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21 2人だけの茶会

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 辺境の地を統べる王弟であり叔父の公爵夫妻が挨拶を済ませ馬車に乗り込んでいく。



 叔父とねーちゃん……聖女オリビアとの話をした後、俺は国王夫妻とキャロラインと共に彼らのその姿を見送っている。

 
 キャロラインは俺の隣に来ると、ふんわりと微笑んだ。……今日も可愛い。彼女からは薔薇の優しい香りがする。俺はキャロラインの柔らかな手をそっと握った。彼女は頬を薔薇色に染める。もうホントに、超絶に可愛過ぎる。



 俺はあのパーティーでの翌日に、パーティーでの話や国王のパウロへの処分や教会へのコレまでの揉め事など今回の経緯の話せる部分をキャロラインに説明してある。……勿論、パウロがキャロラインの事が好きだった事は話してはいないけど。


「……そういえば。キャロラインはあれから聖女オリビアに2人だけでと茶会に誘われていたよね。どんな話をしたのか聞いても良いかい?」


 まさかとは思うが、オリビア聖女……ねーちゃんはキャロラインに変な事言ってないよな?


「…………ふふ。女同士の秘密ですわ」


 珍しく、キャロラインに軽く流されてしまった。ねーちゃんにも同じように言われたな。


 ……まあ、キャロラインが落ち込んでる様子もないし、今世義理の甥であり王子でもある俺の事をあのねーちゃんが変に言う訳もないか。


 俺はそう思って納得した。



 そして俺はパウロやねーちゃん達が出発するのを見送っていた。……その横で、キャロラインが俺をジッと見ていた事に気付かずに。



 キャロラインは愛するステファン王子を見つめながら、聖女オリビアとの茶会の事を思い出していた。


 ◇


「……急にお呼びたてして御免なさいね。ようこそお越しくださいました。ルーズベルト公爵令嬢」


 完璧な淑女の佇まいでキャロラインを茶会へ招待した聖女オリビア。彼女の銀の髪と青い瞳はため息が出るほど美しく神々しい。やはり聖女なのだと思わせる。


「ご招待いただきありがとうございます。先日のパーティーではお助けいただき、誠にありがとうございました。今日は聖女オリビア様とお話し出来ること、とても光栄でございます」


 キャロラインも美しいカーテシーを返した。
 由緒ある公爵令嬢であるキャロラインも流れるような金の髪に緑の瞳の美少女。

 2人が並ぶとまるで一枚の美しい絵画のようだった。


「ふふ。どうぞおかけになって」


 お茶のセッティングがされた後、侍女達が下がり聖女オリビアとキャロラインの2人きりとなる。


「……コレで、気兼ねなくお話が出来るでしょう? 私はまどろっこしい事が嫌いなので単刀直入にお話しさせていただきますわね。
……ルーズベルト公爵令嬢。貴女は前世の記憶をお持ちですわね?」


 キャロラインは一瞬動きを止めた。

「……前世……?」

 聖女の突然の発言に、キャロラインはどう答えていいものか迷った。


「そういうのはいいのよ。……私にはあるの。そして貴女もそうだと知っているわ」


 そう確信してじっとキャロラインの目を見てきた聖女オリビア。キャロラインは数秒程この聖女の美しい澄んだ瞳を見つめていたが……。


「……どうして、そう言い切れるのかお伺いしても?」

 それを聞いたオリビアはニコリと笑った。

「私は聖女。……全て、神からのお告げで知っているわ」


 キャロラインはその言葉を驚きの表情で聞いていたが……。


「…………『真摯に1人の女性を愛し抜けば、ザマァナシ』、……でございますか」


 あの、パーティーで聖女オリビアがステファン王子に言っていた言葉を口にした。


「(クスリ……)そうよ。貴女はもう分かっているはずよね?」


 キャロラインはあの卒業パーティーでの、聖女オリビアの『神のお告げ』を思い出していた。
 あの『神のお告げ』には驚いた。というか、この一年このにも違和感がありありだった。

 ……だって、余りにもストーリーが変わり過ぎている。


「……はい。私もこの一年、『本』の世界と現実との違いをずっと考えていましたから」


 キャロラインは、自分の知っている『本』の内容と今の自分の周りの世界の違いはなんなのか、ずっと考え続けていたのだから。
 そして、今聖女オリビアが『前世』の話をするという事は。


「……では、聖女オリビア様。貴女様がこの世界をあの本の内容から変えた、という事なのですか?」


 しかしそう尋ねながらキャロラインは少し……いや随分と落胆していた。
 今、自分の周りで起きた事があの本の内容と随分と違うのは、愛する人ステファン王子の愛の力なのだと、そう思っていたからだ。


「……いいえ? 私はただ手助けをしただけ。
貴女もこの一年ある程度感じていたのではないかしら? あの本のイベントの部分では自分がどれだけそう動くまいと考えても強制的にその通りに動かされてしまっている事を」


 オリビアはキャロラインの反応を確かめるように見つめながら言ってきた。


「……確かに、そうでしたね。ただ、あの話のイベントはほぼステファン殿下とヒロインの聖女との掛け合い。私も何度かその場に行こうとしましたが、何かしらの邪魔が入りどうしても彼の側に行けなくて……」

 そう言って悔しそうにキャロラインは俯く。

「そうね。『王子とドキドキイベント⭐︎』の時は、貴女必死でステファン王子を探していたものね」

「ッ! それも知って……?」


 キャロラインはバッとオリビアの顔を見た。


 あの『王子とのドキドキイベント⭐︎』から、王子と聖女サーシャは急接近する。迷子の聖女を助けいつの間にか2人で行動し仲を深めていくのだ。そしてそれを学園の皆に見られ婚約者である自分の耳にも届き、ステファン王子とキャロラインの間に溝が出来ていく。 


 ……オリビアは微笑んで頷く。

 それを見て、キャロラインは自分の思いを吐露した。


「……私は、この世界が前世で見た『ときめく恋を王子と☆学園の秘密……からの、ざまぁ!!』だと思い出した時……、絶望しましたわ。だって、私は既にステファン王子の事が……好きだったのですもの。初めて会った時から優しくて素敵な方でした。それは殿下の表向きのお顔だったのかもしれませんが……。
だけど、本の通りなら私は彼に裏切られて断罪される。幾らその後私が証拠を突きつけ無実が証明されるとしても、彼とのその結末は悲し過ぎます。心を寄せた方から裏切られるのはあまりに辛いと思いました……」


 前世を思い出してからずっと思い悩んでいたこの思い。この話を人に話すのはもちろん初めて。
 ……だからか、キャロラインは思わずほぼ面識の無かった聖女オリビアにつらつらと自分の思いを話していた。


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