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9 ドラゴン狩り③

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「はぁ、はぁはぁ……」

息切れた俺の前には、安定のオネエ野郎。相変わらず酷い目付きで、こちらをずっと見てきている。しかしさっきよりもっと酷いような―――
それはレフィーネが俺の事を心配しているからだ。
数分前、ようやくリンに糸を解いて貰うことができ、今までリンに助けを求めてじたばたしてた俺は体力限界で息切れていたのである。
そうすると、レフィーネは俺を心配し始めた。さらに自分までをも責め始め……。

「いや、お前のせいじゃないから大丈夫だって!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、私が悪いんだわ…。ぐすん。許して……!」

「だからさ……お前なんもしてないから大丈夫……」

レフィーネは俺の肩に座りながら、くすんくすんと泣いていた。
俺はレフィーネを慰めようと、彼女の小さい頭に手を回そうとした。
だが、リンの目線が気になるのでさっと手を引っ込めた。
あ~~っ、オネエの視線が怖い~~っ!

「ふーん、レフィーネのせいじゃないってことは、つまり~、私のせいになるのかしら??」

リンはさらに俺をきぃっと、睨みつけながら言った。

「い、いや…あのごめんなさい……多分、違います……」

俺は弱々しく呟いた。
これ以上、この「リン」というやつには勝てそうにない。どんな手を使っても、あいつに謝らせることはできなさそうだ。態度が酷すぎたのに。
あいつ側からすると、俺なんてどうでもいい訳だし、糸を解く権利も全てあいつが持ってるんだ。俺が指図する理由が無い。
さらに、きっと俺を助けるの嫌だったんだろうが、嫌々助けてくれたのだ。
俺が言い返せる事は何も無い。
そして、さらに謝った。

「ごめんなさい、ありがとうございました。お陰で助かりました。この恩は絶対返します!」

謝ったものの、どうしても心から謝る事ができなかった。
何故だ。リンが焦らして助けなかったから?いや、違う。
じゃあ何だ。分からない。
俺の心の中には、言葉では表せない、何かの感情が淡々と積もっていった。


「全くぅ、言い方雑~もういっかーい!…………って言いたいところだけれど、レフィーネが帰ってほしいらしいから……」

と、リンは、俺の肩に座り続けてすすり泣いているレフィーネを、暖かい目で見守るかのように見つめ始めた。
そして、ゆっくりとこちらを向き、予想外の言葉を発した。

「まさか、あなた『嫉妬』してるの??」

これだ。嫉妬だ。
俺は今、『嫉妬』という感情を抱いているのかもしれない。レフィーネがリンに見せて、俺には見せてくれないあの態度。
彼女を自分だけの物にしたい……
いやいやいや笑それは絶対ない!俺があんな小さい妖精に恋するわけ……ない!
もし……この感情が嫉妬じゃなければ、一体なんだって言うんだよ?
俺は今すぐ、あいつとレフィーネを一刻も早く離したい。このもやもやした感情が、俺に指図してくるのだ。だからさっき素直に謝れなかったのかもしれない。
俺はその感情の名をおもいだせないまま、話を続けた。

「……いや、嫉妬な訳ないだろ。さっさと俺を解いてくんないから、イラついただけ。帰るんならさっさと帰ってくんない?」

俺は本当に心から願った。彼が帰ってくれることを。
どうやら俺とリンは気が合わないらしい。
だって俺からすると、あいつ何考えてんのか分からないし、いかにも怪しい雰囲気を醸し出してるし。まるで敵のようだ。
もしかしたら…………いや、言い過ぎか。
つまり、とても良い奴には思えないってことだ。

その後、俺がリンに向かって、しっしっ、と手を動かすと、彼はため息を着いた。

「はーぁ。何なのよ、もぅ。この私が居たらどんなに心強いかぁ~!……やっぱりレフィーネを1人にしたくないのよねぇー」

「あの、俺とエリザベスいるんすけど」

「……? あら!ごめんなさい!有能な牛と、無能な子豚ちゃんが1匹、い・た・わ・ね♡」

「……お前……こr……んんんんぐー」

「ちょーっとっ!リンありがとう!もう帰って大丈夫よ!ありがとう、本当にありがとう!また今度お茶でもしましょ!」

リンが俺に向かってウィンクし、それに対して怒りを爆発させようとした俺を、レフィーネがあわてて俺の口を塞いだ。

その対処の仕方が正当だ。
このまま流れを任せていたら、また余計な事に発展する可能性があるからだ。

そうしてレフィーネがリンを返そうとすると、ようやくリンがその気になりだした。

「……ふふふっ、レフィーネがそう言ってくれるなんて嬉しいわ。そうね、お茶でもしましょうかしら?……良かったらレンくんもしましょ?じっくりお話したいのよ……」

「……あーそうか、俺は嫌だなー」

「もう、レンくんったらぁ~!オトメの心を悲しませないでちょうだい!……もう私がいなくても大丈夫らしいから、もう行ってあげるわよ…………」

リンがそういった後……
リンがレフィーネに近づき、耳元で何かを囁いた。
―――だか何を言ったのかは、俺には分かることができなかった。

「わかった」

唯一聞こえたのは、レフィーネがリンに対して答える声だけだった。


「じゃあ、私はもうこれで失礼するわね。」

リンがジャケットを気直して俺らに笑いかける。

「ばいばーい、リン」

「……早く帰ってくれ、じゃあな」

時の流れが早いように、俺らは別れの挨拶を済ませた。
どうやらレフィーネも俺と同じく、リンに早く帰ってもらいたいらしい。

―――光。リンの体が光出した。
この後、彼はどこに帰るのだろうか。
いや、もういい。彼の事は考えなくて。
本来の目的はドラゴン狩りじゃねーかぁ!

すると、忽ちリンの体は光に包み込まれ、まるで吸い込まれていくようだった。
その瞬間、

「お前に、確定な未来は無い」

そう、俺に囁く声が、俺の耳元で聞こえたのだった。






「ちょっ、待てよ」






もう、俺の声は届かなかった。
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