上 下
36 / 114
一部番外編

他視点2-1:ディロス様という人[イデアル視点]

しおりを挟む
 ディロス様は不思議な方だ。

 最初は、父上に取り入ろうとする忌々しい男だと思っていたのだけど、話してみれば慎ましく優しい方だった。

 いや、最初から知っていた。父上とティグレが楽しそうに話す内容はどれもその人柄を感じ取れるものだったにも関わらず、私の関わらぬ所で二人と仲を深めていくディロス様への嫉妬心からその全てを悪しき物だと捕らえていただけの事だった。

 抱えていた嫉妬心と自身に課せられた責務により、精神的に限界になった私がティグレ達に八つ当たりをした時も、叱るわけでもなく、諭すだけだったのだから……。

 泣きながら言葉を零す私の話を静かに聞いてくれて、優しく諭すその人柄に、父上やティグレが惹かれるのも仕方がないと思った。

 泣きじゃくる私を抱きしめ、背中を撫でてくれる手に、今まで感じた事のない安堵を感じ、その腕の中で眠てしまった事は、今思い出しても恥ずかしい。

 目覚めてからも、私を王子として扱いながらも、それと同時に子供として扱ってくれるディロス様に、私の心も惹かれてしまうのは仕方のない事だったと思う。

 男でありながら、父上の側妃であるディロス様に想いを寄せるのは愚かな事だと思ったが、それでも……この方が隣に居てくれれば道を違うことなく王としてあれるのではないかと思ってしまったのだ。

 だが、そんな思いも直ぐに崩れた。

 書斎に案内され、そこにある本が父上の物だと告げた時、ディロス様は顔を赤くして崩れ落ちた。

 その表情は、明らかに父上に想いを寄せている顔で、私の入り込める余地は一切ないのだと気づかされた。

 失恋した事による悲しさと、このまま二人が結ばれてくれたらという思いと。そんな複雑な感情が入り混じるままにその日を過ごし、眠りについた。

 そして、朝目覚めた時。父上が隣にいた事に驚き、二人で散歩中の対話で泣き、ディロス様の離宮に戻り、ディロス様に迎え入れられた。

 その時の父上とディロス様の様子は、私を気遣う優しいもので、子供として二人に甘えられる事に幸福感を感じたのも事実だった。

 それから、ディロス様の離宮で過ごす事になったのだが……二人の姿を見る度に距離が近い事に気づき、おそらく結ばれたのだろうなと察した。

 私達の前では親としての顔を優先するが、互いの視線が交わった時。お互いしか見えていないような笑みを浮かべるのだから察するというものだ。

 初恋はその日のうちに破れたし、子供として過ごす居心地の良さを知ってしまった今では二人が仲睦まじくしているのを見ると複雑さと同時に嬉しくなる。

 一度、ディロス様が命を落としかけたから尚更。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
洗脳され無理やり暗殺者にされ、無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。