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しおりを挟むあの時の全てを思い出した私は決意していた。
……拓人と、別れよう。
そもそも未来と付き合っているのなら、さっさと私とは別れれば良かったのに。
拓人とは4年も付き合ってしかもその浮気相手は大学の同じサークルの友人。あり得ないくらいにショックだけれど、こんな状態が続けられるはずがない。いずれ破綻するのなら早い方がいい。……幸いまだ婚約の段階なのだから、傷は浅い……と思いたい。
そう自分の中で結論づけていた所に、拓人が医師と一緒に病室に戻って来た。
私はそれに違和感を覚えた。何故、拓人は身内のようにその立ち位置にいるのか? まあ、今はまだ婚約者ではあるのだけど……。
そういえば、私の両親はどうしたのだろう。父は仕事があるからそうすぐには来れないのだろうが、母はこんな時は何を置いてでも駆けつけてくれそうなものなのに。
私は診察を受けながらポツリと尋ねた。
「あの……。母は、どうしたのかしら」
そう尋ねると、拓人は驚いた顔をした。
「お義母さん? 何を言って……、ああ、頭を打って混乱しているのかい? 沙良のご両親は僕たちの結婚式の前に事故で……」
「ッ!?」
両親が……事故!?
「そんな……! 事故ってどういうこと!? お父さんとお母さんはいったい……!?」
動揺して興奮する私を医師は慌てて止めた。そして拓人を部屋から出した後、興奮状態の私は薬で眠さられたのだった。
◇
『……沙良。お父さんは、本当のところこの結婚に賛成はしていないんだ。拓人君は好青年だとは思うがお父さんは何故か気に入らない。……コレが、男親ってものなのかね』
私と拓人の婚約が決まってから、夜に晩酌をしながら父がポソリと呟いた。
『……あなた。結婚は当人同士のものですからね。付き合って4年なのだし、拓人さんは『頑張り屋さん』だわ』
父を宥めながらも、自分を納得させるかのように言う母。
『頑張り屋さん』とは、ご両親が離婚して母親の元で育ち奨学金を返しながら働く拓人の事を、母はよくそう表現していた。
◇
……私はゆっくりと目を覚ます。お父さんとお母さんの、なんだか懐かしい夢を見ていた。まだ頭がズキズキと痛む……。いや、心が痛むのか。
薄暗い病室で、私は無機質な天井を見つめながら考えていた。
おそらく、両親は拓人との結婚を反対までしないものの決して賛成してはいなかった。
私は拓人の浮気の現場を見た直後は動揺してそれどころでは無かったが、今となれば両親は見る目があったのだ、と思う。……私だけが、恋に浮かれ拓人の態度に一喜一憂し周りが見えない状態だったのだ。
私は、はぁ、と息を吐いた。
……『沙良の両親は僕たちの結婚式の前に事故で……』
拓人はそう言った。
私を愛してくれた、お父さんとお母さんはもう居ない。母が今ここに来ていないのが何よりの証拠なのだろう。
そして、『僕たちの結婚式の前』……? 確か拓人はそう言った。私と彼が、結婚?
……まるで、一番の身内のように病室にいた拓人。
ッ! まさか本当に……? 拓人の浮気現場を見た後に事故にあってから、いったい何が起こったの? 私が眠っている間に両親が事故で亡くなりそれで拓人が籍を勝手に入れたの? でもそんな事をしていったい何になるの? 彼は未来を愛しているんでしょう?
私が事故に遭った事で、私を守るつもりになったって事なのかしら……?
私が思い悩んでいると……。
コンコン……、カチャリ。
ノックをして、間を置かずスーツを着た身なりの良い男性が薄暗い病室に入って来た。
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