上 下
11 / 16

『平凡令嬢』、お見合いする

しおりを挟む


「ああ、ミランダ来たか! 今馬車が敷地内に入られた。皆で玄関でお迎えするよ」


 居間に入るとすぐ父にそう言われて、家族全員急いで玄関へと向かった。小さく馬車の音が聞こえた。

 シュミット伯爵夫妻、兄夫妻、そしてミランダの順に並んで待つ。
 すると間もなく豪華な馬車がやって来た。
 

 ……この紋章って……。


 馬車が止まり、降りて来たのはハルツハイム伯爵。そして……、マルクスだった。


「歓迎ありがとう、シュミット伯爵。この度は無理な願いを聞いていただき、誠に感謝申し上げる」


 数ある伯爵家の中で最上位になるハルツハイム家。伯爵は現在騎士団長をしている。次の軍務大臣と噂される程の人物だ。マルクスとよく似た美丈夫。彼が年を重ねればこんな風になるのだろう。

 普通ならばハルツハイム伯爵家は最弱のシュミット伯爵家との縁はほぼ必要としないはず。
 ……しかし、この口ぶりだとむしろ向こうが乗り気のようではないか?


「いいえ。何をおっしゃいます。私はお話を伺い感動いたしました。娘の気持ち次第ではございますが、良いご縁となればと願っております」


 シュミット伯爵はそう言ってハルツハイム伯爵と硬く握手を交わした。


 ──ミランダは、マルクスを見ることが出来ないでいた。
 今、彼がミランダをじっと見ているのを感じてはいるのだが……。


「マルクス ハルツハイムです。ミランダ嬢とは彼女が学園に入る前にお会いした事がございます。
私はその時から、ミランダ嬢に恋をしています。
本日は彼女と話をする機会を与えていただき心より感謝いたします」


 マルクスは、そう言ってシュミット伯爵夫妻に挨拶をした。
 
 彼はまるでブレないしなやかでまっすぐな姿勢、そして澱みない深い声、口調で話す。

 それだけで、マルクスがきちんとした男性だという事を、ここにいる誰もが理解した。


 ……約1名、ミランダ以外は。


 さっき、庭で会った時から今回のお見合いの相手はマルクス、そういうことじゃないかとは思っていた。
 ……いや、最初に父からこの話を聞いた時から、心のどこかでもしかしてと思ってはいた。

 ……だけどやっぱり、私はこの人はダメ──

 そう言って断ろうと思い詰めた表情でミランダが顔を上げた時。


「ッでは! ……早速ではあるが、若い2人でゆっくり話をしてもらおうではありませんか!」


 ミランダの次の言葉を分かっていたかのようにそれを遮り、父が言った。


「……お父様っ!」


 ミランダは小さな声で父を咎めた。


「──ミランダさん。先に私から謝罪させてはくれまいか。
……マルクスの意向も聞かず、侯爵令嬢との婚約が決まったのは、私のせいなのだ。……本当に済まなかった」


 ───横からかけられた言葉に、ミランダははっとハルツハイム伯爵を見る。


「……私はその婚約をマルクスは嫌がる事はないと思っていた。昔から彼は恋愛ごとには奥手で、自分で婚約者を見つける事などないのではと思っていた矢先に、格上の侯爵家……私の上司である軍務大臣の家からの縁談であった。そしてそのご令嬢がマルクスに惚れ込んでいると。……これ以上の縁はないと強引に推されるままマルクスが騎士団の合宿に参加している間に勝手に話が決まってしまった。……しかしまさかそこでマルクスが恋をしていたとは」


 ハルツハイム伯爵は苦しそうにそう告白した。
 ……伯爵は上司から圧をかけられたのか。それは確かに断りづらかっただろう。だが、年頃の本人が不在時に決めるのは如何なものか。


「……私は騎士団の合宿先のパーティーでミランダ嬢と出会い、貴女が次の年に学園に入学したら婚約を申込もうと思っていたのです。……しかし王都の屋敷に帰ると父に侯爵令嬢との婚約を告げられ、もうその時には王宮に届けも出されてあったのです。侯爵家もそれを公式に発表していて……もう、後には引けなくなっていた」


 そしてマルクスもその当時のことを辛そうに話した。


「それでも、私はなんとか婚約を無かった事に出来ないかと考え話を聞いてすぐにマリアンネ嬢に『好きな人がいる』と告げたのです。……そうしたら彼女には絶対に許さないし婚約も解消したりしないと激怒されました。……彼女からすれば当然の反応なのでしょうが、私は絶望しました。
そしてそれ以来、マリアンネ嬢は私に関わる女性を異常に敵視するようになったのです。
……そして次の年にミランダ嬢が学園に入学して来ました。貴女は約束通りに私を訪ねて来てくれたのに……彼女の攻撃から逃すには、貴女を突き放すしかなかったのです」


 ……ああだから。マリアンネは最初からあれ程攻撃的だったのだ。
 あの時の彼女にはマルクスに近付く全ての女性が彼を奪おうとする敵のように感じられたのだろう。


 私が返事が出来ずにいると、父が言った。


「……まあとりあえず、2人で落ち着いて話し合うがいい。それらは誰が悪い訳でもなく、不幸な行き違いであったのだ。
……ミランダ。相手のことをを良く見てよく考え、そして自分の心にしっかりと問いかけるといい。悔いのないようにね。
ミランダの決断を、私達は尊重する」





ーーーーーーーー



 お読みいただきありがとうございます!


 イメージとして、マルクス王立学園入学→同学年のマリアンネがマルクスに一目惚れ→マルクスは女子に人気でマリアンネ手を出せず→日本でいうところのGW的な長期休暇でマルクス騎士団の合宿に参加、関連のパーティーでミランダと出会う→GWまでにマルクスと関われなかったマリアンネが父侯爵に直訴、部下の息子の評判を聞いていた父侯爵すぐ動く→侯爵、部下である騎士団長マルクスの父に婚約話を持ちかける→騎士団長に『今本人居ないし…』と渋られる→侯爵、騎士団長に『圧』をかける→婚約決まる……

 ……という流れでした。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

処理中です...