上 下
79 / 114
第二部:王様に嫁入りした側妃ですが子供達の未来に悩んでいます

36:第一王子の離宮

しおりを挟む
「ディロス様!」

 イデアルの離宮へと到着すると、庭でお茶会の準備を眺めていたイデアルが僕の元へと駆けてくる。

 僕と同じようにいつもより綺麗な服を纏い、金色の長い髪を後ろ手一つに結んだ姿は、まさに貴公子で王子様と言った感じだ。

「イデアル。朝も言ったけど、今日はお世話になるね」
「はい!」

 少し緊張しているようだけど、気合いも入っているようで普段より声に力がこもっている。

 良いことだとは思うけど……いつものイデアルとはちょっと違うから、深呼吸させた方がいいかな。

「イデアル。僕、ちょっと緊張してるから一緒に深呼吸してくれる?」
「? わかりました」

 僕の言葉にイデアルは首を傾げながらも一緒に深呼吸をしてくれた。

「すぅ……はぁ……。……ありがとう、落ち着いた気がするよ」
「……いえ、私も気合いが入りすぎていたようです。お気遣いありがとうございます」
「ふふっ、僕が一緒にして欲しかっただけだよ」

 自分の気合いが入りすぎていた事に気づいたイデアルが自身を恥じる様に渋い顔をしたので、軽くイデアルの肩を叩く。

 頭を撫でたいところだけど……綺麗に纏められた髪を崩すと悪いからね。

「マリカ嬢とノウリッジ様達が到着するまでもう少し時間あるよね?」
「はい」
「準備は、みんなに任せて少しイデアルの離宮案内してもらえるかな? イデアルの離宮は初めて来るから、普段どう過ごしてるのか気になるんだ」

 普段、僕は以前から与えられた離宮からほとんど出ないし、稀に庭園を散歩する事もあるけど、他の離宮に立ち入らないようにしている。

 だから、イデアルが普段この離宮でどう過ごしているのか、イデアルから聞く話だけではなく、この目で見てみたかったのだ。

「っ! わかりました! 案内します!」

 嫌がられたらどうしようと思ったのだけど、イデアルは目を輝かせて頷いた後……ハッとしたように目を見開いた。

「あの……ディロス様」
「なんだい?」
「父上の側妃であるディロス様に、お願いするのはおこがましいのですが……マリカ嬢を案内する為の練習も兼ねてエスコートさせていただけないでしょうか……」

 視線をさ迷わせながらお願いしてきたイデアルの言葉に驚く。

 僕は、単純に気になったからお願いしただけなのに……自分からマリカ嬢のエスコートの練習に結びつけるってえらいよね……!

「僕で良いの?」
「はい。侍女に頼むのも悪いので」

 今、イデアルについている侍女達は、イデアルの事を敬愛しているから喜んで付き合ってくれそうだと思うんだけど……僕が良いと思ってもらえるのは光栄だ。

「それじゃあ、お願いしようかな」
「はい! ……あの、それではお手をどうぞディロス様」

 嬉しそうに笑ったイデアルが僕へと手を差し出す。

「ありがとうイデアル」

 その手に手を重ねながら、まだ幼いながらも立派な王子様として振る舞うイデアルの姿を誇らしく思う。

 そして、そんなイデアルの成長をシュロムにも教えてあげなきゃと考えながらイデアルに離宮を案内してもらうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

召喚された聖女の兄は、どうやら只者ではないらしい

荷稲 まこと
BL
国にほど近い魔境に現れた魔王に対抗するため、国に古くから伝わる"聖女召喚の儀"が行われた。 聖女の召喚は無事成功した--が、聖女の兄だと言う男も一緒に召喚されてしまった。 しかもその男、大事な妹だけを戦場に送る訳にはいかない、自分も同行するから鍛えてくれ、などと言い出した。 戦いの経験があるのかと問えば、喧嘩を少々したことがある程度だと言う。 危険だと止めても断固として聞かない。 仕方がないので過酷な訓練を受けさせて、自ら諦めるように仕向けることにした。 その憎まれ役に選ばれたのは、王国騎士団第3隊、通称『対魔物隊』隊長レオナルド・ランテ。 レオナルドは不承不承ながら、どうせすぐに音を上げると隊員と同じ訓練を課すが、予想外にその男は食いついてくる。 しかもレオナルドはその男にどんどん調子を狂わされていきーーー? 喧嘩無敗の元裏番長(24) × 超鈍感初心嫌われ?隊長(27) 初投稿です!温かい目で見守ってやってください。 Bたちは初めからLし始めていますが、くっつくまでかなり長いです。 物語の都合上、NL表現を含みます。 脇カプもいますが匂わせる程度です。 2/19追記 完結まで書き終わっているので毎日コンスタントに投稿していこうと思っています。 思ってたよりずっと多くの人に読んでもらえていて嬉しいです!引き続きどうぞよろしくお願いいたします。 2/25 追記 誤字報告ありがとうございました!承認不要とのことで、この場でお礼申し上げます。 ちょっと目を離した隙にエラいことになっててひっくり返りました。大感謝!

乙女ゲームに転生したらチートだったけど平凡に生きたいのでとりあえず悪役令息付きの世話役になってみました。

ぽぽ
BL
転生したと思ったら乙女ゲーム?! しかも俺は公式キャラじゃないと思ってたのにチートだった為に悪役令息に仕えることに!!!!!! 可愛い彼のために全身全霊善処します!……とか思ってたらなんかこれ展開が…BLゲームかッッ??! 表紙はフレドリックです! Twitterやってますm(*_ _)m あおば (@aoba_bl)

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。