眠り姫は夢の中

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運命の赤い糸

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ジャックの夢は、飛空船技師になって自分の船を造り、世界を自由に旅すること。

それは幼いころからの夢なのだが……。


「飛空船技師になるなんて、もうすぐ18になるというのに、まだそんな寝ぼけた事を考えてるのか?」

夜。
ジャックが部屋で飛空船の造船に関する書物を読んでいると、ノックもなしに父親が入ってきた。

そしてジャックの手に持つ本を見るなり、ギロリと冷たい目をして、そう言い放ったのだった。

ジャックはパタンと本を閉じる。
またいつものお説教が始まりそうだ。

「さぁな」

本を本棚へと戻しながら、無愛想に返事をする。

「何度も言わせるな。
お前はこの家の跡取りなんだぞ。私の言う通りに生きれば、将来は保証されるんだぞ」

そんなの、耳にタコができるほど聞いてきた。

だから何だというのか。
地位や金を保証されれば、幸せになれるとでもいうのか。

「あんたこそ何度も言わせんな。
オレがオレの生き方を決めて何が悪い」
「後悔するに決まってるだろ」
「それを決めるのはオレだ。あんたじゃない」

父親の気迫に負けじと、ジャックは言い返す。

ジッと睨み合う二人だが、先に視線を逸らしたのは父親の方だった。

「……まったく生意気な! 誰のおかげで何不自由なく暮らせてると思ってるんだ!」

ブツブツと言いながら、父親は部屋から出てドアをバタン、と勢いよく閉めた。

部屋に一人になるなり、ジャックははぁー、と大きなため息をつく。
……と、その時だった。

--ゴオオオ……

窓の外から聞こえる、ありえないほどの大音量。
何事だ、と窓を開けてキョロキョロと街並みを見回してみる。

「なんだ、あれ?」

ジャックの目に映ったのは、街はずれにある丘の上に不時着する--一機の、小型飛空船だった。


「いやー死ぬかと思ったぜ!」
「ふーん……」
「乱気流に巻き込まれてな! こう、オレの腕が神がかってたおかげでなんとか着陸できてだな」
「へー……」
 
カラカラと笑いながら元気に状況説明をするのは、タックスというツルツルの頭をした厳つい顔立ちの男だ。
年は、60くらいだろうか。

ジャックは彼の話を聞いておらず、ただただ不時着した飛空船を間近で眺めていた。
こんなに近くで見るのは初めてだ。

この街には飛空船乗り場などない。
街から離れた王都になら、造船場も乗り場もあるのだが……。

「こりゃー修理に時間かかっちまうな。この街に飛空船の部品なんかもなさそうだし……参ったぜ」

タックスがジャックの隣に並び、飛空船を見上げながらため息交じりに話す。

「直せるのか?」
「そりゃーお前、オレは天才技師だと呼ばれてんだぞ? 当たり前だろ」

天才技師。
まぁ、本当に天才かどうかは別にして。

ジャックは、ぐっと、拳を握りしめた。

「しっかし参ったなー。この街の近くに飛空船に詳しいやつはいるか? 一人で修理となると時間がかかっちまうな」
「……この街に飛空船技師はいない。いるとしたら、ここから馬車で3日かかる王都だ」

飛空船の周りをウロウロして細部まで眺めながら、一応質問に答えてると。

「なんだ、お前飛空船好きなのか? なら色々教えてやろうか?」
「!」

思いもよらぬ言葉に、ジャックは思わず隣に立つタックスを見る。

「ま、そのかわり修理を手伝ってほしーんだけどな」

ハハハッ、と笑うタックスに、

「……分かった」

ジャックはそう、答えるのであった。
こんなチャンス滅多にない、というか二度となさそうだ。
本物の飛空船の修理を手伝えるなんて。

こうして、ジャックはタックスとともに飛空船を修理することになったのであった。


この事を彼女に教えてやりたい、と思った。
たぶん、一緒に喜んでくれるだろう。

……と、そこまで考えてピタリと足を止める。

「……最近、見ないな」

それは、夢の中のテスのこと。
ここニ週間ばかり、夢で会えてない気がする。
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