上 下
29 / 325
第1章 エイゼル領の伯爵

第1章第027話 レッツ、焼き肉パーティー

しおりを挟む
第1章第027話 レッツ、焼き肉パーティー

・Side:ツキシマ・レイコ

 焼き肉パーティの開催、場所の確保、机や椅子や調味料や酒や他の食材等のもろもろの手配に、村人の招待。これらは、異様にテンションの高くなった騎士による先触れで事前に村に知らされていたので。着いたころには、村の広場で既に用意が始まっていた。

 本来はもう一つ先の村で宿泊予定だったそうですが。すでにそちらにも連絡は出ており、キャンセルの詫びとして後で肉塊が送られるそうな。

 老若男女が揃って準備をしているところに、キャラバンが到着です。
 荷馬車から大量のボア肉が降ろされると、村人からは歓声が上がります。

 「冬前に絞めた家畜の肉は、今の時期だともう残っていないだろうから。久しぶりのお肉って人も多いだろうな」

 タロウさんが説明してくれました。と、タロウさんは村長らしき人と話しているジャック会頭に呼ばれて走って行きます。
 肉の買い取り価格、割引、差額での酒代や場所代など。その辺の交渉をしているらしいですね。

 村の女性陣が肉をどんどんさばいて、調味汁のような物に付けていきます。男どもは、机や椅子の配置に、コンロの設置と明り取りの篝火の用意。または、近くで採ってきた竹で串を大量生産中。

 場所が整ったところで、大量に用意された串に肉が刺され、さっそく焼かれ始めました。夕暮れの村に、肉の焼かれる香ばしい匂いが漂っていきます…

 机には、パンとサラダとエールみたいな酒。肉がたっぷり入ったシチュー。そしてその間に、焼かれた大量の肉が積まれた皿が、どんどん並べられていく。野菜も、煮物に葉物が並べられます。肉を巻いて食べるの、美味しいですよね。

 「では伯爵。ご挨拶を」

 「うむ。この幸を恵んでくださった赤竜神に感謝を。そして赤竜神の巫女であるレイコ殿に感謝を。乾杯!」

 レッドさんは、すでに村の子供らに目を付けられ、遊び相手にといじられまくっていました。まぁ、子供達が見ても普通の生き物では無いと分るのでしょう、私は"それらしい人"として、既に村人に認知されているようです。
 ただ、ダンテ隊長の「レイコ様は特別扱いは望まれていない」との号令により、無闇に拝まれるようなことはありませんでした。この辺皆さん、聞き分けが良くてありがたいですね。

 本当は、私やレッドさんのことは秘匿したいと言われたけど。どこかの屋敷に引きこもりなんてのは選択肢としてあり得ない。だったら遅かれ早かれな話なので、積極的に広めてもいないけど故意に隠してもいないというスタンスで、やり過ごせるところまでやり過ごそうということになりました。

 「乾杯!」

 皆が、さっそく肉に飛びつき頬張ります。

 「父さん母さん、美味しいね」
 「沢山あるから、たんと食べろよ」
 「野菜も食べないとだめよ」

 村人親子をみて和んだりしながら、私も串焼きをいただきます。

 味付けは、香草入り塩だれってところかな。野菜か果物をすりおろしたものも漬け汁に入っているようです。薄めにスライスされている肉を、二本の串に瓦のような重ねて刺して、コンロに並べて焼きます。見た目は蒲焼きっぽく無くもないですが。
 熟成する時間がない狩ったばかりの肉は、肉の塊ではなく、こういうスライスしての調理にするのがいいんだそうな。うん、思ったより柔らかいのは、つけ汁に秘密があるのかな? うん、美味しいよこれ。

 うーん、隊員や騎士達の食べっぷりはすさまじいです。エカテリンさんやタロウさんも、同じ勢いで食べています。串焼き一本を一口でこそぎ落すてどうよ。…お肉を口いっぱいに頬張るって経験は私も無いかも。

 スーパーミラクルな体を手に入れても、胃袋の容量は人並み。串焼き3本でお腹いっぱいです。
 レッドさんの容量も当然そんなに多くないので、彼もすぐにお腹いっぱいになったようです。
 そこで。

 「肉焼くの、手伝いますね」

 「えっレイコ様?」

 焼いても焼いてもおかわりの催促が来ますので。私は、自分が食べるのもそこそこに肉を焼いている奥さんの方を手伝うことにしました。
 担当の奥さんは、私にやらせて良いの?とばかり、最初ギョッとしていましたが。こちらを見ていたダンテ隊長がうなずいたのを見て、焼き方を教えてくれました。
 レッドさんは、子供達から逃げてアイズン伯爵のところに避難しています。あ、伯爵様がフォークでレッドさんに食べさせている。…笑顔の伯爵、ちょっと恐いですけどね。それで子供が近寄らない?



 さて焼き場です。マナコンロをちゃんと見るのは初めてかな。野営でも使っていたけど。

 発熱部の見た目は、ハガキくらいのサイズの石の板。先ほど見たボアのマナとは違い、薄いレンガかタイルみたいな感じです。それを専用の金属のトングで挟むと、発熱が始まるんだそうな。 それがずらっと並んでます。多分、各家庭から持ち寄ったんでしょう。
 マナの板が炭みたいに赤熱しているので。梁のところに串を並べて、適度にひっくり返しつつ焼き上がりを待ちます。焼き鳥か蒲焼きの要領ですね。

 じっくり中まで火が通るような焼き方が好きな人、表面パリパリになるように強火で焼いたのが好きな人。塩を多めでお酒で流し込む人。いろいろこだわりがあるようで。コンロからの高さの違う梁を使い分けて焼きます。

 私のところには出されなかったですが。捨てずに持ってきた分のレバーや腸なんかも串に刺されてます。このへんは鮮度が重要で、今日しか食べられないんだとか。結構な量のモツが煮物の方にも回されているようですね。となりに鍋を並べてぐつぐつ煮えているとこから、皆が掬っていきます。

 先ほどの担当の奥さんも、家族と食事しています。自分が食べるより、お子さんに食べさせる方が大変そうですね。
 おかわりを要求している人たちが、皿を持ってコンロと席を行ったり来たり。エカテリンさん、まだ食べるの? そんなに食べるのにその締まった体は何?

 賑やかな喧噪と共に、村の夜は更けていきます。登り始めた神の玉座も空に健在です。

 タロウさんは、酒で潰れました。アイリさんは、それを介抱してました。



 …パーティーの後。この村にも体洗う場所はあったので、お借りしました。
 破れない汚れない私の服も、焼き肉の匂いには負けました。髪の毛からも匂いがする。体を洗いつつ洗濯です。
 明日までに乾くかな?。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

処理中です...