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2-1.転生冒険者と男娼王子の新しい日常
三十八話
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テーブルに朝食を並べ、横並びで食事を取る。
サンドイッチの一片を手に取り食べるフレデリック様。それなりの厚さがあるから精一杯頬張って食べるのは、幼さすら感じる。
王宮育ちだから手づかみでかぶりつく食事なんて食べたことないだろうに、俺の普段食べている食事が食べたいとか言われて作ったらこうやって気に入ってくれるのは微笑ましいと言わざるを得ない。
「……食べないのか?」
「食べますよ。でも、美味しそうに食べてるのが嬉しくて」
「……まったく、いつもいつも飽きないな」
通常の食事を取れるようになって、それなりに時間が経ったにも関わらず、フレデリック様の様子を眺める俺にフレデリック様は不服そうにじとりとした視線を向けてくる。
「飽きませんよ。幸せですから」
その視線に微笑みを浮かべながら、言葉を返す。この言葉も毎回の事のように返しているのだが、それを聞く度にフレデリックは照れたように耳を赤くするのだ。
「……そんなこと言ってないでお前もさ食べろ」
素っ気ない言葉もいつもの事。そして、耳が赤いのもいつもの事だ。
その事を愛おしいと思いながら、俺はサンドイッチへと手を伸ばす。
やや硬めのバケットに歯を立て、噛み千切れば、僅かな生ハムの塩っけが口の中に広がる。
噛み締めれば、噛み締めるほど生ハムの旨味と野菜のみずみずしさをバケットが調和していて旨い。
保存技術が富裕層以外は、未熟な環境だから基本的に保存食は塩辛いのが一般的なんだよなー。まあ、それが旨いのだけど。
一つ二つと食べた所で隣のフレデリック様がデザートの果物に手を伸ばしているのが視界に入る。
「終わりですか?」
「ああ、後は果物だけで十分だ」
とは言うものの、食べた量はサンドイッチの一片。成人男性としての食事量としては少ない。理想は二片ほど、食べて欲しいのだが……運動させるしかないか……。
何て考えていたら、俺の隣で冷えたオレンジの皮を手で剥こうと苦戦するフレデリック様に気づく。
「剥きましょうか?」
「……頼む」
複雑そうな顔で渡されたオレンジを受け取り、爪を立て、半分に裂く。割ったオレンジの半分の皮を剥いてフレデリック様に渡せば、一房づつ食べ始めたので、残りの半分も皮を剥いてフレデリック様の取り皿へと置いた。
……たぶん、これもよくないんだろうな。甲斐甲斐しく世話をしてしまう自分の行いに反省しながら残りのサンドイッチへと手を伸ばす。
しかし、体力をつける為に運動させるにしてもどうすべきか。
リハビリのようなものだから無理をさせるわけにもいかないし……屋敷内での散歩からか?いや、まずは抱えないようにすべきか……。
フレデリック様のリハビリを考えながら、三個目、四個目のサンドイッチを食べ終え、最後の一片へと手を伸ばす。
五個目のサンドイッチにかぶりついていたら、オレンジを食べる手を止めたフレデリック様の視線に気づく。
……フレデリック様も俺の事言えないんだよなぁ。
俺の食べる姿を楽しむ様に微笑んでいるのを見ると少し照れてしまう。
だから……まあ、フレデリック様が見るなと言うのもわかるが、俺だって見られてるのだからおあいこだろう。
フレデリック様の視線に堪えつつサンドイッチを食べ終え、残りのサラダも食べてデザートの果物にも手を伸ばした。
「フレデリック様は、他に食べますか?」
「いや、いい」
リンゴを手に取りながら聞けば、首を横に振られる。
まあ、手には食べるのを止めてしまったオレンジがまだ半分ほど残っているし、もう満腹なのだろう。
もう少し食べるなら、リンゴを切り分けるかとも思ったが……面倒臭いのでかぶりつこう。
「わかりました」
俺も、さっさと食べ終えようとリンゴにかぶりついて咀嚼していたら、また微笑むフレデリック様と視線が交わった。
……楽しそうで何よりだ。
リンゴを二つ食べ終え、芯を皿に乗せる。
「フレデリック様のオレンジも食べないなら頂いてもいいですか?」
「ああ、構わない」
もう食べそうにないのでオレンジを受け取ろうと手を差し出したら、フレデリック様はしばらく考えた後、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。
「ニコラ」
「……はい」
「口を開けろ」
そう言ってフレデリック様は、一房千切ったオレンジを俺の前へと差し出す。
そう、あーん。だ。あーん。で、ある。
俺からフレデリック様へは、看病の一つとしてやったが、フレデリック様から俺へは始めてである。
楽しげなフレデリック様。目の前のオレンジ。
正直……バカップルのようで恥ずかしいが、フレデリック様自ら奉仕……あーん。をしていただいていると思うと嬉しさが勝る。
が、あまりの出来事に心臓がうるさい。
「ニコラ」
拒む事は許さないとばかりにもう一度名前を呼ばれた。
……ええい、ままよ!
