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運命の赤い糸
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***
「今日はいよいよお祭りですね!」
「さあ準備をしましょう、テス様!」
魔法の国クラスタの、春の訪れを祝うお祭りの日。
部屋で花瓶を取り替えているテスのもとにやってきたのは、幼い頃から身の回りの世話をしてくれる侍女二人だ。
テスより五つほど年上の、薄茶色のサラサラの髪をした双子のリリーとララ。
容姿はほぼ同一人物。
しっかり者で頼れる彼女たちは、姉のような存在だ。
テスは花瓶に白い花を丁寧に飾りながら、ニコリと笑みを浮かべて頷いた。
「うん、楽しみだね」
白い花は、相変わらず枯れることもなく、可愛らしく咲いている。
テスの宝物だ。
「テス様、この服はいかがですか?」
「それよりもこちらの方がお似合いですよ」
「もー、なんでもいいから早く行こ!」
きゃいきゃいと3人で楽しく準備をしながら、テスはふと窓の外に視線をやる。
飾り付けされた建物に、たくさんのお店に仮装した人々と、賑やかだ。
毎年、このお祭りをすごく楽しみにしていた。
一度くらいジャックと行ってみたかったな、とぼんやり思ってしまって、すぐにブンブンと首を横に振った。
ジャックにはもう会わない、忘れると決めたのに。
不思議なもので……会いたくない、と思っていると、夢の中でまるで会わなくなった。
というか、夢を見なくなった。
……ジャックは、心配してるだろうか。
いや、そもそも彼は現実に存在していなかったのかもしれない。
テスの願望が生み出した、架空の人物なのかもしれない。
「テス様?」
「どうかされました?」
「ううん、なんでもない」
二人の問いに、テスはニコニコと笑顔を浮かべた。
心配をかけたくない。
そんなテスの様子に、リリーとララは顔を見合わせた。
「ひめさま、ひめさまだ!」
「ひめさまー!」
街を歩けば、街の子供たちが元気に駆け寄ってくる。
よしよし、とテスが子供たちの頭をなでていると、リリーとララの耳に男たちの話し声が聞こえてきた。
「綺麗になったよなぁ~テス様……」
「最近は特にさ、なんていうか……こう、時々ふとした瞬間にみせる憂いを帯びた顔とか、たまんねー」
「色気出てきたよなぁ」
デレッとしまりのない顔をする男たちに、リリーとララはなんだかとても得意げにうんうん、と頷く。
幼い頃から仕えてきた二人にとって、テスは大事な大事な主人であり妹のような存在だ。
とにかく、素直で可愛い。
可愛くて仕方がない、自慢のお姫様なのだった。
さらに男たちは、二人が聞いていることに気づかないまま、小声でひそひそと続ける。
「なぁ……胸もけっこう大きくなってねぇ?」
「ウエストもくびれて……尻もいい感じ」
「もうすぐ18かぁ……眠りについたら、誰がキスするんだろうな? じゅ、順番に試すとか?」
「つーかさ、夜這いし放題じゃね……?」
その場にいた若い男たち全員が、テスをいやらしい視線で見つめながらゴクリと喉を鳴らす……と。
パキ、パキ、と指の骨を鳴らすリリーとララが目の前にいた。
ゆらり、と顔を上げる二人の目が……すわっている。
命の危機を、感じずにはいられない。
「リリー、ララ。……何かあった?」
男たちが一目散に逃げ出したあと。
子供たちから解放されたテスが、首を傾げながら二人に聞いてきたが。
振り返る二人は、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
「ほほほ。いいえ、なにも」
「ふふふ。それでは参りましょうか」
テスに、男たちのしていた汚らわしい会話の内容を教えるわけにはいかない。
さすがは双子、二人の息はぴったりだ。
