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27 レーベン王国との会合 その壱
しおりを挟む「ようこそいらっしゃった。……レーベン王国の高貴な方々」
教皇はとある国の大教会を訪れていた。
ここはレーベン王国の隣国。世界の教会の長たる教皇がわざわざ出向いての会合は賛否あるのだが、レーベン王国の特殊性から毎回教皇がここまで出向いての会合になる。
今回はレーベン王国国内事情により2年ぶりの会合であった。
各国の誇るそれぞれの大教会には元から教皇がいつでも快適に滞在できる為の部屋が設えてある。
特にこの国の教会は何度もレーベン王国との会合がされて来た為に、特に豪華絢爛で美しい作りとなっている。世界の教会の権威をレーベン王国に知らしめる為だ。
「お会いできて光栄にございます。輝かしき太陽が貴方様を照らしますように。
私はレーベン王国王子クリストフ レーベンでございます」
今回レーベン王国からやって来た使者は3名。王子と壮年の男ともう1人は若者。
壮年の男は外務大臣のブルーノ ヒルバート。若者は魔法使いハインツ ラングレーとそれぞれ名乗った。
「あなた方にも等しく輝かしき太陽が照らすように。……さて、立ち話も何ですから席へお掛けくだされ」
そう言って向かい合わせの長いテーブルの席を勧める。
あちらは魔法力の非常に高いレーベン王国の人間。昔の教皇が上段の席からの謁見スタイルで会合をしようとしたらかなりの反発を喰らったことがあったそうで、今は同等という立場で会合をする事が定番となっている。
「さて、二年ぶりの会合ですが随分と顔ぶれが若返られましたな」
教皇がそう声をかけると、2年前にも来ていたヒルバート外務大臣が応えた。
「はい。私は2年ぶりでございます。……昨年起こりました災害により人事も一新しておりまして。そしてこの2年の輝かしき教皇様の日常をお教えいただきたく……」
この、『教皇の日常』という言い方がミソだ。彼らは素直に世界の情勢を教えてくれとは言わない。……本当にどうでも良い日常を話してやろうかと何度か思った事がある。
「……ふむ。教会としては『勇者』が病で引退し新しき勇者が旅立った事であるかな。……それと南の王国では果実が豊作らしく、それは美味しい果物をたくさん贈ってくれるのじゃ。神の恵みとはまこと素晴らしいものですな」
とりあえず知られても困らない情報を垂れ流しておく。
「……それと、レーベン王国の周辺の国々は大変な災害に遭われた貴国に援助や人員を送りたいと何度もこちらに相談されるのじゃが。そちらに送った使者が何度も断られたようで、各国は非常に貴国を心配しておる」
含みを持たせてそう言うと、3人は一瞬顔色を変えたが1人の若者以外はすぐになんでもない顔をしてみせた。
「そうでございますか……。各国のお心、非常に有り難く存じます。しかしながら猊下もご存じの通り我が国は大いなる魔法で守られた『魔法大国』でもあります。心配は一切ご無用にございます。各国の皆様方にもそう感謝と共にお伝え頂ければと」
クリストフ王子が微笑みながら言った。
……流石、ではあるが……。
本当に困っている時には上手く助けを求める事も必要じゃとは思うがの。勿論各国は好意で言っているのではない。全て分かった上で上手くそれを利用出来るのかも国を預かる者の才覚なのじゃがな。
教皇はそう思いながらも、「そうでしたか。これは要らぬ事を」と微笑んで見せた。
するとそんな教皇を見て王子が少し考える様子を見せてから切り出した。
「猊下。私からも宜しいでしょうか。
……実は、私どもは人を探しております。昨年の災害時から、私の大切な方の行方が分からなくなっておりまして……。必死に探してはいるのですが、何せ大災害の最中でしたので彼女の行方は杳として知れず。……困り果て、こうしてこの機会に是非にご助力いただけないかと厚かましく願いを持って参ったのです」
真剣な表情で願い出たクリストフ王子に、教皇は、はて、と問いかける。
「彼女……、女性ですかな。昨年の大災害の折にはたくさんの難民が貴国から出たと記憶しております。既に一年以上経ち、その難民もあちこちに散らばりそれぞれの生活を再建している事でしょう。それにその女性は連れ去られた訳ではなく、自ら貴国を出られた、という事ですかな?」
教皇がそう切り込むと、王子は一瞬言葉に詰まる。……その時、若い男が話し出した。
「失礼いたします。私はハインツ ラングレーでございます。……実は行方知れずになったのは私の妹でございして。私はあの大災害の前に妹に酷い仕打ちを……。それで妹は出て行ってしまったのです。……どうかお願いでございます。妹を……セリーナを、探し出す為ご協力をいただけませんでしょうか?」
ハインツと名乗った者は苦しげにしながらも、しっかりと教皇の目を見てそう言った。
……うむ。ハインツ殿の妹御を思う気持ちは真のようじゃな。そして、『セリーナ』嬢か……。
「……うむ。そのお辛い気持ちは痛い程分かります。しかしご協力したいのは山々ですが、何せこの広い世界で1人の女性を探し出すのは非常に難儀な話ですぞ」
教皇がそう言うと、3人は分かりやすく落ち込んだ。
……彼らの今回の主な目的は『セリーナ』嬢の情報を探る事、か……。
「まあ、各地の教会に連絡し該当する女性が居ないか確認させましょう。……それでは、その前にお茶菓子など持って来させましょうか」
教皇はそう言って、机に置かれていたベルをチリンチリンと鳴らした。
「……ふふ、良い機会ですから私の愛しい孫娘をご紹介いたしましょう。……あぁ、とても美しい子ですが手を出す事は決して許しません。私の教皇としての権威を全て使ってでも阻止いたしますぞ?」
そう冗談めかして言う教皇に、苦笑いするレーベン王国の3人。
……今の教皇は結婚をしていないと聞いていたのだが、隠し子でも居たのか? しかし教皇の孫娘ならばこの世界ではそれなりの魔力を持つはずだし世界の教皇の身内にもなれる。ハインツの結婚相手にちょうど良いのではとクリストフは考えその娘の訪れを待った。
「……失礼いたします」
扉が開き、1人の女性が入室して来た。一際輝く銀髪を緩やかにまとめ、若い娘らしい薄いピンクのデイドレス。その後ろからは赤髪の護衛騎士。
レーベン王国の3人は横目でその女性を見た。
「「「……ッ!!」」」
3人は息を呑んだ。そしてその女性に釘付けになる。
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