眠り姫は夢の中

rui

文字の大きさ
上 下
28 / 40
眠り姫は夢の中

27

しおりを挟む
 ***

「……どうなの? テスの様子は」

母親が心配そうに、診察してくれた主治医に聞いた。
ベッドには、すーすー、とテスが気持ちよさそうに寝息をたてている。

「大丈夫です。ただ眠っているだけですよ王妃様」

主治医の話にホッと胸をなでおろした。

「ただ……18の誕生日より少し早いですが、もしかしたらもう深い眠りについてしまったのかもしれませんね」

突然意識を失い、眠りについてしまったというテス。
その話を聞いて、そんな気はしていた。

さて。
後は、運命の赤い糸で結ばれた相手がキスをしに来てくれるのを待つばかり、なのだが。

夫が言うには、相手は地上の人間だという。
黒髪で、少々目つきが悪くて、なんだかとっつきにくい雰囲気だとか。
飛空船で迎えに来てくれると夢の中で約束をしてるそうだ。

テスが幼い頃から何度も、何度も話をしてくれた、あの夢の中に現れる少年……ジャックのことだと、すぐにピンときた。
彼は、やはりテスの運命の相手だったのだ。

母親は眠るテスの髪を優しくなでながら、

「待ち遠しいわね、テス」

そう、話しかけた。
すると、黙って話を聞いていた長老の一人が口を開く。

「姫様、わしらが必ずお相手を連れてきますからの」

その言葉に、母親は首をかしげる。

「あら? どうやって連れてくるの?」

確か、地上と繋がる魔法陣は使用できないと聞いた。
それに浮遊石を使うという話もあったが、地上まで生身で行くには危険すぎるとも。

「危険だろうとなんだろうと、ワシは浮遊石を使って地上へ向かうつもりじゃ」
「そうでもせんと、姫様は永遠に眠り続けてしまうしの」
「姫様のためじゃ」

長老たちの覚悟を聞いて、母親はニコニコと笑みを浮かべながら、

「そんなことしなくても大丈夫ですよ、きっと。彼の方から来てくれますから」

呑気にお茶を飲み出した。
マイペースな王妃に、長老たちは慌て出す。

「お気を確かに!」
「地上から来るなんてあり得ん!」
「諦めてはいかん!」
「こうしちゃおれん!」
「行くぞ!」
「待て待て、腰が……!」

杖をつきながらわいわいと部屋から出て行く長老たちに、母親はあっけにとられてしまった。

「あらまぁ……」

大丈夫だろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...