上 下
19 / 83
二章:二度目の幽世

19:左耳に聞こえる息遣い

しおりを挟む
(ずっと見てただけなのにっ!なんで急にこんなにも接近してくるんだ!)

 ぞくぞくとした心地悪さを感じながら住宅街を抜けた渉の視界に、高台の神社へと続く鳥居と階段が映る。

(あと少し……あと少しだっ!)

 鳥居が見え、渉は一瞬安堵した。

「っあ……!」

 だが、その瞬間。渉は左足首を掴まれたような感覚と共に転倒する。

「ぐっ……!」

 両手を着いて倒れた為、顔や頭を拭つける事は無かった。

 だが走っている最中に転倒した為に、勢いよく倒れたのは、言うまでもない。アスファルトについた両手の痛み、胸を腕で圧迫した息苦しさに渉は息を詰まらせた。

「っ……はっ、ぁ……ぐ……ぅ……」
(足を、掴まれた……)

 痛みと苦しさに呻きながらも渉は体を横向きに横たえ、掴まれた左足へと視線を向ける。すでに掴まれている感覚はなくなっているが、確かに掴まれと渉は認識していた。

(触れてくるなんて……早く、神社に……っ⁉)
「ひぃっ⁉」

 息苦しさを堪えながらも、なんとか起き上がろうとした渉だったが、体を硬直させる。

『はぁ……はぁ……』

 先ほどと同じように、耳に唇が触れるのではないかというほどの近さで聞こえる呼吸音。それは生暖かさを加えたような温度と湿り気を感じさせるものだった。

 転倒し、痛みを抱える自身の後ろに……触れるのではないかと錯覚する距離になにかがいる。

 渉はその得たいのしれない何かからの恐怖に……自身の乱れた息がより早くなっていくのを感じた。

「はっ、はっ、はっ……っ!」
『はぁ……はぁ……』

 二つの呼吸音が混じる気持ち悪さに渉は青ざめ、逃げようとするが気がつけば体は凍り付いたかのように動かない。

(う、動かないっ!ウソだろっ⁉)

 これが恐怖から起こったものなのか、それとも渉の背後にいるモノによって起こされたものなのか……渉にはその判断がつかなかったが、動けないという事だけは確かだった。

(あともう少し、もう少しなのに……)

 視線の先には、大きな通りを挟んで神社の鳥居と階段が見えている。

 見えているにもかかわらず、渉は動く事ができない。その事実が渉を深く絶望させた。

「ひっ⁉や、やめろっ!!」

 動けない事を絶望していた渉だったが、耳に生暖かく僅かに湿った何かを押し付けられた事により悲鳴を上げる。

 生温かく、僅かに湿ったそれ。左耳に聞こえる息遣いの近さがそのままな事を考えると押し付けられたそれはおそらくは唇だと渉は気づく。

 そして、それが渉の左耳を食むようになぞる感覚に渉はぞわりとした気色悪さを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...