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本編
8:領都
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幸せな気分で眠りにつき、翌朝。
「あれが我がアロガス領の領都です」
街道に沿って進む馬車の中からアデル様が右手に見える町並みを示す。
「へぇ……綺麗な町並みですね」
馬車の右手側……私の座る側の窓から見える麦畑の向こうに並んだ町並みを見て呟く。
夏空の下、青々とした麦の向こうに白い外壁と赤いレンガの屋根が並んでいるのは牧歌的でありながら爽やかさがある。
今でも美しい光景だが、これが収穫時期の秋になったら黄金色の麦穂が揺れる中に白い壁と赤い屋根の家が並びより美しく映える事だろう。
「さすがは、アロガス領ですね」
「今の領都は、歴代の伯爵が築いたものだからね」
アロガス伯爵領は、歴史の古い貴族家である。それゆえに、領都は大きく、周囲の麦畑も広い。
麦畑の周りには、それを管理する農家の集落も点在しており、普通であれば豊かな収入のある領地だと思われる。
それすら食い潰した前妻とあのドラ息子は何をやったんだか……。
目の前に広がる豊かな土地に乾いた笑いしか起きなかった。
鮮やかな麦畑を通り抜け、馬車は町の中へと入る。
活気のある町は、アデル様が善政を敷いている証だろう。
「……アデル様。どうして、うちに身売りする事になったんですか」
「……本当に、不思議だよね」
善き領主として、働いている事はこの町を見ても明らかなのに、あまりにも報われない。
この旅の道中で、まだまだ繁栄できる可能性は思いついていたけど……それでも、当主が借金のせいで婚約するなど思えない町だった。
「当主として、夫として、私にできる事はしてきたつもりなんだけど……義父上の後を継いで、良い領地治めるだけでは、彼女にはもの足りなかったようだ」
前妻の借金の詳細は聞いていない。穏やかなアデル様にもプライドがあると思ったからだ。
お金の為に婚約した小娘に前妻の借金の使い道や返済先など知られたくはないだろう。
「こんなにもいい町なのにもったいないですね」
最初は負債にしか思えなかった町だったけど、アデル様の努力を知るとあのドラ息子に渡すにはもったいないなと思った。
……まあ、それは領地の内情を改めて知ってからでいいとも思うのだけど。
「あれが我がアロガス領の領都です」
街道に沿って進む馬車の中からアデル様が右手に見える町並みを示す。
「へぇ……綺麗な町並みですね」
馬車の右手側……私の座る側の窓から見える麦畑の向こうに並んだ町並みを見て呟く。
夏空の下、青々とした麦の向こうに白い外壁と赤いレンガの屋根が並んでいるのは牧歌的でありながら爽やかさがある。
今でも美しい光景だが、これが収穫時期の秋になったら黄金色の麦穂が揺れる中に白い壁と赤い屋根の家が並びより美しく映える事だろう。
「さすがは、アロガス領ですね」
「今の領都は、歴代の伯爵が築いたものだからね」
アロガス伯爵領は、歴史の古い貴族家である。それゆえに、領都は大きく、周囲の麦畑も広い。
麦畑の周りには、それを管理する農家の集落も点在しており、普通であれば豊かな収入のある領地だと思われる。
それすら食い潰した前妻とあのドラ息子は何をやったんだか……。
目の前に広がる豊かな土地に乾いた笑いしか起きなかった。
鮮やかな麦畑を通り抜け、馬車は町の中へと入る。
活気のある町は、アデル様が善政を敷いている証だろう。
「……アデル様。どうして、うちに身売りする事になったんですか」
「……本当に、不思議だよね」
善き領主として、働いている事はこの町を見ても明らかなのに、あまりにも報われない。
この旅の道中で、まだまだ繁栄できる可能性は思いついていたけど……それでも、当主が借金のせいで婚約するなど思えない町だった。
「当主として、夫として、私にできる事はしてきたつもりなんだけど……義父上の後を継いで、良い領地治めるだけでは、彼女にはもの足りなかったようだ」
前妻の借金の詳細は聞いていない。穏やかなアデル様にもプライドがあると思ったからだ。
お金の為に婚約した小娘に前妻の借金の使い道や返済先など知られたくはないだろう。
「こんなにもいい町なのにもったいないですね」
最初は負債にしか思えなかった町だったけど、アデル様の努力を知るとあのドラ息子に渡すにはもったいないなと思った。
……まあ、それは領地の内情を改めて知ってからでいいとも思うのだけど。
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