眠り姫は夢の中

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魔法の国クラスタ

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「なぁ! お前って魔法の国のお姫様を迎えに行くんだろ? お姫様、可愛いのか? それとも美人??」

機体の中で、バランが楽しそうに聞いてきた。

ジャックは頭の中で、テスの笑顔を思い出してみる。

どちらかというと……どっちだ。
と、一人悩んだ結果。

「……両方だ」
「ひゅー! マジで!? 楽しみが増えた!」

7年の付き合いの間に、バランとはいろんな話をした。
したというか、聞かれたから答えてたというか。

とにかく、バランだけが、魔法の国の話を一度も笑うことなく聞いてくれたのは確かだった。

「魔法の国なんて、なんで信じてんだ?」

タックスでさえ、初めて聞いた時は『おとぎ話なんか信じてんのか』と笑い飛ばしてくれた。
もちろん、仕方ないとは分かっているし、今では信じてくれている。

バランは遠くに浮いている雲を眺めながら、

「そりゃ、信じるよ。オレには、魔法の国クラスタの血が流れてるんだから」

そう、サラリと口にした。

……魔法の国クラスタの血が、流れてる。

ジャックは、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。

「……は?」
「信じてよ。……ほら、地上にはないだろ? こんな色の瞳」

少し苦笑しながら、バランは目から何かを取り出した。
それは、色のついたコンタクトだ。

ジャックの目に映るバランの本当の瞳の色は--緑色で。

「…………」

それは、テスと同じ色だった。

「あと、少しなら魔法、使えるんだ。どうだ?」

唖然としてるジャックの目の前で、バランの指の動きに合わせて、荷物がふわふわと浮く。

「なんで黙ってた?」
「だって、誰も信じないだろ?」
「……まあな」

ジャックは少し呆れた表情を浮かべながらも、理解はした。
たしかに、誰も信じないだろう。

証拠なんて何もない。
魔法の力だって、超能力だと言われたらそれまでだ。

「ご先祖様の生まれ故郷を、一度でいいから見てみたかった。だから飛空船技師になったんだけど、雲の上までは今の技術じゃ無理だって言われるしさ。ホント、ジャックに会えて良かった! これって運命だと思わないか!?」

そう言って、バランはふわりと荷物を後ろの空いたスペースにやった。

「運命か」

テスも、よく口にしてたな、と思い出す。
魔法の国の人間は、その言葉が好きなのだろうか。

「てか、雲の上の島国っていっても……空は広いよなぁ。どの辺にあるのか目星はついてんの?」
「ああ」

夢の中で、城の屋上から見えた地上の姿は、ちゃんと記憶に残っている。
あの景色の見える場所の近くに、きっといる。

ジャックの眠り姫は、必ずそこにいる。
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