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魔法の国クラスタ
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--時間が過ぎるのは、本当にあっという間だ。
「やっとここまできたな……」
タックスが汗をタオルで拭いながら、ポツリとそう口にする。
その隣に立つジャックは、ただ静かに頷いた。
二人は、完成した飛空船を見上げる。
見た目はごくごくシンプルな、白の小型機だ。
二人乗りで、もちろん浮遊石を搭載している。
タックスにあげた浮遊石で、幾度となく石の特性を調べ、実験してきたが、実際にどこまで安全に高く飛べるのか、は乗ってみないことには分からない。
……飛空船技師見習いから始まって。
タックスや他の技師仲間に助けられながら、ようやく、ここまできた。
7年だ。
弟子入りしてから、7年かかった。
その間に、ジャックからは少年らしさがすっかりなくなり、25歳になった今、精悍な顔つきになった。
体つきもたくましくなった。
まあ、無愛想で無口なところは相変わらずなのだが。
タックスのおかげで、王都でも何とか問題なく暮らすことができている。
問題があるとすれば……。
ふと、視線を感じた。
「?」
なんとなく振り向くと、汚れたツナギを着た若い女と目が合った。
「うっ……な、なにこっち見てんのよ! 私になんか用!?」
若い女--ユミナはタックスの娘で、二十歳の飛空船技師だ。
癖のある黒のショートヘアに、気の強そうな顔立ち。
勝気で負けず嫌いな性格で、事あるごとにジャックに突っかかってくる。
「別に」
視線を感じたから振り向いただけだ。
「ふんっ」
初めて会った時から、ずっとこんな感じである。
まあ、どうでもいいのだが。
父であるタックスがジャックの飛空船造りばかり手伝っているので、おそらく気にくわないのだろう。
「なによ、これ。地味でダサくない? 私がもっとおしゃれな感じに塗装してやってもいいけど?」
ユミナは二人の元にやってくるなり、ジャックの飛空船を見上げて文句を言い出すが、
「よし、ジャック。明日は天気もいいし、さっそく試しに動かすか?」
「ああ」
いつもの事なので、タックスもジャックもスルーして二人で話をする。
「ちょっと! 人の好意はありがたく受け取りなさいよ!」
好意なのか、よく分からないが。
ジャックは即答する。
「これ以上時間を無駄にする気はない」
地味でダサくても別にいい。
強いて言うなら、テスに似合うであろう白一色でジャックは満足してる。
「後でして欲しくなっても、してやらないから!」
あっかんべーをして、ユミナは造船所から走り去ってしまった。
「……わりーなぁジャック。あいつ、ああ見えてお前のこと気に入ってんだ。いつまでガキなんだかなぁ」
気に入ってるようには、とても見えない。
ジャックが呆れていると。
今度は、若い男の声が背後から聞こえてきた。
「あー、出来たんだ?」
長い金髪にブラウンの瞳をした、顔立ちの整った青年--バラン。
彼は王都で出会った、同じ飛空船技師だ。
「いいなー浮遊石装備の飛空船、世界中探してもこれだけだろ? これに乗って、魔法の国を探しに行くってホント?」
軽いノリのバランは、なにを考えてるのかいまいちよく分からない。
ただ、ジャックの飛空船造りを設計当初からずっと手伝ってきてくれた、恩人であるのは確かだ。
「ああ」
笑われようが、どうでもいい。
バランに頷いて答えると、
「そっか……。本気で信じてたんだなぁ」
なんて、感心したように言われる。
まあ、それも仕方ない。
何はともあれ、明日、試運転だ。
それで問題がないようなら--すぐにでも魔法の国クラスタへ向かう。
もちろん、テスを迎えに行くために。
--時間が過ぎるのは、本当にあっという間だ。
「やっとここまできたな……」
タックスが汗をタオルで拭いながら、ポツリとそう口にする。
その隣に立つジャックは、ただ静かに頷いた。
二人は、完成した飛空船を見上げる。
見た目はごくごくシンプルな、白の小型機だ。
二人乗りで、もちろん浮遊石を搭載している。
タックスにあげた浮遊石で、幾度となく石の特性を調べ、実験してきたが、実際にどこまで安全に高く飛べるのか、は乗ってみないことには分からない。
……飛空船技師見習いから始まって。
タックスや他の技師仲間に助けられながら、ようやく、ここまできた。
7年だ。
弟子入りしてから、7年かかった。
その間に、ジャックからは少年らしさがすっかりなくなり、25歳になった今、精悍な顔つきになった。
体つきもたくましくなった。
まあ、無愛想で無口なところは相変わらずなのだが。
タックスのおかげで、王都でも何とか問題なく暮らすことができている。
問題があるとすれば……。
ふと、視線を感じた。
「?」
なんとなく振り向くと、汚れたツナギを着た若い女と目が合った。
「うっ……な、なにこっち見てんのよ! 私になんか用!?」
若い女--ユミナはタックスの娘で、二十歳の飛空船技師だ。
癖のある黒のショートヘアに、気の強そうな顔立ち。
勝気で負けず嫌いな性格で、事あるごとにジャックに突っかかってくる。
「別に」
視線を感じたから振り向いただけだ。
「ふんっ」
初めて会った時から、ずっとこんな感じである。
まあ、どうでもいいのだが。
父であるタックスがジャックの飛空船造りばかり手伝っているので、おそらく気にくわないのだろう。
「なによ、これ。地味でダサくない? 私がもっとおしゃれな感じに塗装してやってもいいけど?」
ユミナは二人の元にやってくるなり、ジャックの飛空船を見上げて文句を言い出すが、
「よし、ジャック。明日は天気もいいし、さっそく試しに動かすか?」
「ああ」
いつもの事なので、タックスもジャックもスルーして二人で話をする。
「ちょっと! 人の好意はありがたく受け取りなさいよ!」
好意なのか、よく分からないが。
ジャックは即答する。
「これ以上時間を無駄にする気はない」
地味でダサくても別にいい。
強いて言うなら、テスに似合うであろう白一色でジャックは満足してる。
「後でして欲しくなっても、してやらないから!」
あっかんべーをして、ユミナは造船所から走り去ってしまった。
「……わりーなぁジャック。あいつ、ああ見えてお前のこと気に入ってんだ。いつまでガキなんだかなぁ」
気に入ってるようには、とても見えない。
ジャックが呆れていると。
今度は、若い男の声が背後から聞こえてきた。
「あー、出来たんだ?」
長い金髪にブラウンの瞳をした、顔立ちの整った青年--バラン。
彼は王都で出会った、同じ飛空船技師だ。
「いいなー浮遊石装備の飛空船、世界中探してもこれだけだろ? これに乗って、魔法の国を探しに行くってホント?」
軽いノリのバランは、なにを考えてるのかいまいちよく分からない。
ただ、ジャックの飛空船造りを設計当初からずっと手伝ってきてくれた、恩人であるのは確かだ。
「ああ」
笑われようが、どうでもいい。
バランに頷いて答えると、
「そっか……。本気で信じてたんだなぁ」
なんて、感心したように言われる。
まあ、それも仕方ない。
何はともあれ、明日、試運転だ。
それで問題がないようなら--すぐにでも魔法の国クラスタへ向かう。
もちろん、テスを迎えに行くために。
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