10 / 62
7 ライナーの過去
しおりを挟む4人はテーブルを囲み注文をしても暫く無言だった。
……やがて「済まなかった……」とそれだけをライナーは呟いた。
誰にでも、人に言えない秘密がある。
セリもまだ3人に言えない話はあるし、この3人もそれぞれ何かを抱えていそうだった。隠し事ばかりでは良くないかもしれないけれど、どうしても言えない……言いたくない事は誰にでもあるものだ。
それが分かっているから、3人は何も聞かなかった。そしてだんだん4人はポツリポツリとどうでも良いような話をしていった。
……しかしその日はいつものように盛り上がる事はなかった。
そしてその夜。
いつもより少し早く家に帰り、それぞれ風呂に入ったり寝支度をしているとライナーが皆に声をかけた。
「みんな……。悪りぃ、ちょっといいか?」
その真剣で少し緊張した様子に、3人は彼が何事かを告白するつもりだと察した。彼らはそれぞれ秘密を抱えているが、話す気になった仲間の秘密は真剣に聞き尚且つ意見を求められれば述べ、そしてその後は自分達の秘密にする覚悟がある。
皆が居間に集まると、ライナーは緊張した様子でポツリポツリと話をし出した。
「今日は……すまん。なんかおかしな雰囲気にさせちまったよな。今日のアレは……。昔の、おれの仲間なんだ。パーティーを組んでてアイツは……『聖女』だった」
……仲間。……恋人じゃ、なかったのかな?
おそらく3人共そう考えた。しかし本人が言わない事を敢えて聞き出す事はしない。
……と、思っていたのだが。
「そうなのね。凄い美人さんだったしライナーを熱い視線で見てたから、恋人だったのかと思っちゃったわ」
ダリルは意外にあっさりと聞いた。
「……違う。アイツは、俺の仲間の恋人だったんだ。俺の……とても大切な、ちっちゃな頃からの仲間だったヤツだ」
ドクリ……。
ライナーの言葉を聞いてセリは胸が騒めく。
『ちっちゃな頃からの』……レオンのこと?
『仲間だった』……過去形? ……どうして?
「大切な仲間……。勇者レオンの恋人だったってことか」
アレンがズバリと言い、ライナーは明らかに動揺した。その横ではセリも驚いていた。
「んなっ……! お前達知って……!」
「……ったり前でしょう? アンタ元から有名人だったからね? いくら遠い国の端の地に来たって、世界的に有名な勇者とその仲間なんか冒険者ならまず知ってるわよ。半信半疑だったりただ同じ名前だと思ってる奴らもいるでしょうけどね。ああ、私たちはライナーが勇者の仲間だからパーティーを組んだ訳じゃないわよ? ただ気が合っただけ。
ずっと黙ってるつもりだったけど、セリも一緒になった事だし良い機会だからちゃんと分かってるって伝えておきたかっただけよ」
ダリルがツラツラと言った言葉に、ライナーは俯き「そうか……、知ってたのか……」と呟いた。
レオンが『勇者』……!
セリは驚きつつ皆がサクサク話を進める今ならと、この3ヶ月ずっと聞きたくて聞けなかった質問をセリも聞いてみる。
「あの……! その、レオンは……、あの女性と付き合ってたの? それに、今勇者レオンはどうしてるの……?」
『勇者レオン』。……前世での、セリの弟。
セリが姉として生きていた時はただのレオンだったけれど。あの頃から剣も魔法もピカイチの才能を持っていた。
そして、そのレオンの幼馴染で親友だったのがライナー。……前世でのセリの、初恋の人だった。
今までずっと聞きたかったけれど聞けなかった。あれ程仲の良かったライナーとレオン。それがどうして今は一緒ではなくてこんな故郷から遠く離れた街にライナー1人でいるのか。
「セリ。……知らないの? 勇者レオンは……」
言いにくそうに言ったアレンのその言葉を聞いた瞬間、セリの意識は暗転した。
2
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。
だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。
そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。
薄幸の令嬢は幸福基準値が低すぎる
紫月
恋愛
継母に虐待を受け使用人のような扱いを受ける公爵令嬢のクリスティナ。
そんな彼女は全く堪えた様子もなく明るく前向き!
前世でも不遇な環境だった為に彼女が思う幸福は基準が低すぎる。
「ご飯が食べられて、寝る場所があって、仕事も出来る!
ありがたい話です!」
そんな彼女が身の丈以上の幸福を手に入れる…かもしれない、そんな話。
※※※
生々しい表現はありませんが、虐待の描写があります。
苦手な方はご遠慮ください。
前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです
珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。
老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。
そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。
中イキできないって悲観してたら触手が現れた
AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?
粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。
処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される
葵 すみれ
恋愛
人質として嫁がされ、故国が裏切ったことによって処刑された王女ニーナ。
彼女は転生して、今は国王となった、かつての婚約者コーネリアスの娘ロゼッタとなる。
ところが、ロゼッタは側妃の娘で、母は父に相手にされていない。
父の気を引くこともできない役立たずと、ロゼッタは実の母に虐待されている。
あるとき、母から解放されるものの、前世で冷たかったコーネリアスが父なのだ。
この先もずっと自分は愛されないのだと絶望するロゼッタだったが、何故か父も腹違いの兄も溺愛してくる。
さらには正妃からも可愛がられ、やがて前世の真実を知ることになる。
そしてロゼッタは、自分が家族の架け橋となることを決意して──。
愛を求めた少女が愛を得て、やがて愛することを知る物語。
※小説家になろうにも掲載しています
婚約破棄は夜会でお願いします
編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。
夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。
お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか?
お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。
待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる