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46 クリストフの決意 その参

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 国王夫妻への断罪後、王宮のクリストフの執務室にてハインツとセリーナと仲間3人が集まっていた。


「クリストフ殿下におかれましては、ご両親であられる国王夫妻の罪を暴かなければならなかった事、誠にお辛い事であったとご心中お察し申し上げます」

 セリーナはそう言って頭を下げた。そして彼女の仲間3人も同じようにした。


「……いえ。これは国王夫妻自身が招いた事。それを罰するのは彼等の子である私であるべきだったと思います。そしてそれを叶えていただいたあなた方にはとても感謝しております」

 クリストフはそう言って、頭を下げた。

 セリーナ達4人はクリストフのその潔い態度に感心しつつ礼を返した。


「あの時衛兵に貴族牢に連れて行かれた国王夫妻は自分の思うように動けず話も出来ない状態に大層ご不満そうであられたが……。アレはどのくらいで解けるのですか?」

 クリストフは両親の状態を少し案じて聞く。だが、本人達が暴れて怪我をされるより余程安全な状態だったとは思っている。

「はい。あと1時間もすれば元通りになられるはずです。お身体に負担のかかるものでは有りませんのでご安心下さい」

 セリーナはクリストフが断罪を始めた時に、国王夫妻に魔法をかけた。あのまま興奮した国王夫妻が怒鳴り続けたり国王の権力でクリストフやこちら側の人間が捕縛されたりしては話が進まない。
 あの時クリストフからハインツに合図を送られればセリーナが速やかに国王夫妻を動けなくする魔法をかける事になっていたのだ。

「……良かった。ありがとう。両親は私の言う事を大人しく聞かれるはずがないと思ってお願いしてあったが……やはりと言うか、残念な事であった。
……しかしこれから裁判にかける際は、彼等の言い分はしっかりと聞かねばならない。そこに至るまでは国王に邪魔されてはならなかったから本当に助かったよ」


 クリストフは国王夫妻の身の安全にほっとした。しかしこれからの裁判でどう考えても彼等は死罪を免れない。しかし最後には彼等の言い分はきちんと聞いていかなければならないと考えていた。
 ……それが両親に対する子である自分の贖罪であり、これからこの国を導いていく為に残しておかなければならない『教訓』ともなる。


「……殿下。恐れながら、我が姉シルビア ラングレーはどうなりますでしょうか?」


 シルビアの妹セリーナに対する行いはクリストフとハインツは分かっている。そして、セリーナにもハインツから以前話をしたし、おそらくは後ろの3人も分かっているだろう。

 今までシルビアに対するセリーナの思いは直接は聞かなかったが、物心つく前に力を封印され更にその事で間接的にもシルビアはセリーナを見下し貶めていた。……おそらく恨んでいるだろう。クリストフは重い口を開いた。

「それは……。一年半前の災害時に能力を使わなかった事に関しては、力が目覚めてから磨かずにいた『封印』をいきなりあの場で使う事は難しいとは思う。
……しかし、我ら王国貴族は神から与えられた力をこの国の為に使う義務がある。それを怠った事は罪だが、しかしこの国の者は誰もがあの災害時に力足りず何も出来なかった。だからおそらくその事でシルビア嬢だけを罪に問う事は出来ないだろう」

 クリストフが考えていた答えを話す。セリーナは少し安心した表情になったが、クリストフはだがしかし、と話を続けた。


「……だがしかし、シルビア嬢が間違った能力の使い方をした事は別だ。妹であるセリーナ嬢の能力を封印した事。これは幼いからとか身内間だからといって許される問題ではない。……それにセリーナ嬢の力を封印した結果、あの人災を防げなかったという側面もある」


 クリストフははっきりとそう言った。

 そこにダリルとアレンが怒りも露わに言った。


「そうですね。特殊な『能力』は神よりの授かりもの。いわば神からの信頼で与えられたもの。それは世界共通の認識でしょう。ですからそれを百万歩譲って使わない事はまだ良しとしても、間違った使い方をする事は許されません。しかも、そのシルビア嬢は反省などせずその能力を使って魔力を奪った妹を貶めていたようですし」


「そうだよね。反省の色も見えないよね。そして聞いた所によると、能力がバレそうになったキッカケの元家庭教師をもどうにかしようと企んだんでしょう?」


 姉シルビアの事やダリルとアレンの発言に戸惑うセリーナの側でライナーは心配そうに彼女を見ていた。

 そしてクリストフはほぼ決定しているシルビアの処遇を告げた。


「その通りです。……ですので、シルビア嬢の処遇は魔力封じをつけたまま修道院に行くのが妥当かと。
……我が国の修道院はあなた方の世界とは違い教会自体の力はそれ程なく、国王の名の下に厳しく管理されています。その中で、魔力のない者として神に仕え生涯を慎ましく生きるのです」


