登録には読み書き計算必須だからね。そちらも頑張れよ」

 知り合いらしき子が突っ込みます。

 「がーっ!せっかく決心したところなのにーっ!」

 子供達から、やっと笑いがこぼれます。
 …まぁ針路については、今の内に悩めるだけ悩んでおきなさいね。



 一週間ほど、午前中はギルドで講義、午後は宿屋でまったりしたり、モーラちゃんとミオンさんの買い物に付き合って、近い方の市場にレッドさんを連れて出かけたりしました。
 レッドさんの目撃者は、順調に増えています。

 モーラちゃんのお手伝いで、ウェイトレスもやってみました。他にも宿に雇われている人もいますが、繁盛時にはやっぱ大変そうだったからね。
 注文聞いてメモして、厨房にメニュー連絡して、出来てきたら配膳。けっこう楽しいです。

 レッドさんはそういうとき、カーラおばあさんのところにいます。猫にもモテてますね。



 アイリさんとタロウさんに薦められるまま、いくつかの講義を受けていたところ、ギルドへの登録資格が整ったと言われました。そんなつもりで講義を受けていたわけではないんですけどね。
 運輸協会とはいえ、護衛の仕事が年中あるわけでも無いので。閑期に受けるような仕事もいろいろ斡旋しているんだそです。この街に来る途中に見た街道整備とかもその一つだそうで、あとは魔獣の討伐任務もけっこう多いです。うーん、このへんはまんま冒険者稼業ですね。

 まぁ、子供の姿の私ががそういった依頼を受けられるかはともかくとして。読み書き計算が出来て口座を持っている証明として一種の身上保証になるとかで。とりあえず入っておくのは無駄にはならないとのことです。

 …これも私たちをこの国に取り込みむ計画の一部じゃないかな?とは思いましたけど、登録はしておくことにしました。
 指名依頼とか強制があるわけでは無いので、そのへんは安心してくれと言われました。この辺は異世界物あるあるですからね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

農業令嬢は円満な婚約解消を希望します!只今幸福な老後生活を計画中!

ユウ
ファンタジー
農業をこよなく愛するリゼットは領地で農作物を育てることに生きがいを感じていた。 華やかな王都よりも、生まれ育った領地で作物を育てるのが大好きな奇特な令嬢だったことから一部では百姓令嬢と呼ばれていた。 その所為で宮廷貴族から馬鹿にされ婚約者にも蔑まれないがしろにされてしまうのだが、前向き過ぎる性格と行動的なリゼットは不毛な婚約関係を続けるよりも婚約解消をして老後生活を送ることを決意した。 …はずだったのだが、老後資金が足りないことに気づき王女殿下の侍女募集に食らいつく。 「ある程度稼いだら国を出よう」 頓珍漢で少しずれた考えで王宮のメイドとして働きお金を稼ぐことにした。 婚約解消をするために慰謝料と老妓資金を稼ぐべくリゼットの奮闘が始まるのだったが、物事は意外な方向に進ものだった。 王命により宮廷庭師を任されることとなったのだ。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...