上 下
1 / 24

プロローグ ソウタの話

しおりを挟む

「ねーちゃん。何だよ、コレ……」

 姉から手渡された数冊の本。それを見てゲンナリした俺は思わずそう呟いた。
 そんな俺の様子を見た姉は、信じられないとばかりにその整った顔を歪ませた。

「ちょっと! せっかく優しい姉がケガで部活が出来ないヒマで哀れな弟に、姉厳選のお気に入りの本を貸してあげようっていうのに……! 何なのその顔は!」

 心外だ! と要らん優しさを押し付けてきた姉。……しかしここで逆らうと更に面倒臭い事になるのは過去の苦い経験からよーく分かっている。賢い俺は、渋々ながらも大人しく従う。

「アリガトウゴザイマス、オネーサマ。…………読むかどうかは分かんねーけど……」

 つい最後にポツリと余計な一言を言ってしまった俺に、姉はニコリと笑った。

「……後で、感想聞くからね? どの話が1番アンタの心に刺さったか、50文字以上100文字以内でキッチリ聞かせてもらうからね?」

 ……何だコレ、拷問か。

 もうすぐ試合って時期に俺は階段を踏み外して怪我をした。暫くサッカー禁止のドクターストップがかかるという不幸に見舞われ落ち込む俺に、なんで更にこんな仕打ちが待っているんだ……。

 本の山を持ったまま固まる俺を満足そうに見た姉は、颯爽と自分の部屋に去って行った。……くそう。断っても受けても面倒なら、断っときゃ良かった。

 俺は渡された本の表紙を恐る恐る見る。

『ときめく恋を王子と☆学園の秘密……からの、ざまぁ!!』
『恋とラブラドール~モフモフは恋のキューピッド!?』……。

 ……ワオ。

 そう思いながら、その本達を自分の部屋に仕方なくいったん持っていって、ペラリとめくってみる。……めくる、まためくる。そしてめくる。めくる…………。

 あ。最後まで読んじまった。

 あー…、うん。まあまあだな……。て、すみません、意外に面白かったです。

 そう思いながら、俺は次の本に手を出した。

 ◇

「……行ってきまーす……」

 翌日。朝の日差しが眩しい。
 玄関から出た俺は、思わず目を閉じる。完徹明けの俺の目に容赦なく差し込む光。……昨夜は結局、夜通し姉ご推薦の本を読んでしまった。
 特に『ときめく恋を王子と☆学園の秘密……からの、ざまぁ!!』が意外にも面白くて……。

 ふわぁーと大アクビをしながら俺は考える。
 ……それにしてもヒロインのサーシャのあのあざとい演技に、なんであのおバカ王子はまんまと夢中になるのかね? あの王子は表面ばかりみて本質を見抜けないのかな。そりゃ将来国のトップになるのに向かないわな……。
 
 だいたいステファン王子は美人で完璧な婚約者を捨ててキャピキャピなヒロイン選んで、その後国が成り立つと思うのかね? アレは俺のクラスのオシャレとイケメンにしか興味がない一部の女子達と同じレベルだぞ……。
 そりゃ、あの王子はザマァされても仕方ねーわ……。

 そんな事を考えながら、また大アクビをした。……アカン、眠い。
 この調子で学校へ行って、また女子共に囲まれるのも面倒だな……。

 元々顔が小さく最近ぐっと身長が伸びた事で一見ルックスが良くなり、やたらと女子に絡まれる事が増えた俺。……うん。自慢では無いがモテている。

 今日は早くユウマ達と一緒にいていないと、絡まれて余計にダルいなぁ……。

 そんな事を考えて、俺はもう一つ大きなアクビをする。


 その時、前方で車のクラクションとブレーキ音がした。アクビを終えて前を見ると、歩道に車が突っ込んで来ていた。


 俺はその様子をまるでスローモーションを見るかのように眺めながら、「コレはアカンやつだ」とまるで他人事のように考えた。


 ……そしてそのまま俺は車とぶつかったのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど
恋愛
「ねぇ、お願いだから────さっさと死んでよ」 憑依そうそう投げ掛けられた言葉に、主人公は一瞬呆気に取られるものの…… 「はっ?お前が死ねよ」 と言い返し、相手を殴り飛ばす。 元々気の短い主人公は、周りに居た者達もまとめて窓から投げ捨てた────魔法の力で。 「さて、まずは情報収集からだな」 誰に言うでもなくそう呟くと、主人公は憑依した者の記憶を覗き見た。 と同時に、全てを理解する。 「くくくっ……!そうか、そうか。この小娘は憑依の対価として、親の“復讐”とアルバート家の“存続”を望むか」 憑依した者の憎悪を読み取り、主人公は決心する。 「いいだろう。その願い、確かに聞き届けた」 これは本物のアルバート家のご令嬢に代わって、主人公がクズ共を粛清し、やがて────帝国の頂点に立つお話。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

処理中です...