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書籍化記念SS

側妃の誕生日1(書籍化記念&ディロスの誕生日記念・二章以前のお話)※2/29PM16:00修正

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「とうさま!」
「ディロス!」
「「(おたんじょうび)誕生日おめでとー!」」

 四年に一度の僕の誕生日。

 去年祝い損ねた事を後悔していたようで今年の誕生日は、本当に覚えていた全員から朝一でお祝いされた。

 しかも、一ヶ月前からソワソワしているアグノスとティグレのおまけつきだ。

 そんな二人を一ヶ月微笑ましく見ていた今日。

 朝食だとは、思えないほどに豪勢に飾り付けられた食堂へと二人に手を引かれ、本日何度目になるかわからない祝いの言葉を述べられた。

「ありがとう、アグノス。ティグレ」

 昨日の夜から朝一番に祝うんだと言われて共に寝て……本当に先に起きて待機していた二人だから子供の行動力というのは、凄まじい。

 今日は、朝からお祝いだと言って朝食からものすごく豪華だ。

「おめでとうディロス」
「おめでとうございますディロス様」
「シュロムも、イデアルもありがとう」

 アグノス達に続き、先に食堂で待っていた二人にも祝いの言葉をもらう。

 もう二十八にもなるというのに……少し照れ臭いけど嬉しい事には、間違いない。

「とうさま!たんじょうびケーキ、ポールががんばってくれたんだよ!あぐのすと兄様もアイディア出したの!」

 朝食の席なのに、テーブルの上に鎮座するケーキをアグノスが笑顔で指差した。

 この中で誰よりも嬉しそうにしているのは、アグノスだ。

 僕の誕生日を自分の事のように喜んでくれるアグノスが愛おしくて堪らない。

「おひるも、おやつも、ゆうしょくもケーキあるからね!」

 それはそれとして、愛情が物理的に重いのだけど。

 この歳に四食ケーキは……ちょっとね。

 アグノス達からは、見えないけどシュロムもちょっと顔をひきつらせている。

 だけど、食べないという選択肢は、僕らにはない。子供達からの特大の愛情なのは間違いないから。

「それは、楽しみだね」

 アグノスの言葉に笑顔で答えて、朝食の席につく。

 内容は、ケーキ以外さっぱりとしたものにしてくれているのは、料理人達の心遣いだろう。

 ケーキもフルーツが多めに見えるので、そこも製作を任されたであろうポールの思いやりを感じる。

 料理人ゆえにあまり顔を会わせる事はないが、本当に欠かせない人だ。

「おいしいねとうさま!」
「美味いだろディロス!」
「そうだね」

 朝食を食べ、デザートとしてのケーキを頬張るアグノスとティグレに頷く。

 祝えることが嬉しいと全身で表す二人が本当に可愛い。

 僕が前世の知識から持ち込んだイベントだけど……持ち込んで良かったな。と、誰かの誕生日を過ごす毎に思う。

「ご歓談中失礼します。ディロス様、ご実家からとマリカ様。それにエリーから祝いのお手紙が届いております」

 ケーキを食べながらおしゃべりしていた僕の元に、ロンが手紙を持ってくる。

 皆に断って風を開けると各々から祝いの言葉が書かれた手紙が入っていた。

「父様、お手紙?」
「うん。皆から誕生日おめでとうって」
「そっかぁ、うれしいねぇ」

 僕の言葉にくふくふ笑うアグノスが可愛くて思わず笑みが溢れる。

 実家の家族とは違って、マリカ様やエリーとは、妃教育で会えるけど……こうやって誕生日に合わせて手紙を貰えるのは嬉しい。

 もちろん実家の家族から祝って貰えるのも嬉しい。

 新しいイベントでは、あるけど、初めてアグノスの誕生日を祝った事を手紙で伝えたら離宮の誰かが誕生日を迎える度に祝いの手紙をくれるようになったのだ。

 そして、初めてのアグノスの誕生日を伝えた手紙の返事では、その年僕の誕生日を祝えなかった後悔が綴られていた。

 なんだかんだこの歳になっても子供として愛されているなと気恥ずかしくなるが嬉しくもある。

 そんな両親とも離宮暮らしで最後に顔を会わせたのは、アグノスを連れて帰ったあの時。長兄に関しては、領地にいる事もあり、話を伝え聞くばかりでもっと長い間会っていない。

