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4 新たな暮らし

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 ライナーは炎の魔法使いで剣豪。雷魔法と剣使いのアレン、探索と風魔法と弓のダリル。同年代の3人はパーティーを組みこのイルージャの街で冒険者をしている。彼らはこの街一番……いや、この国一番の冒険者なのだそうだ。

 そして彼らは街から少し外れた所にある小さな家を借り3人で共同生活をしていた。この借家の主を魔物から助けた事があり、格安で提供してもらっているのだそうだ。キッチン風呂トイレ付、もう一部屋空いていたのでセリにちょうど良いと連れて来られたのだが……。


「……すまん。この部屋はずっと放ってあったから、ほぼ物置状態ですぐに入れる状態じゃなかったな。あー、片付けは明日するとして、今日は俺の部屋で一緒に寝るか?」

 セリを部屋に案内したライナーが、その空き部屋の状態を一目見て言った。

 ……うん。確かにこの状態ではムリだな。ベッドのシーツは、いったいいつからこの状態なんだろう? 部屋には薄く埃が積もっていた。

「……あの。今日はさっきの居間で寝させて貰えれば充分ですから。明日は1日部屋の片付けをさせてもらっても良いですか?」

 このいかにも寝相の悪そうな男と一緒に寝たら、明日には押し潰されてケガをしていそうだ。それに……。

「勿論、いいわよ。明日は私たちも休みにするから、一緒に必要な物を買いに行きましょう? 今からバタバタ片付けても今晩はこの部屋では寝られそうにないでしょうし、居間のソファーで寝られるように予備の毛布を持ってくるわ」

 コレは弓使いのダリル。お聞きの通り、お姉様的要素のある男性のようだ。うん、綺麗な中性的な人。

「なんで? 俺の部屋で寝れば――」

 そう言いかけたライナーはダリルに一喝される。

「ライナー! なんでセリがお前と一緒に寝るんだよ! しかも昨日この街に来たばかりで疲れてるだろうに」

「す、すまん……」

 ダリルは意外にも素直に謝るライナーに「この部屋、大まかに片付けといて? 私はご飯の支度をセリとするから!」と部屋に押し込め、2人で料理をした。

 優しいお兄さん的なアレンは予備の毛布を出したりお風呂の準備をしていた。
 
 家の中では、ダリルが取り仕切り皆を上手く動かしているようだった。

 そしてこの日の夜はセリの歓迎会と称した飲み会となり、たくさん飲んで話をして気持ち良くなったセリは疲れもありそのまま寝てしまったのだった。



「……あらぁ、セリったら寝ちゃったみたいね。ふふ……。可愛いわねぇ、この寝顔。まだまだ子供よねぇ」

 ダリルはセリを愛おしそうに見つめ毛布をかけてやった。

「ライナー。お前飲ませ過ぎたんじゃないのか?」

 心配そうにセリの顔を覗き込むアレン。

「え? コレジュースだぞ? ……て、ありゃ? 間違って酒の入ったのも飲んだんじゃないか? 殆ど飲んでないだろうけど、相当アルコールに弱いんだろうな。コレから気ぃ付けてやんねーとだな」

 そう言いながら、セリの頭を優しく撫でてやる。聞こえてくるのは規則正しい寝息。それを見ながらライナーは呟いた。

「……銀の髪に紫の瞳。そして自分の『治療魔法』が弱いと思い込んでた。コレってやっぱりセリは……」

 ライナーのその呟きにダリルが答えた。

「……そうね。ダンジョンから魔物が溢れて国がいっとき壊滅寸前になったっていう、この国から二つ国を挟んだレーベン王国の出身、という事よね」

 レーベン王国は魔法がずいぶん発達した国と有名だった。一年前も魔物が溢れたものの、高位の魔法使い達によってなんとか抑えられたと聞いている。そうでなければ、レーベン王国からも魔物は溢れ各国に被害が及んでいた事だろう。
 しかしそれでも国民達には随分と被害が出たらしい。魔物達に住んでいた街も畑も荒らされ、逃げるように周辺国に難民達が流出したと聞いている。そのレーベン王国の国民の特徴が銀髪紫の瞳だった。

「一人で国二つ挟んだこの国まで来るのは相当苦労したはずだろう。良さそうな子だし出来るだけ守ってあげたいね」

 アレンがそう言うと、ライナーとダリルは頷いた。

「それに……。ふふ。ちゃんと女の子用の服も揃えないとね」

 ダリルが微笑みながら言うと、

「「は?」」

 あとの男2人は固まったのだった――。


 
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