眠り姫は夢の中

rui

文字の大きさ
上 下
36 / 40
魔法の国クラスタ

35

しおりを挟む
***

「陛下、失礼しますよ」

国王が普段通りに執務室で仕事をしていると、大魔女がフラリとやってきた。

「珍しいね、何かあったのかい?」
「そろそろ来るようです」
「誰が?」

思わず、なんの話かわからずに聞き返した。
しかし、大魔女の嬉しそうな笑みに、ハッと気づく。

誰が来る、だなんてそんなの決まってる。
この7年間、待ち焦がれていた人物に他ならない。

国王が思わずガタッと椅子から立ち上がると同時に。

--ゴオオオオ……

窓の外から、聞きなれない大きな音がして、窓ガラスがビリビリと振動する。

振り返る国王と大魔女の目に映るのは--見たことのない、白く大きな……鉄の塊。

「……驚いた。あれが、飛空船というやつかい?」
「そのようで」

飛空船は、あっという間に城の屋上の方へと向かったようだ。
部屋の外が、ガヤガヤと騒がしくなる。

「おっと、こうしちゃいられない! 行こう!」

国王と大魔女は、はやる気持ちで屋上へと向かった。
途中、長老二人と鉢合わせる。

「今の不気味な音は何事じゃ!?」
「やっと来たんですよ、彼が」
「! おぉ……ついに……!」
「急いでお出迎えせねば!」

続々と王妃やリリーとララ、それに兵士たちと合流しながら。

--ガチャ

ゼェゼェ、と息を切らしながら屋上の階段を登りきり、その扉を開けると。

先程目にした白い飛空船から、ちょうど人が降り立ったのだが。

国王は、あれ?、と首を傾げた。

というのも、降り立ったこの青年は……。

「……君は?」
「あ、はじめまして。オレはバラン、よろしく!」

金色の髪に、緑色の瞳をした青年……バランだった。
たしか、大魔女の水晶で見た……テスに災いをもたらすかもしれない青年。

「え? あれ? 黒髪の彼は??」
「あージャック? ジャックなら……ひ・み・つ!」

茶目っ気たっぷりに笑顔で答えるバランに、国王その他大勢の者たちはポカンとする。

「ひ、姫様の運命のお相手はどこじゃー!?」

長老がバランの元に駆け寄るなり、ガクガクと胸元を掴んで問いただす。
それはもう、激しく。

「ま、まあまあ長老……落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかぁぁ!」
「7年待ったというのに、違う人間がやってくるなんて聞いとらんぞぉぉ!」

国王の制止はあまり意味がないようだ。

すると、バランは苦笑しながら、

「か、感動の再会に、こんな大勢の観客なんて、必要なくない?」

そう、ゲホゲホと咳き込みながら言った。

つまり--バランがこうして城の皆を引きつけている間に、すでにテスの元へ向かってるということ。

「そういう事か……。なら、問題はテスの見張り役の長老だけかな?」

国王は、安堵のため息をこぼしながら納得する。

今すぐにでもテスに会いに行きたい。
会って、7年ぶりの声が聞きたい。笑顔が見たい。抱きしめたい。

……が、それは野暮というものか。

「い、今すぐ姫さまの元へ行くのじゃ!」
「姫さまー!」

なんて駆け出す長老二人を、屋上ドアの前でリリーとララがガードする。

「今はまだいけません」
「そっとしてあげましょう」

にっこりとほほえむ双子に、長老二人はというと……あっという間に眠らされてしまった。

「さて……ところで、バランといったね? ご先祖様の生まれ故郷、クラスタへようこそ。おかえり、の方がいいかな?」

彼は、テスに災いをもたらすかもしれない。
大魔女の水晶に黒いモヤがかかっていたからだ。

けれど、国王にはとてもそうは見えない。
ただの勘だが。

「……ッ、ありがとうございます」

バランは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべたあと、後頭部をかいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの
恋愛
リデルはヴォルシュタイン王国の名門貴族ベルクォーツ公爵の血を引いている。 しかし彼女は正妻の子ではなく愛人の子だった。 父は自分に無関心で母は父の寵愛を失ったことで荒れていた。 そんな中、母が亡くなりリデルは父公爵に引き取られ本邸へと行くことになる そこで出会ったのが父公爵の正妻であり、義母となった公爵夫人シルフィーラだった。 彼女は愛人の子だというのにリデルを冷遇することなく、母の愛というものを教えてくれた。 リデルは虐げられているシルフィーラを守り抜き、幸せにすることを決意する。 しかし本邸にはリデルの他にも父公爵の愛人の子がいて――? 「愛するお義母様を幸せにします!」 愛する義母を守るために奮闘するリデル。そうしているうちに腹違いの兄弟たちの、公爵の愛人だった実母の、そして父公爵の知られざる秘密が次々と明らかになって――!? ヒロインが愛する義母のために強く逞しい女となり、結果的には皆に愛されるようになる物語です! 完結まで執筆済みです! 小説家になろう様にも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...