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運命の赤い糸
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目を開けると、懸命にキスを受け入れるテスの可愛らしい顔……ではなく。
「おい、ジャック。ジャック!」
「…………」
なぜかジャックの顔を覗き込む、どこか焦ったような表情のタックスの顔がドアップで映って、思わず固まってしまった。
なんて場面で目が覚めてしまったのか。
いや、むしろあそこで夢から覚めて良かったのかもしれない。
なんであんな事をしたのか、自分でも分からない。
ただ、無性に腹が立ったのだ。
会いたくないと言ったり、迎えに来なくていいと言ったり。
「……くそ」
ジャックは上半身を起こしながら、熱が静まるのを待っていると。
タックスが、更にせかすように話しかけてきた。
「これ……どうした!?」
そういえば、なぜジャックの部屋にいるのだろう。
彼は普段、修理中の飛空船の中で寝泊まりしているはずなのだが。
家の倉庫まで、部品を探しにきたついでに来たのかもそれない。
と、ジャックが寝起きの頭でぼんやり考えていると、
「おい、聞いてんのか!? コレ、どこで手に入れた??」
タックスがユサユサと、肩を大きく揺らしてくる。
そういえば、さっきから何の話をしているのだろうか。
ジャックは不機嫌になりながらも、ようやく顔をあげる。
すると、
「……は?」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまったのも無理はない。
ジャックの部屋に無数に浮かぶのは、夢の中でテスが見せてくれた、透明な石--浮遊石。
『私もね、こう見えて魔法使いなんだよ? 楽しみにしてて、ね?』
テスが言っていたのはこういうことだったのか、とジャックは一人納得する。
「こりゃあ、古い本でしか見たことねぇが……浮遊石ってやつじゃねえか? 本当にあるなんて信じられん……」
「そうか」
手を伸ばしてみると、ちゃんと浮遊石に触れることができる。
幻でもなんでもない。
「で? なんでジャックがこいつをこんなに持ってるんだ!?」
タックスが興奮気味に聞いてくるが、なんとも答えられない。
「まぁ……色々あって」
「色々ってなんだよ??」
「どうせ信じない」
夢の中で、空の国のお姫様が誕生日プレゼントにくれた。
……ダメだ。
絶対、信じない。
「ならどこにあった?」
探しに行きたいのだろうが、テスは『地上にはないと思う』と言っていた。
たから、多分、ない。
「もうないと思う」
「本当か?」
「本当だ」
「神に誓えるか?」
「……あのさ」
しつこい。
目がキラキラと輝いている。
ジャックは手に持っていた浮遊石を、タックスに差し出した。
「……一個やるから勘弁してくれ」
「マジか! サンキュー! こりゃー色々試してみる価値があるぞ!」
踊り出しそうな勢いで、あっという間にタックスは部屋から出て行ってしまった。
嵐が去ったようだ。
「浮遊石、か」
あちこちにフワフワと浮いている浮遊石。
これらがあれば、もしかしたら……魔法の国クラスタまで行けるだろうか。
すぐにでも、飛空船技師になりたい。
タックスからの話を聞けば、飛空船造りには何年、長いと十数年とかかるそうだ。
卒業まであと数ヶ月。
……とてもじゃないが、待っていられない。
親不孝だと分かっている。
それでも--。
目を開けると、懸命にキスを受け入れるテスの可愛らしい顔……ではなく。
「おい、ジャック。ジャック!」
「…………」
なぜかジャックの顔を覗き込む、どこか焦ったような表情のタックスの顔がドアップで映って、思わず固まってしまった。
なんて場面で目が覚めてしまったのか。
いや、むしろあそこで夢から覚めて良かったのかもしれない。
なんであんな事をしたのか、自分でも分からない。
ただ、無性に腹が立ったのだ。
会いたくないと言ったり、迎えに来なくていいと言ったり。
「……くそ」
ジャックは上半身を起こしながら、熱が静まるのを待っていると。
タックスが、更にせかすように話しかけてきた。
「これ……どうした!?」
そういえば、なぜジャックの部屋にいるのだろう。
彼は普段、修理中の飛空船の中で寝泊まりしているはずなのだが。
家の倉庫まで、部品を探しにきたついでに来たのかもそれない。
と、ジャックが寝起きの頭でぼんやり考えていると、
「おい、聞いてんのか!? コレ、どこで手に入れた??」
タックスがユサユサと、肩を大きく揺らしてくる。
そういえば、さっきから何の話をしているのだろうか。
ジャックは不機嫌になりながらも、ようやく顔をあげる。
すると、
「……は?」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまったのも無理はない。
ジャックの部屋に無数に浮かぶのは、夢の中でテスが見せてくれた、透明な石--浮遊石。
『私もね、こう見えて魔法使いなんだよ? 楽しみにしてて、ね?』
テスが言っていたのはこういうことだったのか、とジャックは一人納得する。
「こりゃあ、古い本でしか見たことねぇが……浮遊石ってやつじゃねえか? 本当にあるなんて信じられん……」
「そうか」
手を伸ばしてみると、ちゃんと浮遊石に触れることができる。
幻でもなんでもない。
「で? なんでジャックがこいつをこんなに持ってるんだ!?」
タックスが興奮気味に聞いてくるが、なんとも答えられない。
「まぁ……色々あって」
「色々ってなんだよ??」
「どうせ信じない」
夢の中で、空の国のお姫様が誕生日プレゼントにくれた。
……ダメだ。
絶対、信じない。
「ならどこにあった?」
探しに行きたいのだろうが、テスは『地上にはないと思う』と言っていた。
たから、多分、ない。
「もうないと思う」
「本当か?」
「本当だ」
「神に誓えるか?」
「……あのさ」
しつこい。
目がキラキラと輝いている。
ジャックは手に持っていた浮遊石を、タックスに差し出した。
「……一個やるから勘弁してくれ」
「マジか! サンキュー! こりゃー色々試してみる価値があるぞ!」
踊り出しそうな勢いで、あっという間にタックスは部屋から出て行ってしまった。
嵐が去ったようだ。
「浮遊石、か」
あちこちにフワフワと浮いている浮遊石。
これらがあれば、もしかしたら……魔法の国クラスタまで行けるだろうか。
すぐにでも、飛空船技師になりたい。
タックスからの話を聞けば、飛空船造りには何年、長いと十数年とかかるそうだ。
卒業まであと数ヶ月。
……とてもじゃないが、待っていられない。
親不孝だと分かっている。
それでも--。
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