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おまけ ? ? ?

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 ふう……。

 俺は地球にある自宅の玄関前で息を整える。

 ……プリムに頼んで家に寄って行くことになったのはいいけど、いざ帰ってみると緊張するな。

 おまけに今こっちは夜だから、この時間は父さんも帰ってるだろうしな……。

 とはいえあまり時間も無いし、いつまでもここでまごついてるわけにもいかないか……。

 俺は意を決して家のインターホンに指を置く。その直後、突然家の扉が勢いよく開いて俺の顔にぶち当たる。

 「あだっ!!」
  
 「うん? 何? 今の声?」

 玄関の扉を開けたのは妹の由香だったようで、俺の顔を見るなり悲鳴を上げる。
 
 「きゃあああ!! お母さん! 変質者! 家の前に変質者がいる! 警察! 早く警察呼んで!」

 「おおい!! ちょっと待ってくれ由香! 俺だよ俺! お前の兄だよ!」

 俺は自分の顔を指差して必死に訴えかける。

 「え……? 兄《あに》ぃ……?」

 由香叫ぶのを止め、俺の顔をマジマジと見てもう一度叫ぶ。

 「きゃああ! お父さん! 兄ぃがまた変な格好をしてる! 早く来てえ!」
 
 「なんだよそれ! 俺がいつも変な格好してるみたいな言い方をするな! というか、叫ぶところじゃないだろ!」

 俺達の叫び声が聞こえたのか、父さんが慌てて玄関へ走ってくる。

 「お……お前……まさかソウタか……?」   

 父さんは唖然とした表情で俺の顔を見る。

 「た、ただいま父さん……」

 「生きて……いたのか……?」

 「なんとか……連絡出来なくてごめん」

 父さんは表情を崩さないまま、とりあえず家の中に入るよう言ってくれる。

 家の中にいた母さんも、俺の顔を見るなり動きが止まってしばし呆然と立ち尽くす。

 「で……お前連絡もせずどこに行ってたんだ? 父さん怒らないから正直に言いなさい」

 居間で膝を突き合わせている父さんがゆっくりとした口調で俺に聞く。

 「ちょ、ちょっと異世界の方へ……」

 俺がそう答えた途端、普段温厚な父さんがおもむろに立ち上がって俺を殴る。

 「いだっ! 本当のこと言ったら怒らないって言ったじゃないか!?」

 「本当のことを言えと言っただろう!? 異世界だと? 一体いつからそんな見え透いた嘘をつく人間になったんだ!?」

 「確かに信じてもらえないかもしれないけど本当なんだって!」
 
 「まだ言うか! こいつめ!」

 父さんは俺の胸ぐらを掴んで更にもう一発ぶん殴ってくる。

 「……お父さん」

 「母さんは黙ってろ! こいつはな、成績は良くないしスポーツだって出来ない、いわゆる何の取り柄も人間だ!」

 「おいおい! 自分の息子になんてことを言うんだよ! 流石に深く傷つくわ!」

 「だけどな……人様に迷惑を掛けるようなヤツではなかった……」

 父さんは俺の胸ぐらから手を離し、悔しそうに涙を流す。
  
 「本当にごめん……俺も早く連絡をしたかったんだけど出来なくて……」

 「大体なんだその格好は!? その変な民族衣装と腰に差してるオモチャの剣はどこで買ったんだ!?」

 「あー、だからその……異世界で買ったんだよ」  
 
 「非行に走るならともかく、そんな訳のわからん格好をするなんて、父さんは情けないぞ! お前には叶えたい夢の一つも無いのか!?」

 「ああ! それなら向こうに行ってる間にちょっとやりたいことが見つかったよ!」

 「……本当か?」

 「うん、動物園とかで働いてみたいかなって思ってさ。こっちに帰って来たらそっちの方を頑張ってみるよ」

 「クウゥ!! 母さん……包丁を持ってきてくれ……。こいつを殺して俺も死ぬ!」  

 俺の返答を聞いた父さんは目頭を押さえてまた涙を流し始める。
   
 「ええ!? どうしてそうなるの!? 俺の話ちゃんと聞いてた!?」

 「……お父さん」

 母さんの目からもブワァっと涙が溢れ出し、口元を手で押さえる。そして包丁を取りにキッチンへ向かう。

 「ちょちょちょ! 待て待て! 母さんも意味わかんないって! 別に泣くとこでもなければ包丁を取りに行くとこでもねえよ!」
 
 「黙れ! お前の口から動物が好きなんて話はなんて聞いたことがない! 何者だ貴様!? 俺達のソウタをどこにやった!?」

 「貴様って言われても困るよ!? 俺は本物のソウタだって!」

 「まあまあ、父さんも母さんも落ち着きなって。確かに前とは違う感じだけど元々が変なんだし、特に問題はないんじゃないの?」

 一悶着してるところに由香がやって来て俺達を止めに入る。

 「そうは言っても明らかに様子がおかしいじゃないか!?」

 「前から『よかろう!』みたいなしゃべり方してて十分変だったでしょ?」
 
 「それはそうだがなぁ……」

 父さんは由香の言うことに納得して少し落ち着きを取り戻す。

 「そこは否定しないんだな! それはともかく、あのしゃべり方は良くないと俺も気付いたから今後は控えるよ。転生したときになんでかあいつのが移ったんだろうなぁ……」

 「なんでもいいけどさ。父さんも母さんも兄ぃのことスゴく心配して、近所の人とか警察の人達に探してもらってたんだよ?」

 「それは……本当に悪いと思ってるよ……」

 「だから今後どっか行くときはちゃんと言ってから出掛けなよ? 私もあの日、兄ぃを引き留めとけば良かったって、ちょっとだけ後悔したんだから」

 「心配掛けて悪かったな由香。そうだ! お前にお土産があるんだった」

 俺は袋の中からダルカデルで買った花柄の財布を由香に渡す。

 「ふーん……兄ぃにしては中々センスが良いんじゃない?」

 由香は受け取った財布をまずまずといった具合に眺める。
 
 「本当はシルバードラゴンの尻尾でも持って帰るつもりだったんだけどな。それはまた今度にするよ」

 「また今度っていつ……って、ええ!? 兄ぃ! 体が光ってるよ!」
    
 財布から俺に視線を移した由香が、俺を指差して声を上げる。

 「おっ、もう時間か。じゃあ悪いけどまたちょっと行ってくるな。今回は直接言えて良かったよ」

 「お、お、お、お前! い、一体、ど、どこに行くんだ?」

 父さんは言葉をつっかえさせながら俺に聞いてくる。

 「……異世界さ。今度は違うところだけど、そのうちまた帰って来るよ。あまり上手く説明出来なくてごめんな!」
  
 それを言い終えた直後に俺がフッと家から消える。

 「あいつ……宇宙人に連れ去られて、頭に変なチップでも埋められたんじゃないだろうな……?」 

 「まあ、そのうち帰って来るって言ってたし、あの感じなら大丈夫じゃないの? 知らないけど。じゃあ、私もちょっと買い物行ってくんね」
 
 由香は兄から貰った財布に小銭を移してコンビニへと歩き出す。
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みんなの感想(2件)

スパークノークス

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朱衣なつ
2021.08.15 朱衣なつ

ありがとうございます!

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花雨
2021.08.09 花雨

お気に入り登録しました(^^)

朱衣なつ
2021.08.09 朱衣なつ

登録ありがとうございます! 

めちゃくちゃ嬉しいです!

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