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「沙良ちゃん、いらっしゃい! 待っていたのよ。体調はどう? 少し私達とお茶をするくらいなら大丈夫かしら」


 都心の一等地から少し外れた場所にある大きめの上品な日本家屋。外には素晴らしく整えられた日本庭園がある。

 伯父のこのお屋敷には昔は祖父母も暮らしていて、小さな頃からここにはよく両親とお邪魔していた。伯父さまと父は兄弟仲が良く、伯母さまも娘が居なかったからか私を随分と可愛がってくれた。

 そんな伯父三森誠司とその妻綾子さんは揃って玄関で退院して来た私を出迎えてくれた。
 

「おばさま。……この度は、大変な不義理をしてしまい申し訳ございませんでした。
両親のお葬式や四十九日などその後のことなどを色々取り仕切っていただいたと聞きました。……本当にありがとうございました」


 私は伯母に会うなり謝罪し頭を下げた。


「沙良ちゃん……。色々あったのだと誠司さんから聞いているわ。けれど私は沙良ちゃんの口からきちんと事情を聞きたいの。勿論貴女がまだ無理が出来ない状態なのは知っているから、少しでも体調が悪く感じたならそう言って?」

 伯母は私を労わるように肩を優しく抱きながら言った。

 血の繋がりはないけれど、この伯母はとても愛情深い人で私も小さな頃から大好きだった。

 私は伯母たちの優しさに全てを話すことにした。

 

 ◇


 応接間には伯父と伯母、そして従弟で大学生の次男光樹さんが私の話を聞く為集まってくれた。ちなみに長男将生さんはアメリカに留学中なのだそうだ。

 私は彼らに簡単に私の交通事故から始まったこの一年の事を説明した。


 「ふーーん……。事件の匂いがプンプンするね。でも、直人叔父さんて会社役員なだけだし叔母さんの家も旧家だけどそんな凄い家でもなかったよね。それなのに、その財産を狙われるなんてな……」


 光樹さんの中では今回の件はうちの財産を狙った犯罪で、拓人が犯人だと確定しているようだった。

 その横では伯父は『失礼な言い方をするな』と光樹さんを窘めている。

 そんな2人を見ながら私は思う。
 ……私は拓人の浮気がなければずっと彼を信じ、もしも今と同じように言われても彼が財産目当てだとは決して信じなかったと思う。
 私達は愛し合ってる。彼は私を愛しているのだと固く信じていたから。

 ……それは愚かな幻想だとは今は痛い程よく分かっているのだけれど。


「けど、拓人君は沙良ちゃんの婚約者だったんだからいずれは財産は入ったんだよね? どうして敢えてそんな危険を犯したのかな」


 光樹はまるで探偵のように考える。


「……実は……直人達夫婦は一年前に拓人君の浮気に気付いていた。問い詰めようとしたところでの沙良の交通事故だったんだ。そしてその場で拓人君にその件と婚約を白紙にすると話をしたそうだ。……それで彼は捨て身の戦法に出たのかもしれない」


 伯父さまが少し言いにくそうに言った。


「ご両親はきちんとした証拠を固めてから沙良ちゃんに話そうと思っていたのよ。貴女もあの時彼の行動を不安に感じていたようだから確実な話をするべきだと考えていたのね」


 伯父と伯母にそう言われた私は、両親が拓人の浮気を知っていた事に驚いていた。

「……お父さん達は、拓人の浮気を知っていたの……」

 私は思わずそう呟いていた。


 両親は、私の事故後に拓人にそれを告げ別れを迫った。
 それで追い詰められた拓人はあんな事を……?


「じゃあ、やっぱり松浦拓人が犯人だ! ある意味金づるだった沙良ちゃんとの婚約破棄を仄めかされたから、記憶を失い不安な状態の沙良ちゃんを連れ去って他の人間は全部悪だと思い込ませたんだ! そして結婚に反対する叔父さん夫婦を事故に見せかけて……!」


「……光樹! これはテレビドラマじゃない。私達の大切な沙良の事なんだぞ。面白おかしく言うんじゃない!」


 伯父に強く注意され、光樹さんは少ししょんぼりした。


「面白がっていた訳じゃ……。ごめん、沙良ちゃん。だけど俺は沙良ちゃんをアイツから解放してやりたいんだ。そしてもしアイツが本当に叔父さん達の事故を引き起こした犯人だったなら、早く捕まえて叔父さん達の仇をとってやりたい」


 そう真面目な顔で光樹さんは言った。


 伯父は困った顔で頷き、伯父が今分かっている事を話し出した。




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