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9.数日後

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 ああ、なんで……なんでこんな事になっているのか!

 助けられたあの日から俺は、ハインツの世話になり続けている。

 助けられた日から数日は、媚薬が抜けるまでハインツにねだり続け、抱かれ続けた。

 そして、媚薬も抜け、正気に戻った今。俺は頭を抱えていた。

「調子はどうだ?」
「う、うぅ……うー……」
「あまり良くはなさそうだな」

 毛布を頭まで被った俺にハインツが呆れた様に呟く。

 なんで、コイツはいつも通りなんだ!

「おま、お前は、なんで……いつも通り、なんだよ!」
「気にしても仕方がないからな」

 毛布の裾を僅かに上げて、ハインツを除き見ればいつも通りの表情だ。

 抱いている間はあんなに柔らかい顔してたのに……って! なに考えてるんだ俺!

「それより……体が落ち着いたのなら、話を聞く余裕はあるな? 依頼や今のお前の立場がどうなっているか報告したいんだが……問題は、あるか?」

 尋ねてきたハインツの言葉にハッとする。

「そうだ依頼! どうなったんだ!? 倒したヤツ持ってただけど!」

 毛布を被ったまま体を起こせば、ハインツが口を開く。

「依頼は、達成されている。お前の帰りが遅いから私に確認依頼が出ていた。お前が無事なら協力。負傷や死亡しているなら遺品の回収と討伐としてな」
「……それじゃあ、お前が討伐した事になってるのか?」

 やらかしたとはいえ、手柄を横取りされるのは面白くない。

 思わず顔をしかめた俺にハインツは首を横に振った。

「いや、討伐したのはお前で、依頼達成もお前になっている。私は、魔物を討伐したが負傷したお前を回収した事になっている」

 その言葉にホッとした。

 ハインツは、嫌みではあるが依頼の横取りをするような卑怯なヤツではない。

 それでも、疑ってしまったのは俺の人間としての小ささが出ていた。

「負傷したって報告だけで、俺が帰還してないの信じられたのか?」
「お前が寝ている間に生存確認はさせた。苗床にされかけた事は、知られていないはずだから安心していい」

 ……対応が完璧すぎて、感謝しかないんだが……コイツからここまで気を回されるのはちょっと気持ち悪い。

 ありがたいんだが……普段の嫌みを考えると釈然としないと言うか……。

 ってか、コイツ俺の事愛してるとか言ってたような?

 いやいやいやいや、いつものあれで愛してるってないだろ……ないよな?

「それで、今後の事だが……お前はまだ冒険者を続けるのか?」

 ほら、いつものヤツがきた。

「……続けちゃ悪いかよ」
「悪くわない。だが、一人で続けるのはやめておけ。お前が死ぬのは見たくない」

 やらかした自覚があるから不貞腐れて答えれば、予想外の言葉が飛んできた。

「……待て。お前、いままで俺に冒険者続けてるのかって言い続けてた理由ってそれ?」
「そうだが?」
「今まで嫌味だと思ってたんだけど!?」
「ああ……だからあんなに怒っていたのか」

 叫ぶ俺に納得した様子のハインツに頭が痛くなった。

 早とちりしていた俺も俺だけど、コイツもコイツで言葉が足りなすぎるだろう!?

「なんなんだよホント……意地になってた俺がバカみてぇ……」

 今まで言われ続けた言葉は嫌味でもなんでもなく、純粋に心配しての事。

 意地張って、一人で冒険者続けてSランクまできた自分がバカらしくなった。

 それでも、後悔はないんだが……。

「なぜだ?」

 俺の言葉に首を傾げたハインツに言葉を返す。

「お前に嫌味言われていると思って、張り合うつもりで一人で冒険者してきたのがバカだったなって思っただけだ」
「そうなのか? 私は、嬉しかったが?」
「……なんで」
「お前しか居なかったからな張り合ってくるヤツは」

 淡々と答えながらも嬉しそうにしてくるハインツに天才には天才の悩みがあるんだな。と、思った。

「だが、お前がSランクに昇級した時は、失敗したと思った。危険な目にあわせない様に重要な指名依頼は全て浮けていたはずなんだが……他領での依頼を受けている間に、こちらでも発生していたとは……」

 ……聞き捨てならねぇ言葉が聞こえたんだが?

「おま……! 俺がずっとAランク止まりだったのお前のせいか!?」
「一人でSランクの昇級依頼を受けるのは、危険だろう?」
「先にやってるお前には言われたくねぇわ!」

 悪びれなく答えるハインツにイラッとくる。

 命の恩人ではあるけど、やっぱり気にくわねぇ! イケ好かねぇ! ちょっと良いなって思ったのは、錯覚!

「そうか。それで、冒険者は続けるのか?」
「続けるわ! お前には、絶対に負けねぇからな!」
「……そうか」

 俺に指を突きつけられても、楽しげに頬を緩ませたハインツ。

 あーもう! 絶対に、絶対に! 好きになったとかじゃねぇから!

 今まで気づかなかった些細な表情の変化に気づけるようになったら自分に頭を抱えるも、なんだかんだとハインツと組み、二人で冒険者として名を馳せたのはそう遠くない話である。
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