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魔法の国クラスタ
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「陛下、失礼しますよ」
国王が普段通りに執務室で仕事をしていると、大魔女がフラリとやってきた。
「珍しいね、何かあったのかい?」
「そろそろ来るようです」
「誰が?」
思わず、なんの話かわからずに聞き返した。
しかし、大魔女の嬉しそうな笑みに、ハッと気づく。
誰が来る、だなんてそんなの決まってる。
この7年間、待ち焦がれていた人物に他ならない。
国王が思わずガタッと椅子から立ち上がると同時に。
--ゴオオオオ……
窓の外から、聞きなれない大きな音がして、窓ガラスがビリビリと振動する。
振り返る国王と大魔女の目に映るのは--見たことのない、白く大きな……鉄の塊。
「……驚いた。あれが、飛空船というやつかい?」
「そのようで」
飛空船は、あっという間に城の屋上の方へと向かったようだ。
部屋の外が、ガヤガヤと騒がしくなる。
「おっと、こうしちゃいられない! 行こう!」
国王と大魔女は、はやる気持ちで屋上へと向かった。
途中、長老二人と鉢合わせる。
「今の不気味な音は何事じゃ!?」
「やっと来たんですよ、彼が」
「! おぉ……ついに……!」
「急いでお出迎えせねば!」
続々と王妃やリリーとララ、それに兵士たちと合流しながら。
--ガチャ
ゼェゼェ、と息を切らしながら屋上の階段を登りきり、その扉を開けると。
先程目にした白い飛空船から、ちょうど人が降り立ったのだが。
国王は、あれ?、と首を傾げた。
というのも、降り立ったこの青年は……。
「……君は?」
「あ、はじめまして。オレはバラン、よろしく!」
金色の髪に、緑色の瞳をした青年……バランだった。
たしか、大魔女の水晶で見た……テスに災いをもたらすかもしれない青年。
「え? あれ? 黒髪の彼は??」
「あージャック? ジャックなら……ひ・み・つ!」
茶目っ気たっぷりに笑顔で答えるバランに、国王その他大勢の者たちはポカンとする。
「ひ、姫様の運命のお相手はどこじゃー!?」
長老がバランの元に駆け寄るなり、ガクガクと胸元を掴んで問いただす。
それはもう、激しく。
「ま、まあまあ長老……落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかぁぁ!」
「7年待ったというのに、違う人間がやってくるなんて聞いとらんぞぉぉ!」
国王の制止はあまり意味がないようだ。
すると、バランは苦笑しながら、
「か、感動の再会に、こんな大勢の観客なんて、必要なくない?」
そう、ゲホゲホと咳き込みながら言った。
つまり--バランがこうして城の皆を引きつけている間に、すでにテスの元へ向かってるということ。
「そういう事か……。なら、問題はテスの見張り役の長老だけかな?」
国王は、安堵のため息をこぼしながら納得する。
今すぐにでもテスに会いに行きたい。
会って、7年ぶりの声が聞きたい。笑顔が見たい。抱きしめたい。
……が、それは野暮というものか。
「い、今すぐ姫さまの元へ行くのじゃ!」
「姫さまー!」
なんて駆け出す長老二人を、屋上ドアの前でリリーとララがガードする。
「今はまだいけません」
「そっとしてあげましょう」
にっこりとほほえむ双子に、長老二人はというと……あっという間に眠らされてしまった。
「さて……ところで、バランといったね? ご先祖様の生まれ故郷、クラスタへようこそ。おかえり、の方がいいかな?」
彼は、テスに災いをもたらすかもしれない。
大魔女の水晶に黒いモヤがかかっていたからだ。
けれど、国王にはとてもそうは見えない。
ただの勘だが。
「……ッ、ありがとうございます」
バランは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべたあと、後頭部をかいた。
「陛下、失礼しますよ」
国王が普段通りに執務室で仕事をしていると、大魔女がフラリとやってきた。
「珍しいね、何かあったのかい?」
「そろそろ来るようです」
「誰が?」
思わず、なんの話かわからずに聞き返した。
しかし、大魔女の嬉しそうな笑みに、ハッと気づく。
誰が来る、だなんてそんなの決まってる。
この7年間、待ち焦がれていた人物に他ならない。
国王が思わずガタッと椅子から立ち上がると同時に。
--ゴオオオオ……
窓の外から、聞きなれない大きな音がして、窓ガラスがビリビリと振動する。
振り返る国王と大魔女の目に映るのは--見たことのない、白く大きな……鉄の塊。
「……驚いた。あれが、飛空船というやつかい?」
「そのようで」
飛空船は、あっという間に城の屋上の方へと向かったようだ。
部屋の外が、ガヤガヤと騒がしくなる。
「おっと、こうしちゃいられない! 行こう!」
国王と大魔女は、はやる気持ちで屋上へと向かった。
途中、長老二人と鉢合わせる。
「今の不気味な音は何事じゃ!?」
「やっと来たんですよ、彼が」
「! おぉ……ついに……!」
「急いでお出迎えせねば!」
続々と王妃やリリーとララ、それに兵士たちと合流しながら。
--ガチャ
ゼェゼェ、と息を切らしながら屋上の階段を登りきり、その扉を開けると。
先程目にした白い飛空船から、ちょうど人が降り立ったのだが。
国王は、あれ?、と首を傾げた。
というのも、降り立ったこの青年は……。
「……君は?」
「あ、はじめまして。オレはバラン、よろしく!」
金色の髪に、緑色の瞳をした青年……バランだった。
たしか、大魔女の水晶で見た……テスに災いをもたらすかもしれない青年。
「え? あれ? 黒髪の彼は??」
「あージャック? ジャックなら……ひ・み・つ!」
茶目っ気たっぷりに笑顔で答えるバランに、国王その他大勢の者たちはポカンとする。
「ひ、姫様の運命のお相手はどこじゃー!?」
長老がバランの元に駆け寄るなり、ガクガクと胸元を掴んで問いただす。
それはもう、激しく。
「ま、まあまあ長老……落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかぁぁ!」
「7年待ったというのに、違う人間がやってくるなんて聞いとらんぞぉぉ!」
国王の制止はあまり意味がないようだ。
すると、バランは苦笑しながら、
「か、感動の再会に、こんな大勢の観客なんて、必要なくない?」
そう、ゲホゲホと咳き込みながら言った。
つまり--バランがこうして城の皆を引きつけている間に、すでにテスの元へ向かってるということ。
「そういう事か……。なら、問題はテスの見張り役の長老だけかな?」
国王は、安堵のため息をこぼしながら納得する。
今すぐにでもテスに会いに行きたい。
会って、7年ぶりの声が聞きたい。笑顔が見たい。抱きしめたい。
……が、それは野暮というものか。
「い、今すぐ姫さまの元へ行くのじゃ!」
「姫さまー!」
なんて駆け出す長老二人を、屋上ドアの前でリリーとララがガードする。
「今はまだいけません」
「そっとしてあげましょう」
にっこりとほほえむ双子に、長老二人はというと……あっという間に眠らされてしまった。
「さて……ところで、バランといったね? ご先祖様の生まれ故郷、クラスタへようこそ。おかえり、の方がいいかな?」
彼は、テスに災いをもたらすかもしれない。
大魔女の水晶に黒いモヤがかかっていたからだ。
けれど、国王にはとてもそうは見えない。
ただの勘だが。
「……ッ、ありがとうございます」
バランは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべたあと、後頭部をかいた。
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