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16 恋の行方
しおりを挟む聖女マリアの騒動から暫くして、『勇者』一行は謎の病気に罹ったとして引退した。すぐに新たな『勇者』が選ばれ、メンバー総入れ替えをして『魔王』を倒す旅に出発したと教会から大々的に発表された。
「俺たちの次の勇者達も全員あの聖女マリアに毒されて病んでたみたいだな。まあ5年も勇者やってたんだから、ほんとお疲れさんってとこだろ。俺も2年ほど旅し続けてたけど相当しんどいもんだったからな。『勇者』は2、3年で交替って位がちょうどいいのになー」
ライナーは『新・勇者旅立つ!』と書かれた新聞を見ながらそう言った。
ちなみにこの新聞は、今朝教皇からもらってきた最新版だ。本来ならこの地方都市にはその最新の情報が来るまでにひと月近くはかかるだろう。
あれからセリは、たまに教皇のところへ行っている。
魔法の『念話』で教皇からちょくちょく連絡が来るのだ。今回は珍しい果物が手に入ったので取りにおいで、という魅力的なお誘いだった。
「ほんっとうに、教皇様はセリにメロメロよねぇ。今回いただいた果物だって教皇様に捧げられた南国の随分珍しい果物でしょう? 普通なら私達には一生口に入らないものだわよ。セリに感謝よねぇ」
ダリルがあの果物の美味しさを思い出しトロンとした顔をしていると、アレンは心配そうに言った。
「でも、もしも教皇様が無理な事を言って来たらもう行かなくていいんだからね? それにその時点で僕達にちゃんと話すんだよ」
「あー、大丈夫だろ? 貰ってばかりじゃ悪いからこっち特産の果物を持って行ってるし……。貰いっぱなしは後がこえーからな。ちゃんと貸し借りなしにしてる!」
ライナーは胸を張って言った。セリは教皇の所に行く時は必ずライナーと一緒に行っている。
実は最初の『転移』の時も、勇者の仲間の時一度教皇の大教会に行った事のあるライナーと一緒に転移してから、教皇の部屋に転移した。全く知らない土地には転移は出来ない。だからセリは祖国を出て1年、『転移』を使えず旅を続けていたのだから。
そしてライナーの見立てでは、教皇は『初孫の女の子にメロメロになってるじいじ』状態だ。しかし貸し借りがあると後で難題を押し付けられる可能性があるので、お互いに渡し合う貸し借り無しの対等な関係を目指している。
――しかし、問題が一つ。
「……でも教皇は『お前は悪い男ではないが、セリ様の相手はワシが認めた男でないと許さない!』とかほざいてんだよなー! イヤ、教皇アンタはセリのなんだよ!? 本気で祖父と孫娘のつもりかいっ!」
ライナーの叫びにダリルとアレンは苦笑しつつ言った。
「まああんなにセリを可愛がっている教皇様ならそう思うのも仕方ないんじゃない? かくいう私もセリの相手にいい加減な男は許さないわよ!」
「そうだよね! セリは僕らの可愛い妹分なんだから! セリを傷つけるヤツは誰であろうと、例えライナーでも許さないからね!」
2人に宣戦布告? されたライナーは驚き慌てる。
「ッ!? オイ! お前らまでなんだよ!? だいたい俺がセリを傷付けたりなんてする訳ねーだろっ! 俺はセリ一筋だ!」
そう言って抱き込もうとしてきたライナーをセリは華麗にかわす。
「ちょっ……! ライナー! やめてよねみんなの前で恥ずかしい!」
そう赤くなりながら逃げるセリ。ライナーはすかさず言った。
「ッ! すまん! ……じゃあみんなの前じゃなきゃいいんだな?」
「な……な……っ! 何を言ってるのライナーッ! もう知らないんだからーーっ!」
真っ赤な顔をして、自分の周りにライナーが触れないように魔法で『防御壁』を張ったセリに、ライナーは本気で焦りダリルとアレンは笑い合った。
……そんな仲間たちを見てセリは思う。
(旅に出て良かった。ライナーやダリルやアレン、そして教皇さまやギルドや街の人たち。色んな人に会えて、支え合って生きていくことは本当に幸せだわ。
……それに……)
チラリと向こうで少し落ち込みながらもこちらを子犬のような目で見るライナーを見る。
(ライナーに……、また逢えた。そしてこれからも、ずっと一緒に居られるんだわ……)
湧き出るような喜びを胸に、ライナーを見つめるセリだった。
「ふーーッ! まあ今日のところはこの位にしといてあげるわ、ライナー!」
散々ライナーを揶揄って満足したダリルはそう言って満面の笑顔でライナーを見た。
「お前らな……。俺はまだセリにいい返事貰えてねーんだから、ちょっとは加減しろよ……」
弱りきった顔でライナーは項垂れつつ言った。
「まあ、そりゃあ可愛いセリと付き合おうなんて思ったら、どれだけの障害があると思ってるのさ。こんなの序の口だからね?」
アレンもまた容赦ない。
ダリルもアレンも本当はライナーを応援したいのだが……。実のところセリとの恋は相当難しいのではないかと考えていた。
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