「? う、うん」
二人に促されて歩き出そうとした、その時。
--バサっ
真っ赤な美しい花束を、テスが何者かに差し出された。
「ああ、テス様……なんと今日もお美しい。やはりあなたは私の天使……いや女神だ。
どうかこの花束を受け取ってはくれませんか?」
長い金色の前髪を手でスッとかきあげるタレ目がちな青年に、双子の顔がピクピクとひきつる。
危険人物の登場である。
「うわぁ、綺麗! ありがとう、シーマ」
花束を受け取りながら、テスは花束の青年…シーマに礼を言った。
彼は、どんな女性にも優しく紳士だと評判の街の青年だ。
女性が好きで、見かける時は常に女性を口説いている。
シーマはテスの前にひざまづくと、テスの手を握りしめてきた。
キョトンとするテスに、
「じき眠りにつくあなたを起こすのは、きっと私でしょう。私しかいません。あなたの運命の赤い糸の相手は!」
謎の自信に満ち溢れた表情で、そう宣言する。
そして、テスの手の甲にキスをしようと顔を近づけると。
グイグイ、と双子によってシーマとテスはあっさり引き離されたのであった。
「おやヤキモチかい、リリー、ララ」
モテる男は困る、と言わんばかりのナルシストぶりに、リリーとララはニッコリと笑みを浮かべる。
そして、二人は同時にシーマへと手をかざす。
「まったく……テス様に気安く触るんじゃないわよ」
「身の程を知りなさい」
…………。
シーマが双子の魔法によって、いびきをかいて眠ってしまったあと。
受け取った花束を抱きかかえるテスの元へ戻るリリーとララは、顔を見合わせる。
テスが、どこか寂しそうな表情を浮かべているからだ。
いや、今に始まったことではない。
この数週間、ずっと様子がおかしいのだ。
「……テス様、最近お元気がないようですが」
「何か困ったことがありましたら、何でも話してください」
その言葉に、テスはハッとするとすぐに笑顔を浮かべて首を横になって振った。
「んー。大丈夫、大丈夫。ね、何か食べに行こ?」
強がっている。
絶対に。
「今日はいよいよお祭りですね!」
「さあ準備をしましょう、テス様!」
魔法の国クラスタの、春の訪れを祝うお祭りの日。
部屋で花瓶を取り替えているテスのもとにやってきたのは、幼い頃から身の回りの世話をしてくれる侍女二人だ。
テスより五つほど年上の、薄茶色のサラサラの髪をした双子のリリーとララ。
容姿はほぼ同一人物。
しっかり者で頼れる彼女たちは、姉のような存在だ。
テスは花瓶に白い花を丁寧に飾りながら、ニコリと笑みを浮かべて頷いた。
「うん、楽しみだね」
白い花は、相変わらず枯れることもなく、可愛らしく咲いている。
テスの宝物だ。
「テス様、この服はいかがですか?」
「それよりもこちらの方がお似合いですよ」
「もー、なんでもいいから早く行こ!」
きゃいきゃいと3人で楽しく準備をしながら、テスはふと窓の外に視線をやる。
飾り付けされた建物に、たくさんのお店に仮装した人々と、賑やかだ。
毎年、このお祭りをすごく楽しみにしていた。
一度くらいジャックと行ってみたかったな、とぼんやり思ってしまって、すぐにブンブンと首を横に振った。
ジャックにはもう会わない、忘れると決めたのに。
不思議なもので……会いたくない、と思っていると、夢の中でまるで会わなくなった。
というか、夢を見なくなった。
……ジャックは、心配してるだろうか。
いや、そもそも彼は現実に存在していなかったのかもしれない。
テスの願望が生み出した、架空の人物なのかもしれない。
「テス様?」
「どうかされました?」
「ううん、なんでもない」
二人の問いに、テスはニコニコと笑顔を浮かべた。
心配をかけたくない。
そんなテスの様子に、リリーとララは顔を見合わせた。
「ひめさま、ひめさまだ!」
「ひめさまー!」
街を歩けば、街の子供たちが元気に駆け寄ってくる。
