上 下
31 / 331
第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第029話 王都からの指示

しおりを挟む
第1章第029話 王都からの指示

・Side:ジャック・ランドゥーク

 エイゼル市への入り口の関のところで、小休止とばかりに馬車からは皆が降りていたが。いざ出発と馬車に乗り込こもうとすると、一人の男が既に中にいた。
 護衛騎士隊長のダンテ殿が思わず身構えるが。

 「なんだセーバス殿か。驚かすな」

 顔を確認して警戒を解いた。

 「セーバス卿、ずいぶん早かったな」

 と伯爵も、馬車に乗り込む。伯爵もこの男に面識があるらしい。貴族の屋敷によくいる執事の格好をしているが、うーん彼も五十代くらいか? グレーになりつつある髪をバックにしている。特に特徴がないと言えば特徴なのだが、どこかで見たような気もするが、なんというか気配が薄い男だ。

 「昨日の夕方には、トクマクの街から伝令が出ましたからね。夜通し走って王都へ、そこからローザリンテ様とクライス様のご判断を持って今ここに…ってところです」

 と、封印のされていない巻物を懐から出して、伯爵に渡した。

 「移動時間も流石だが。王宮の判断が早かったなという意味じゃ」

 「ローザリンテ様ですから」

 とにっこり笑う執事。

 伯爵は巻物を広げて、読んでいる。

 「ふむ…要は既にしているように、隠すのでは無くそれとなく広めてしまえ。こちらから囲い込むのではなく、この街に依存するように誘導しろってことかね?」

 「的確なご理解かと思います」

 私とダンテ隊長が、よく分らないという顔をしていると、伯爵が説明してくれた。

 「赤竜神様の思惑は分らぬが。状況からしてこの国を選んでレイコ殿達を連れてこられたのは確実じゃ。あの北方山脈のさらに向こうからわざわざ飛んで来られたのだからな。それに応えるという意味でも、捕らえて閉じ込めるなんてのはありえんじゃろ」

 赤竜神様が飛んでこられた距離は分らないが。あの山脈を越えられるのならどこへでも、それこそ正教国に連れて行くこともたやすいだろうが。赤竜神様はそうしなかった。そこに意味があると伯爵は考えておられるようだ。

 「赤竜神様からおあずかりしたも同然の小竜様と巫女様。当然ながら他の貴族やら他国やら、当然教会や正教国も狙ってくるじゃろう。かといって今、レイコ殿達を屋敷に隠すなんてのは、後で痛くない腹を探られかねないし。なにより彼女らが望むように思えん」

 「物腰おだやかで、かなりの教育は受けているとは思いますが。貴族然とはしていませんでしたからな。窮屈な生活は好まれないでしょう」

 隊員のために風呂を沸かし、道中の村で肉を焼きまくっていた姿を思い出した。
 あ。でも、ボアの解体でキャーキャー言っていたのは、子女らしかったかも。

 「で、国としてはじゃが。まだ彼女らをどうべきなのか見極めが付かないが、現時点で放置するのは論外。国としては積極的に取り込まず、それでいて彼女らの意思でこの国に滞在してくれれば理想的。要は、この国を気に入って貰えってことじゃな」

 彼女らが自発的にここにいてくれて、この国と仲良くしていますと周知するのが最善…ってことか。かなり大胆にも思うが、話を聞くと良い判断に思う。積極的に所有権を主張するなど悪手もいいところ。貴族と貴族、国と国で取り合うなんて形にでもなれば、対立がどこまで波及するか想像できない。

 「まぁ、治安の良さといい賑やかさといい、このに匹敵すると言ったら、この大陸では王都とユルガルムと。あとは南方諸島がかなりなものという評判があるくらいですな」

 自画自賛とも言えるが。もしこの街が気に入って貰えないとなったら、他の街も無理だろう。

 「というわけで。彼女らはしばらくはジャック会頭のところで預かって貰おう。ギルド預かりとするか、ランドゥーク商会預かりとするかの判断は任せる。王宮の方で対応と諸勢力の出方が固まるまでは、自由でいてもらおう」

