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監禁編

16話 いないもの

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──────なんだ、それは。

意味がわからなくておれは頭の中が真っ白になった。

監禁してくれと頼んだ?亮が?

──────なぜ?

「だから…監禁した。

それだけは伝えときたかった。

まぁ結局は無理矢理になっちまったけど。」

弟ははぁっと深呼吸をすると言った。

「クソムシ、君は僕とお兄ちゃんの過去を知らない。
 
だから、どんな妄想をしても自由だよ。

僕はお兄ちゃんを監禁し、閉じ込めて自分だけのものにした。

そう、考えればいい。

けど…なんか、ムカついてつい言っちゃっただけだから。

今、言ったことは忘れて。

じゃあ、僕はもう、いくね。」

といって行ってしまったんだ。

「…。」

おれは、頭の中が混乱していた。

監禁────。
その言葉を聞くと怒りと憎しみが最初に出る─。そして、後から恐怖、身体の震えが止まらなくなる。

おれの知ってる監禁は地獄だ。

…なのに、どういうことなんだ?


おれは、二人の過去を知らない。

だから…何も、わからない。

「…。」

だからといって───知りたいと思うか?

二人の過去を知ってどうする?

何になる?

おれには────いらない。

ただ、今まで通りの生活が送れればそれでいい。

だから…もう、考えるのは

やめだ。






飛鳥{side }

おれ、飛鳥は病院で入院していた。
全身複雑骨折をして体中が動けなくなったからだ。

なぜ、そのような怪我をしてしまったかというと…日比谷勇太にボコボコにされたからだ。

だが、親にも先生にも誰にもそのことは言っていない。

…こんなことになったのは自分のせいだと思っているからだ。 
まぁ親にいってもおれのことを心配なんてしてくれないだろうけど…。


おれは日比谷亮のことが好きだ。中学のころから。


おれは3人兄弟で末っ子だった。
兄二人は頭も良くスポーツもでき、親からの人望も厚く人から好かれる性格だった。
長男の兄は家を継ぐということで期待されていた。
次男は運動神経がよく、あらゆる面でも才能があった。
二人はちやほやとあまりから温かいまなざしで見守られていた。

それに比べて───おれは、


何も、なかった。


金持ちは残酷だ。
欲しいものには沢山のお金をかける。
有名な塾にいかせ、跡継ぎを継ぐために必要な知識を高めるために長男に大量のお金をかけた。
そして、それは次男もだ。その生まれ持った才能を開花させるためあらゆるスポーツをやるよう体力をつけた。

金持ちとは、欲しいものにはお金をかける。
だが…いらないものには見る気にもならない。

いらないものには───一銭もお金をかけないのだ。


だって、いらないのだから。


そして、いらないものは───ないものになる。

おれはいらないものだった。

おれは家で影のように扱われた。誰もおれに話すものはいなかった。『おはよう』と使用人、親に声を掛けても返ってなどこない。

おれは、いないものになっていた。

まるで、元々なかったかのように。

いらないおれには食事も用意されなかった。
赤ん坊のころはそれなりに期待され世話はされていた。

だが、時が経ち、おれがただの人間だと知ると────誰もおれの世話をしなくなった。

だが、生きるには食べなければいけない。
だから…おれは廃棄の食べ物を漁る日々だ。

その姿を見てまた、皆にまた軽蔑をされた。

だからといっていじめられていた、虐待を受けていたのではない。

───ネグレクトというやつだ。

親は兄二人に言った。

『あいつには近づいてはいけない。あいつはないものなの。あいつに近づいたら───あなたたちが汚れてしまう。だから、あいつはなかったものにしましょう。』

そうか、おれはないものなんだ。

そこから、おれは自分と言うものがなんなのかわからなくなった。

────おれは、なんのために生きているのかわからない。

自分に自信が持てなかった。

だって、おれはどこにもいないのだから。

 『あぁ…早く死んでしまいたい…』

なんて…おれは心が弱いのだろうか?



中学になった。
おれは親の都合で転校してきた。
こんなおれに友達なんかつくれないことはわかりきっていたことだから…ただただつまらない日々が送れればいいと思った。

おれは…いらないものだから。

だが、おれは…興味を持った人がいた。

それが────日比谷亮だ。

なんでおれが興味を持ったのか、

それは────おれと同じだったのだ。

日比谷亮は───ないものになっていた。

クラスメイトに挨拶をされることなどない。話しかけることも。亮が授業中立っても誰も反応しなかった。
体育の時間、亮が1人でも…そのものはなかったかのように誰も見ようとはしないのだ。
清掃で動かされる机を亮の席だけは運ばれなかった。誰も亮に目を通すものはいない。

────日比谷亮はいないものだった。

クラスメイトは日比谷亮をないものとして扱った。

おれはクラスメイトに聞いてみた。
クラスメイトは答えた。


「あいつは───いないってことになってるから。」


そう答えた。
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