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アルベルトの謝罪
しおりを挟むツツェーリアがいつものように王宮での王妃教育に行くと、久しぶりに会うアルベルト殿下から謝罪があった。
「話は聞いたよ。……本当に申し訳なかった。セイラ嬢にはよく言い聞かせたのでこれ以上ツツェーリアの所に行くことはないはずだ。そうすればある程度の噂も収まるとは思う」
アルベルト達が公務で10日間程学園を休んでいた間に起こっていたセイラの暴走。話を聞くとアレはアルベルト達の指示ではなかった。……やはり、という呆れの気持ちがツツェーリアに浮かぶ。
「……良いのですわ。事が王太子殿下の婚約に関わる事ですから、殿下側だけの悪評で済まないだろう事も最初から覚悟はしておりました」
「ツツェーリア……。……申し訳なかった。あと少し、卒業パーティーで全てのカタを付ける。それまでもう少しだけ耐えて欲しい」
「……分かっております」
……卒業まであともう少し。ここまでこの計画を進めてきて、今更ここで諦める訳にはいかない。
2人は今後の計画の進め方や起こり得る可能性などを話し合う。
「……それにしても、学園は社交界の縮図とはいえ皆本当に噂好きなのだな……。実は、マルクスも随分と悩んでいる」
「マルクス様の想い人の噂。……ですわね」
そもそもがマルクスが恋する令嬢に言い放った言葉。……『平凡令嬢』。
「幾ら愛する女性をマリアンネ様から守る為とはいえ、そのような不用意で失礼極まりない言葉を使うからですわ。……私はその令嬢に同情こそすれマルクス様に対してはまだ怒っておりますのよ」
「ツツェーリア……。マルクスも可哀想な位に落ち込んでいる。そしてこの計画の大詰めの大切な時期であるから彼女に近付く事も出来ない。謝罪する事さえ許されず、毎日暗い顔でやって来るマルクスを見ていると我らもかなり心が痛んでな……」
そう言ってため息を吐くアルベルトに、ツツェーリアも内心ため息を吐く。
「アルベルト殿下。……私、ミランダ様と少しお話をしたのです」
「ッ!? ミランダ嬢と? ……いや、今は貴女達も関わらない方がいいのでは……」
「私も関わるつもりはなかったのですけれど。
……実は例の『平凡令嬢』の噂をする男子生徒達を見かけまして、その余りにも失礼な言い分につい口出しをしてしまいましたの。……するとそれを偶然ミランダ様が聞いてらして、という事ですわ」
「……ミランダ嬢の噂は本人にも聞こえる程、そんなにも広がっているのか……」
アルベルトは少なからずショックを受けたようだ。
アルベルト達は王太子とその側近という立場であるが故に、あちこちで噂されてはいても本人達の耳に入る事は少ない。
……しかしミランダは違う。本人が居てもお構いなしにその失礼な噂はされているのだから。
「そうですわ。……ですから私はこれ程の怒りを感じているのです。
ミランダ様はその後、私にとても気持ちの籠もった御礼を言ってくださいました。私も本当は彼女をお慰めしたかったのですけれど……」
「……済まない。ミランダ嬢にもそしてツツェーリアにも……、とても辛い思いをさせてしまっている。私やマルクス達が辛い思いをする事などは当然の事なのだな。……この事をしかと胸に刻み、我らの真の願いの為必ずやり遂げると約束する」
アルベルトは決意も新たに真っ直ぐにツツェーリアに誓った。
「……私も。覚悟をいたしております。殿下にばかり心ならない行動をさせているのですもの。……特に最後の舞台ではしっかりとお役目を果たさせていただきますわ」
そして2人はしっかりと頷き合ったのだった。
◇
庭園でのアルベルトとの茶会を終えて廊下に出ると、そこにはいかにも待ち伏せをしていたような1人の男性が居た。
「……良いお天気です事ね。『シッテンヘルム侯爵』」
そこにはアルペンハイム公爵家とは別の派閥でもあり、そうでなくともあまり印象の良くない人物。マルクスの婚約者マリアンネの父であるシッテンヘルム侯爵が居た。
ツツェーリアは完璧な淑女の仮面を被りつつ対応する。
「ッあぁ……。そうですな。アルベルト殿下と……お茶会ですかな?」
こちらから話しかけられるとは思わなかったのか少し動揺気味の侯爵を見つつ答える。
「えぇ。……久しぶりの、交流なのですわ。最近殿下はお忙しいようで……」
そう言って少し俯き気味に言う。見ようによっては悲しげに見えるかもしれない。
……殿下は公務で忙しかっただけですけれど。
これで『王太子と婚約者の関係は危うい』と思われたとしても、向こうの勝手な思い込みですわよね?
シッテンヘルム侯爵はマリアンネや周囲からマルクスや王太子の不穏な噂は当然聞き及んでいるはず。
……これはおそらく、王太子の婚約者である私と殿下の仲を調べに来たのでしょうね? 可愛い娘マリアンネ様の為に。
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