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魔法の国クラスタ
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ジャックは勝手知ったる城の中を、目的地に向かって走っていた。
初めて訪れる場所だというのに、なんだか変な気分だ。
幼い頃から、何度も夢の中で訪れたクラスタの城は……何から何まで、夢と同じだった。
今もまだ、夢の中にいるんじゃないか。
そう錯覚しても不思議ではないほどに。
息を切らしながら、ジャックはあるドアの前で立ち止まる。
そして、一度深呼吸をする。
ここは、テスが眠っている部屋、のはずだ。
「…………」
もし。
もし、このドアの向こうに……彼女がいなかったら?
テスは夢の中の存在で、現実にいなかったら?
……なんて、今更不安になったところで仕方ない。
結果はすぐに分かる。
意を決して、ドアを開けようとして--。
「……鍵」
チッと舌打ちをすると、ジャックは一歩下がる。
そして--ドアを、蹴り破るのであった。
キィ、と壊れたドアが揺れる。
中に足を踏み入れれば、驚いて振り向く老人と目が合った。
「……おい、」
「ひぇぇ! お、お主の髪色……! 野蛮な緑の大地の人間じゃな!?」
なぜか腰を抜かす老人に、苛立ちを隠せない。
「テスは?」
「ひ、姫さまには指一本触れさせはせんぞ! ……とりゃ!」
あちこちの本棚から、一斉に本がジャックめがけて飛んできた。
それらを避けると、
「おいジジイ……何の真似だ?」
心底。
心底、不愉快に思いながら睨みつける。
と、真っ青になってガタガタと震えだす老人。
まるで殺人鬼でも見るかのような態度に、更に苛立ちが増す。
グイ、と胸ぐらを掴むと、
「ひ、姫さま……わしはもうここまでじゃ……無念……」
老人は、なぜか気を失ってしまった。
どうやら少し、服をキツくつかみすぎたらしい。
息はあるし、ただの酸欠だろう。
ということで、ジャックはようやく部屋を見回してみる。
夢の中と、やはり同じだ。
……アンティーク調のタンスやテーブルに、ベージュの絨毯。
部屋の奥には、天蓋付きのベッド……。
「…………」
初めて夢の中で彼女と結ばれたのは、このベッドの上だった。
恥ずかしがるテスに、自分らしくない甘い言葉をたくさん囁いた。
辛い思いをさせたくなくて、ひたすら時間をかけて優しくした。
まあ、夢の中だからか、あまり痛がってはいなかったのだが。
そんな事を思い出しながら、ジャックはレースたっぷりの天蓋カーテンにそっと手をかける。
そして、ゆっくりと開いていくと。
「……待たせたな」
淡く光る白い花を両手で握って、気持ちよさそうに目を閉じている、眠り姫の姿。
ジャックはふーっ、と大きなため息をついた。
そして、ベッドに腰掛けてテスの寝顔を見つめた。
……その目はとても、優しいもので。
とても、愛おしそうなもので。
「この花……オレがやった花か」
テスが握っている白い花には、覚えがある。
彼女に似合うと、ずっと思ってた。
やはり、テスによく似合う。
「あとは……起きるだけだな」
少し不安に思いながらも。
ジャックは身をかがめて、テスの唇に自分の唇を重ねた。
しかし、
「…………」
テスはまだ、気持ちよさそうに眠るばかり。
「おい、起きろ」
やはり、他の男とのキスでないと目を覚まさないのだろうか。
それは、嫌だ。
想像しただけで、無性に腹が立つ。
ジャックは再び、テスと唇を重ねる。
今度は、深い、深い口づけだ。
ぴく、とテスの指が動いた気がした。
そして、
「ん……う……」
ジャックの背中に手をまわして--懸命に深く激しいキスに、応えてくれた。
「ジャック……ジャック……!」
目を、覚ましてくれた。
唇を離して、互いに見つめ合う。
テスの目からは、涙がとめどなく流れていて。
「……会いたかった」
ジャックが一言、そう素直に口にすると、
「私もだよ……。来てくれて、ありがとう……」
テスは満面の笑顔を浮かべた。
初めて訪れる場所だというのに、なんだか変な気分だ。
幼い頃から、何度も夢の中で訪れたクラスタの城は……何から何まで、夢と同じだった。
今もまだ、夢の中にいるんじゃないか。
そう錯覚しても不思議ではないほどに。
息を切らしながら、ジャックはあるドアの前で立ち止まる。
そして、一度深呼吸をする。
ここは、テスが眠っている部屋、のはずだ。
「…………」
もし。
もし、このドアの向こうに……彼女がいなかったら?
