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17 仲間達の悩み

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 ダリルとアレンはまだ何か言い合っているセリとライナーを優しく見つめながら思う。


 ダリルとアレンは、元々は身分のある身だった。……だからこそ知っている。


 セリの出身国であるレーベン王国は、言わずと知れた『魔法大国』だ。
 レーベン王国の王侯貴族は世界の国々の高位の魔法使いなど足元にも及ばない程の実力の持ち主だとは聞いている。

 ……『聖女マリア』の騒動で、セリから『自分の力は結構な強さかもしれない』と告白された時、ダリルとアレンはレーベン王国の貴族の強さを鑑みて、成る程と話を聞いていたのだが。

 ……しかし。
 2人がその力が普通ではないと気付いたのはセリが使った『転移』を見た時。
 これは世界ではほぼお伽話の魔法使いだけしか使えない魔法である。いや、むしろ殆どの人々は実際の魔法だとは信じてはいないだろう。
 ……しかもセリはライナーと一緒に転移したり、教皇と聖女だけを転移させたりと自由自在な使い方なのだ。

 『魔法大国』と呼ばれるレーベン王国でも、ここ数百年は本当は『転移』を使える者は居なかったのではないか? というのが最近の各国の王侯貴族の考えであった。

 勿論、レーベン王国は今もその力を使えるような物言いをしているのだが、それは国としての『ハッタリ』ではないだろうか? 当然確かめる術はないからあくまでも推測ではある。

 それにもし仮に今もレーベン王国の人間が『転移』を使えるとしてもそれはほんの僅かな一握りの人間であるはず。……その僅かな貴重な使い手の1人である『セリ』。
 ……いわば『超高位魔法使い』であるセリが他国に出奔していることが異常事態なのだ。しかも約一年半前に大災害があり、セリはちょうどその時期に国を出たと話していた。

 レーベン王国はその国内情勢は外からはなかなか窺い知れないものの、一年半前の未曾有の災害からそうすぐに立ち直れるとは考えにくい。そんな時自国の『超高位魔法使い』を国外に手放すだろうか?

 ……もし彼女がここにいる事がレーベン王国に知られれば、彼女は連れ戻されるのではないか?

 ダリルとアレンはその事を心配していた。


 実際問題、レーベン王国の人間が押し寄せて『セリを返せ』と言って来たのなら、自分たちは守り切る事が出来るのだろうか。


 そうなると、ライナーとセリの恋はかなり難しくなってくる。


 そして、レーベン王国にセリの存在を気付かれた時。彼らがいったいどう動くのか、そして自分たちはどう動くべきなのか。悩み考えるダリルとアレンだった。





 ◇  



「え? 教皇さまに?」

 セリは驚いてダリルとアレンを見た。

 ある日の夕食。
 今日は嵐の為ダンジョン攻略はお休みだった。こんな日はのんびり家で過ごす事が多い。

「なんだよ、2人とも。セリに教皇様になんの相談をしろって?」

「ライナーはいったん黙ってて。……ねぇ、セリ。レーベン王国の家族がセリを探すっていう可能性はないの?」

「私の……家族が? いえ、無いと思います。母が死んで多分私も一緒に死んだと思われてると思うので……」

「? それどういう事?」


 セリはレーベン王国での未曾有の大災害が起こった時に母が自分の目の前で死んだこと、その時にセリの今の力が目覚めて魔物達を退治した事を話した。

「いえちょっと待って、セリ。……それじゃあ、あのレーベン王国の魔物騒動の時それを殲滅した魔法使いって……」


「…………私……ですかね?」


 ダリルもアレンもそしてライナーも。3人共一気に脱力した。

「そっか……、そりゃそうだよね。『転移』なんてお伽話な魔法が使えるんだから、そりゃもうレーベン王国一だよね……」

 アレンがそう言えば、

「そうよねぇ……。お伽話なんだから未曾有の大災害も一瞬なのねぇ……」

 ダリルももはや何を言っているのか分からない。

「……おいおい、2人ともしっかりしてくれよ。セリがビックリしてるだろ? セリがすげぇのなんか、初めから分かってたじゃねーかよ。そんなすげえセリがうちの治療魔法士なんだぜ?」

 ライナーはそう言って嬉しそうに笑った。

 ダリルとアレンはハッと我に返る。

「……嫌だ。本当ね、ワタシったら何惚けてたのかしら」

「本当だ。ごめんね、セリ。……でも話はその事なんだ。教皇様に、その事をお話したらどうかと思うんだ」

 セリは2人の様子がいつもと同じようになったのでホッとした。
 ……力って、無くてもあり過ぎても困るものなのね……。


「レーベン王国の家族が私を探すってこと? でも私は力が目覚めるまでは治療魔法以外は本当に何も出来なくて。
それに母と一緒に外へ出て魔物に襲われた事はお姉様も知ってるだろうから、きっと私は死んだと思われてるし、魔力なしだった私をわざわざ探したりしないと思うわ」

 セリも最初は家族が自分を探すかも? と思った事もある。
 けれどヒヤヒヤしたのは国を出る時位で、後はまるでそんな気配がなかった。……ちょっと肩透かしを食らったくらいだった。

「ちょっとセリ。そのセリの姉はどうしてセリとその母が外へ出たって知ってるの? 知ってたのに助けてくれなかったの?」

 ダリルが怒りのコメントを入れる。

「まあまあ、とにかく非常時だったんだから、止める間もなかったんじゃ無い? それを責めちゃ可哀想だよ」

 一応宥め役のアレンだった。

 それを聞いて考えていたライナーだったが……。

「……セリ。2人の言う通りだ。一度教皇様にご相談申し上げた方がいいと俺も思う。
災害から一年以上経つが、レーベン王国が復興した話は一向に聞こえて来ない。復興の力を求めてありとあらゆる可能性を考えてくるかもしれねぇ。追っ手が来てからじゃ遅いからな。
教皇様ならきっと何か良い知恵をお持ちだ」


 珍しく真剣な様子のライナーに、セリは思わず頷いたのだった。



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