 次に会えるのは、アグノスのお披露目時期あたりになるだろう。残念ながらまだまだ先の話だ。

「ごちそーさまー!」
「ごちそうさまー! あー、美味かったー!」

 僕が読み終わった手紙をモリーに渡すと、お腹いっぱいケーキを食べ終えた二人がアグノスとティグレが声をあげる。

 ……本当に良く食べてるな。

 僕やシュロムは、ともかく……成長期真っ盛りのイデアルよりケーキを食べているかもしれない。

「ぷはぁーっ! なぁ、ディロス! この後、どうするんだ⁉」

 食後のジュースをゴクゴクと飲み終えたが僕へと視線を向けてくる。

「そうだね……日食まで時間があるし……皆でボードゲームでもする?」
「するー!」
「やるー!」

 僕の提案にティグレとアグノスが元気良く答える。

「シュロムとイデアルもいい?」
「構わないぞ」
「もちろん」

 僕達の様子を眺めていた二人にも尋ねれば、二人も頷いてくれた。

 場所を談話室に移り、できるだけ公平を期すために僕とアグノス、シュロムとティグレ、イデアルの三組に別れて陣取り合戦のようなボードゲームに勤しむ。

「イデアル、いつも一人でさせてごめんね」
「いえ、父上もディロス様もお強いので参考になります」

 やや不利な状況に追い込まれたイデアルに謝るもイデアルは、気にした様子もなく真剣に盤を見つめる。

 まだ幼くも兄という立場から、チーム訳をすると不利な条件になってしまうもそれを逆境ととらえ、打開する為に策を練る姿は、どこかシュロムに似ている。

 穏やかな子だけど、こういうところはシュロムの子供でティグレの兄なのだなぁと実感するんだよね。

「あ、とうさま! くらくなってきた!」

 イデアルが長考している間に窓の外が薄暗くなる。

 前世の知識でいう閏年の今日は、この世界で四年に一度の日食が起きる日だ。

 天体については、詳しく明かされていない為、原理が前世と同じものであるかはわからないが、四年に一度……太陽が隠れる日を閏日として制定されている。

 国によっては、神の隠れる日だとか、神に見捨てられる日だとか言われるが……このシィーズ国では、神が休まれる安息日とされ、国民だけでなく、神の加護を持つ王も休むべきとされている日だ。

 普段、なかなか休めない……休まないシュロムでも素直に休んでくれると臣下からは評判の日らしい。

 まあ、それでも離宮に勤める侍女や従者は、働いてくれているので代休やら特別手当てで補っているらしいのだけど。

「まっくらねぇ」
「昼なのに不思議だよなぁ」

 金環を浮かぶ薄暗くなった空を眺めるべく、アグノスとティグレが窓へ駆け寄っていった。

 それを見て、僕らも一時対戦の手を止めて窓の外へと視線を向ける。

「……神も今はお休みなのでしょうか」
「短い時間だが、きっと休まれているんだろう」

 ポツリと溢したイデアルにシュロムが頷く。

 王であり、王になる二人が敬う唯一の存在。

 この国の始まりの王に加護を与えた存在に思いを馳せる二人はどこか神秘的だった。

「あっ……あるくなっちゃった」

 時間にすると一時間ほど。前世の知識と比べたら、長いが人であったらうたた寝くらいの休憩だろう神の安息が終わる。

 世界が違えば、摂理も変わるとはいえ不思議なものだった。

「かみさま起きるの早いよなーもっと寝てたらいいのに」
「ねー! あぐのすのおひるねよりずっとはやいもん」

 窓の側から戻ってきた二人がそんな事を言いながら、僕とシュロムの側に別れて座る。

 幼い二人の優しさにシュロム達と小さく笑みを浮かべながら、ボードゲームの続きを始めるのであった。




 ボードゲームを遊び、昼食を食べ、睡魔に襲われたアグノスとティグレを寝かしつけ、シュロムと二人で書斎で過ごす。

 イデアルは、アグノス達を見ていると子供部屋に残ってしまった。たぶん、気を使わせたのだと思う。

 敏い子だけど、そこまで気を遣わなくてもいいと思うものの……その気遣いはありがたく受け取っておく。

 なぜなら、今くらいしか時間がないから。夜も夜でアグノス達は一緒に寝るというと思うからね。

「イデアルに気を遣わせちゃったね」
「そうだな。だが、そのお陰でお前とゆっくり過ごせる」
「うん」

 書斎のソファーで二人で寄り添い、シュロムの肩に頭を預ける。

 隣から伝わる温もりは、心地よく、子供達ほどでもないが睡魔が緩やかに襲ってきそうだ。

「眠るか?」
「ううん……そんなもったいないことできないよ」

 せっかくの誕生日。

 せっかくシュロムが一日休める日。

 どうせなら心行くまで共に過ごしたい。

「無理は、するなよ?」
「うん。でも、眠気覚ましに……キスしてもらってもいい?」

 自分から言い出すのは恥ずかしいが、少しでも触れ合いたいとシュロムへと視線を向ける。

「可愛いおねだりだな。もちろんいいとも」
「ん……」

 肩を抱き寄せられ、顔を上げれば、屈んできたシュロムと唇が重なった。

「っ、ぁ……んん……」

 最初は浅く、徐々に深く。唇を食まれ、下を絡める度に逆上せていくような感覚に陥る。

「ぁ……シュロム……」
「そんな熱っぽい視線を向けられたら、俺の方が堪えられなくなりそうだ」

 離れた唇が恋しくてシュロムを見つめるが、これで終わりだというように額にキスを落とされた。

 確かにいつ子供達が起きてくるかわからないからこれ以上の行為は、難しいけど……ここで止められるシュロムの理性が憎たらしい。

「……」
「拗ねないでくれ。埋め合わせは……明日にでもしよう」

 ぽすんとシュロムの胸に額を押し付ければ、上から降ってきた言葉に顔をあげる。

「え、ぁ……」

 自分からキス以上の行為を欲したとはいえ、予想外のお誘いに真っ赤になっているのがわかった。

「そういう顔だっただろう?」
「そ、う……だけど……」
「早く帰ってくるから……楽しみにしておけ」
「……はい」

 これ以上真っ赤な顔を見せ続ける余裕はなく、またシュロムの胸に額を押し当てる。

 上から聞こえてくる笑い声と抱き寄せる腕の力に抗議するように僕はただただグリグリとシュロムの胸に額を押し付けて抗議するのであった。
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