テスは夢の中の存在で、現実にいなかったら?
……なんて、今更不安になったところで仕方ない。
結果はすぐに分かる。
意を決して、ドアを開けようとして--。
「……鍵」
チッと舌打ちをすると、ジャックは一歩下がる。
そして--ドアを、蹴り破るのであった。
キィ、と壊れたドアが揺れる。
中に足を踏み入れれば、驚いて振り向く老人と目が合った。
「……おい、」
「ひぇぇ! お、お主の髪色……! 野蛮な緑の大地の人間じゃな!?」
なぜか腰を抜かす老人に、苛立ちを隠せない。
「テスは?」
「ひ、姫さまには指一本触れさせはせんぞ! ……とりゃ!」
あちこちの本棚から、一斉に本がジャックめがけて飛んできた。
それらを避けると、
「おいジジイ……何の真似だ?」
心底。
心底、不愉快に思いながら睨みつける。
と、真っ青になってガタガタと震えだす老人。
まるで殺人鬼でも見るかのような態度に、更に苛立ちが増す。
グイ、と胸ぐらを掴むと、
「ひ、姫さま……わしはもうここまでじゃ……無念……」
老人は、なぜか気を失ってしまった。
どうやら少し、服をキツくつかみすぎたらしい。
息はあるし、ただの酸欠だろう。
ということで、ジャックはようやく部屋を見回してみる。
夢の中と、やはり同じだ。
……アンティーク調のタンスやテーブルに、ベージュの絨毯。
部屋の奥には、天蓋付きのベッド……。
「…………」
初めて夢の中で彼女と結ばれたのは、このベッドの上だった。
恥ずかしがるテスに、自分らしくない甘い言葉をたくさん囁いた。
辛い思いをさせたくなくて、ひたすら時間をかけて優しくした。
まあ、夢の中だからか、あまり痛がってはいなかったのだが。
そんな事を思い出しながら、ジャックはレースたっぷりの天蓋カーテンにそっと手をかける。
そして、ゆっくりと開いていくと。
「……待たせたな」
淡く光る白い花を両手で握って、気持ちよさそうに目を閉じている、眠り姫の姿。
ジャックはふーっ、と大きなため息をついた。
そして、ベッドに腰掛けてテスの寝顔を見つめた。
……その目はとても、優しいもので。
とても、愛おしそうなもので。
「この花……オレがやった花か」
テスが握っている白い花には、覚えがある。
彼女に似合うと、ずっと思ってた。
やはり、テスによく似合う。
「あとは……起きるだけだな」
少し不安に思いながらも。
ジャックは身をかがめて、テスの唇に自分の唇を重ねた。
しかし、
「…………」
テスはまだ、気持ちよさそうに眠るばかり。
「おい、起きろ」
やはり、他の男とのキスでないと目を覚まさないのだろうか。
それは、嫌だ。
想像しただけで、無性に腹が立つ。
ジャックは再び、テスと唇を重ねる。
今度は、深い、深い口づけだ。
ぴく、とテスの指が動いた気がした。
そして、
「ん……う……」
ジャックの背中に手をまわして--懸命に深く激しいキスに、応えてくれた。
「ジャック……ジャック……!」
目を、覚ましてくれた。
唇を離して、互いに見つめ合う。
テスの目からは、涙がとめどなく流れていて。
「……会いたかった」
ジャックが一言、そう素直に口にすると、
「私もだよ……。来てくれて、ありがとう……」
テスは満面の笑顔を浮かべた。
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