 「承知しました。ではギルドからはアイリを付けておきましょう。すでに仲が良さそうですからな」

 タロウをとも思ったが、人を付けるにしても同性のアイリの方が良かろう。…もうすこし歳がいっていけば、タロウをぶつけるのもありだったかもしれんがな。

 「騎士からも人を出した方がよろしいかと。王国側も気にかけているという姿勢もそれとなく示す必要がありましょう」

 「王宮からの護衛と監視を兼ねて、既に私の部下が動いております」

 ダンテ隊長とセーバス殿からも人が出るようだ。確かにアイリでは、案内はできても護衛は無理だろうからな。

 「それでは各自よろしく頼む」

 ギルド方向と貴族街への分かれ道で、一旦馬車が止められ。レイコ殿達の乗る馬車に移るためな、私は伯爵の馬車を降りた。



・Side:ツキシマ・レイコ

 今進んでいる街道は、市街地の北端に向かっていた。キャラバンの拠点は、街の北端にあるそうです。
 ここから見て右の山の向こう、城塞都市の南側には海があって、そちらの港にもキャラバンの拠点があるそうで。海運が絡む場合にはそちらの拠点を使うそうです。

 アイズン伯爵の領主邸は、城塞の中にあるので。護衛騎士の人たちとも、次の分かれ道で一旦お別れです。

 辻道のところで一旦停止すると、私たちの馬車にジャック会頭が乗ってきました。

 「レイコ殿は、一旦私の預かりとなりました。あそこの中は貴族街ですので、今下手に行くと面倒になりかねないので。その辺の根回しが終わるまで、ギルドの方でお世話させていただきます。アイリは、しばらくレイコ殿の専属として、面倒見てやってくれ。タロウもな」

 「承知しました」

 「レイコちゃん、街を案内して上げるね」

 「よろしくお願いします」

 「クー」

 出発するアイズン伯爵の馬車に礼をする。気がついた伯爵が手を振ってくれた。護衛の騎士達も手を振ってくれるので、私も振り返す。

 暗くなった東の空には、地球のそれより倍近く大きく見える、そしてどこかで見たような満月が登っていた。
 …ああ、ここではこういう月なんだ。



 その月の異様さに、目がチベットスナギツネのように細くなる。
 頭の中に、ジャーンジャジャジャーンという有名な帝国のテーマが流れてます。

 土星の衛星にミマスというのがあります。直径四百キロもない天体なのですが、見た目に顕著な特徴として、巨大なクレーターがあります。そのクレーターのサイズが星に対して大きすぎるので、まるで超有名SF映画で有名な球状要塞に見えるのです。

 今昇っているこの月は、どれくらいのサイズだろうか?。
 一日の長さも重力も、日の大きさも明るさも、地球のそれに比べて違和感を感じることはないけど。詳細に量る手段がないので、厳密には比較もできないけど。月齢が七日周期とかエカテリンさんは言っていたので、公転周期の二乗は公転半径の三乗に比例だっけ?ケプラーさん。単純かつ簡単に計算して、公転軌道の半径は地球の月の半分以下、見えるサイズは地球の月より大きいけど、実際のサイズは地球の月より二廻り小さいくらいかな。

 この月には、巨大なクレーターがくっきりと見えています。地球の月の雨の海がもう一回りデカくて、クレーターとしてはっきり見えていたら、似たような感じだろうか。

 うーん。綺麗だけど、なんか落ち着かないや。
 …赤井さんがやったのかな?あれ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

現実だと思っていたら、異世界だった件

ながれ
ファンタジー
スメラギ ヤスト 17歳 ♂ はどこにでもいる普通の高校生だった。 いつものように学校に通い、学食を食べた後に居眠りしていると、 不意に全然知らない場所で目覚めることになった。 そこで知ったのは、自分が今まで生活していた現実が、 実は現実じゃなかったという新事実! しかし目覚めた現実世界では人間が今にも滅びそうな状況だった。 スキル「魔物作成」を使いこなし、宿敵クレインに立ち向かう。 細々としかし力強く生きている人々と、ちょっと変わった倫理観。 思春期の少年は戸惑いながらも成長していく。

チート狩り

京谷 榊
ファンタジー
 世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。  それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。

もう一度だけ頑張るから、すべてを救う力をください

双刃直刀
ファンタジー
最近の俺強えに見飽きた人ほどおすすめです!! 幼馴染のセリアと一緒に冒険者として名を馳せることが夢であったシオン。だが、十五歳になってスキルを得た時、それは終わった。セリアは世界最強クラスのスキルを2つも得たのに対して、シオンは中途半端なものしか貰えなかったのだ。すれ違いを繰り返した末に二人は別れ、シオンは日銭すら満足に稼げない冒険者となってしまう。そんな生活を何ヶ月も送ったシオンは、ホムンクルスと出会ったことですべてが変わっていく。念願の力を得ることが可能となったのだ。 その後、セリアが不治の病に掛かったのを知り、それを治す方法がダンジョンの深層にある黄金の実を使うことだと知ったシオンは、考えがまとまらないままダンジョンに挑んでいく。

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

処理中です...