よしよし、とテスが子供たちの頭をなでていると、リリーとララの耳に男たちの話し声が聞こえてきた。
「綺麗になったよなぁ~テス様……」
「最近は特にさ、なんていうか……こう、時々ふとした瞬間にみせる憂いを帯びた顔とか、たまんねー」
「色気出てきたよなぁ」
デレッとしまりのない顔をする男たちに、リリーとララはなんだかとても得意げにうんうん、と頷く。
幼い頃から仕えてきた二人にとって、テスは大事な大事な主人であり妹のような存在だ。
とにかく、素直で可愛い。
可愛くて仕方がない、自慢のお姫様なのだった。
さらに男たちは、二人が聞いていることに気づかないまま、小声でひそひそと続ける。
「なぁ……胸もけっこう大きくなってねぇ?」
「ウエストもくびれて……尻もいい感じ」
「もうすぐ18かぁ……眠りについたら、誰がキスするんだろうな? じゅ、順番に試すとか?」
「つーかさ、夜這いし放題じゃね……?」
その場にいた若い男たち全員が、テスをいやらしい視線で見つめながらゴクリと喉を鳴らす……と。
パキ、パキ、と指の骨を鳴らすリリーとララが目の前にいた。
ゆらり、と顔を上げる二人の目が……すわっている。
命の危機を、感じずにはいられない。
「リリー、ララ。……何かあった?」
男たちが一目散に逃げ出したあと。
子供たちから解放されたテスが、首を傾げながら二人に聞いてきたが。
振り返る二人は、にっこりと満面の笑みを浮かべる。
「ほほほ。いいえ、なにも」
「ふふふ。それでは参りましょうか」
テスに、男たちのしていた汚らわしい会話の内容を教えるわけにはいかない。
さすがは双子、二人の息はぴったりだ。
「? う、うん」
二人に促されて歩き出そうとした、その時。
--バサっ
真っ赤な美しい花束を、テスが何者かに差し出された。
「ああ、テス様……なんと今日もお美しい。やはりあなたは私の天使……いや女神だ。
どうかこの花束を受け取ってはくれませんか?」
長い金色の前髪を手でスッとかきあげるタレ目がちな青年に、双子の顔がピクピクとひきつる。
危険人物の登場である。
「うわぁ、綺麗! ありがとう、シーマ」
花束を受け取りながら、テスは花束の青年…シーマに礼を言った。
彼は、どんな女性にも優しく紳士だと評判の街の青年だ。
女性が好きで、見かける時は常に女性を口説いている。
シーマはテスの前にひざまづくと、テスの手を握りしめてきた。
キョトンとするテスに、
「じき眠りにつくあなたを起こすのは、きっと私でしょう。私しかいません。あなたの運命の赤い糸の相手は!」
謎の自信に満ち溢れた表情で、そう宣言する。
そして、テスの手の甲にキスをしようと顔を近づけると。
グイグイ、と双子によってシーマとテスはあっさり引き離されたのであった。
「おやヤキモチかい、リリー、ララ」
モテる男は困る、と言わんばかりのナルシストぶりに、リリーとララはニッコリと笑みを浮かべる。
そして、二人は同時にシーマへと手をかざす。
「まったく……テス様に気安く触るんじゃないわよ」
「身の程を知りなさい」
…………。
シーマが双子の魔法によって、いびきをかいて眠ってしまったあと。
受け取った花束を抱きかかえるテスの元へ戻るリリーとララは、顔を見合わせる。
テスが、どこか寂しそうな表情を浮かべているからだ。
いや、今に始まったことではない。
この数週間、ずっと様子がおかしいのだ。
「……テス様、最近お元気がないようですが」
「何か困ったことがありましたら、何でも話してください」
その言葉に、テスはハッとするとすぐに笑顔を浮かべて首を横になって振った。
「んー。大丈夫、大丈夫。ね、何か食べに行こ?」
強がっている。
絶対に。
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