 セリーナは皆の視線を感じた。

 みんな自分を心配してくれているようだが、セリーナ自身はシルビアに対してそれほど怒りや恨みなどはない。
 確かにこのレーベン王国で生まれ暮らしてきて魔力がなかった事はとても辛いことだった。そして両親の期待に応えられなかった事も辛かったが、彼等の愛に包まれ勉強も思う存分させてもらった事はとても有り難かった。
 そして初めから大きな魔力を持って生活していたのなら見えなかった物もたくさんあったと思う。魔力が封じられた事は不運だったが不幸ばかりだったとは思わない。

 それに前世を思い出したのは間違いなくあの時突然能力が目覚めるという強烈な衝撃があったからだ。


 無論あの災害が起こらず能力も普通に目覚めた状況であったのが一番望ましい。けれど、能力を封印されあの大災害で目の前で母やこの国のたくさんの人々が亡くなった中で、あの時のセリが唯一の心の支えになったのは前世を思い出したこと。

 ……そして今、ライナーに出会えて共にあることが出来てセリは幸せなのだ。


「クリストフ殿下。私は姉を憎み切る事が出来ません。……けれど、姉がしてはならない事をしたのは事実。正当な罰が与えられる事を望みます」


 セリーナはクリストフを真っ直ぐに見てそう言った。

 
 罪以上の罰が与えられる事は望まない。確かに辛い日々だったが、今セリーナは幸せだ。憎しみに浸り切ったままでいる必要などない。


「そうか。……分かった。ではシルビア嬢の事はそのように。
……セリーナ嬢。貴女はこれからどうされるおつもりか? ……ライナー殿と、この国で暮らされるのであればきちんとした処遇をさせていただくが」


 ずっと、セリーナのそばにはライナーがいた。いや、ダリルとアレンもほぼ一緒にいたのだが、なんというか距離感や視線の温度が違う。

 この一月、クリストフはこの2人の関係に気付かないではいられなかった。……ハインツはクリストフに気付かれないようにと随分と気を配っていたのだが、2人を良く見ていれば殆どの者は気付いただろう。

 しかし、その言葉に慌てたのはセリーナとライナー。


「えっ!? ライナーと一緒に暮らす? えーと、ダリルとアレンと4人で、という事でしょうか?」


「一応それは今回の事がきちんとするまでは秘密にしとこうって……」


「ちょっ……! ライナー! まだお父様にもお話ししてないのに!」


 2人がいちゃつきにしか見えない争いをしているのを、クリストフは寂しいような微笑ましいような複雑な気持ちで見た。

 そしてそれを見てハインツがこちらを気遣うのを感じたクリストフは、少し困った微笑みを彼に向けた。


「……大丈夫。セリーナ嬢とライナー殿を見ていたら分かるよ。幸せになって欲しい、そう心から願っている」

 それを見て聞いたハインツもなんとも言い難い表情をして頷いた。

 そしてハインツはまだ言い合っているセリーナとライナーに言った。

「セリーナ、ライナー殿! もう既に父上も2人の事をご存知だ。いつ報告されるのかと戦々恐々とされていた。今晩にでも、きちんと話をしなさい」


 2人はハインツの言葉を聞いてピシリと固まる。


「……え? ハインツ兄様? お父様が知ってらっしゃるの? というか、ハインツ兄様も? どうして?」

「ハインツ殿……、義兄上! これには深い訳が! 今回の事が無事に解決してから侯爵閣下にお話しようと……!」

 セリーナとライナーは慌ててそう言ったが、その横からダリルとアレンが呆れたように言った。


「え!? ちょっと2人とも、まだお話ししてなかったの? アレだけ堂々とイチャイチャしてたからてっきりセリのお父様にはお話ししてあると思ってたわよ!」

「あー、うん。確かにあれでただの仲間ですは通用しないよね。だって時々2人は自然に手を繋いだりしてたよ? ただの仲間の距離感じゃなかったからね? わー、セリのお父様も言うに言えなかったのかな。お気の毒……」


 2人の追撃に青くなったり赤くなったりするセリとライナーだった。



 これからレーベン王国の国政的には、クリストフ王子が国王代理としてハインツを中心とした信頼のおける貴族達と共に国の立て直しと前国王夫妻の裁判を行い罪を暴いていく事になる。勿論その際にはハインツを通してセリーナ達も協力を惜しむつもりはない。


 ……だが今日は、これから大きなイベントが待っていた。



 
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