「あー……ん」
羞恥心をかなぐり捨て、口の中に差し込まれたオレンジを咥え、咀嚼する。
「ほら、もう一つやろう」
俺がオレンジを飲み込んだのを見て、すかさず満面の笑みでもう一房差し出すフレデリック様。
もうこうなったら最後まで食べきってやろうと、覚悟を決め……俺はフレデリック様の気が済むまでオレンジを……ついでにブドウまで食べさせられたのだった。
サンドイッチの一片を手に取り食べるフレデリック様。それなりの厚さがあるから精一杯頬張って食べるのは、幼さすら感じる。
王宮育ちだから手づかみでかぶりつく食事なんて食べたことないだろうに、俺の普段食べている食事が食べたいとか言われて作ったらこうやって気に入ってくれるのは微笑ましいと言わざるを得ない。
「……食べないのか?」
「食べますよ。でも、美味しそうに食べてるのが嬉しくて」
「……まったく、いつもいつも飽きないな」
通常の食事を取れるようになって、それなりに時間が経ったにも関わらず、フレデリック様の様子を眺める俺にフレデリック様は不服そうにじとりとした視線を向けてくる。
「飽きませんよ。幸せですから」
その視線に微笑みを浮かべながら、言葉を返す。この言葉も毎回の事のように返しているのだが、それを聞く度にフレデリックは照れたように耳を赤くするのだ。
「……そんなこと言ってないでお前もさ食べろ」
素っ気ない言葉もいつもの事。そして、耳が赤いのもいつもの事だ。
その事を愛おしいと思いながら、俺はサンドイッチへと手を伸ばす。
やや硬めのバケットに歯を立て、噛み千切れば、僅かな生ハムの塩っけが口の中に広がる。
噛み締めれば、噛み締めるほど生ハムの旨味と野菜のみずみずしさをバケットが調和していて旨い。
保存技術が富裕層以外は、未熟な環境だから基本的に保存食は塩辛いのが一般的なんだよなー。まあ、それが旨いのだけど。
一つ二つと食べた所で隣のフレデリック様がデザートの果物に手を伸ばしているのが視界に入る。
「終わりですか?」
「ああ、後は果物だけで十分だ」
とは言うものの、食べた量はサンドイッチの一片。成人男性としての食事量としては少ない。理想は二片ほど、食べて欲しいのだが……運動させるしかないか……。
何て考えていたら、俺の隣で冷えたオレンジの皮を手で剥こうと苦戦するフレデリック様に気づく。
「剥きましょうか?」
「……頼む」
複雑そうな顔で渡されたオレンジを受け取り、爪を立て、半分に裂く。割ったオレンジの半分の皮を剥いてフレデリック様に渡せば、一房づつ食べ始めたので、残りの半分も皮を剥いてフレデリック様の取り皿へと置いた。
……たぶん、これもよくないんだろうな。甲斐甲斐しく世話をしてしまう自分の行いに反省しながら残りのサンドイッチへと手を伸ばす。
しかし、体力をつける為に運動させるにしてもどうすべきか。
リハビリのようなものだから無理をさせるわけにもいかないし……屋敷内での散歩からか?いや、まずは抱えないようにすべきか……。
フレデリック様のリハビリを考えながら、三個目、四個目のサンドイッチを食べ終え、最後の一片へと手を伸ばす。
五個目のサンドイッチにかぶりついていたら、オレンジを食べる手を止めたフレデリック様の視線に気づく。
……フレデリック様も俺の事言えないんだよなぁ。
俺の食べる姿を楽しむ様に微笑んでいるのを見ると少し照れてしまう。
だから……まあ、フレデリック様が見るなと言うのもわかるが、俺だって見られてるのだからおあいこだろう。
フレデリック様の視線に堪えつつサンドイッチを食べ終え、残りのサラダも食べてデザートの果物にも手を伸ばした。
「フレデリック様は、他に食べますか?」
「いや、いい」
リンゴを手に取りながら聞けば、首を横に振られる。
まあ、手には食べるのを止めてしまったオレンジがまだ半分ほど残っているし、もう満腹なのだろう。
もう少し食べるなら、リンゴを切り分けるかとも思ったが……面倒臭いのでかぶりつこう。
「わかりました」
俺も、さっさと食べ終えようとリンゴにかぶりついて咀嚼していたら、また微笑むフレデリック様と視線が交わった。
……楽しそうで何よりだ。
リンゴを二つ食べ終え、芯を皿に乗せる。
「フレデリック様のオレンジも食べないなら頂いてもいいですか?」
「ああ、構わない」
もう食べそうにないのでオレンジを受け取ろうと手を差し出したら、フレデリック様はしばらく考えた後、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。
「ニコラ」
「……はい」
「口を開けろ」
そう言ってフレデリック様は、一房千切ったオレンジを俺の前へと差し出す。
そう、あーん。だ。あーん。で、ある。
俺からフレデリック様へは、看病の一つとしてやったが、フレデリック様から俺へは始めてである。
楽しげなフレデリック様。目の前のオレンジ。
正直……バカップルのようで恥ずかしいが、フレデリック様自ら奉仕……あーん。をしていただいていると思うと嬉しさが勝る。
が、あまりの出来事に心臓がうるさい。
「ニコラ」
拒む事は許さないとばかりにもう一度名前を呼ばれた。
……ええい、ままよ!
「あー……ん」
羞恥心をかなぐり捨て、口の中に差し込まれたオレンジを咥え、咀嚼する。
「ほら、もう一つやろう」
俺がオレンジを飲み込んだのを見て、すかさず満面の笑みでもう一房差し出すフレデリック様。
もうこうなったら最後まで食べきってやろうと、覚悟を決め……俺はフレデリック様の気が済むまでオレンジを……ついでにブドウまで食べさせられたのだった。
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