1,056 / 1,056
- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む「でもそれだと、俺と聖が交流を続けるのは難しそうだよねぇ」
自分が彼女の悪者で居る限り、自分達の関係を彼女が認める事は出来ないだろう。
いい加減逃げずに話し合う必要があるのかもしれない。
でも、出来るだろうか?
冷静に話をすることが出来れば、可能性は0じゃないのかも知れない。
憎く思う気持ちを隠すことは簡単だ。
問題はそんな事じゃない。
先程、夢で見た光景に飲まれそうになった。
頭が真っ白になり、足がすくみそうになった。
情けない事に、悔しいほどに、いまだ恐怖が頭に根付いているのだと実感させた。
力では彼女には負けないだろう。
でもそんな単純な話じゃない。
『どーしたものか…』
「…あのね」
「うん? なに?」
先程から黙りこくっていた弟の声に、即座に思考を切り替える。一緒に居られる時間が限られている弟と違い、自分の事を考える時間は何時間でもある。弟が伝えたいことがあるなら、今はそれを優先すべきだ。
「大人なら誰しも隠し事の1つや2つあるって、前に言ってたじゃん?」
「……あぁ、うん。むっ……そうだね?」
市ノ瀬の事で相談を受けた時だったか、そう言った話をした事があった気がする。睦月君の話をした時だよね、と言いかけるが、話しづらくなってしまったら申し訳ないと、なんとか引っ込めた。
「俺、母さんの言う通りに、聖と会わないなんて、もう絶対したくない」
「…うん」
「だから、それはしない。でも母さんには会ってない事にする」
弟の言葉に、申し訳なさと案著が同時に襲ってくる。
会っていない事にするなら、わざわざ自分が彼女と話をする必要はない。
でもそれだと、自分のせいで弟が嘘をつかなくてはいけなくなってしまう。
いつだって素直で真っ直ぐな弟に、そんな事をさせてしまうのは抵抗もあるし、不甲斐なさに申し訳なくなる。
「…出来れば、聖に嘘ついてほしくはないんだけど」
「なにそれ、俺には大人になるなってこと??w」
「いや、そう言う訳じゃなくて…」
「知ってる!!」
場を和ませようとしているのか、明るく話す弟のおかげで、沈みかけた気持ちにストップがかかる。意図しているのかどうかは分からないが、深刻になりすぎず、させすぎない、弟のそんな空気感に凄く助けられたのは紛れもない事実だった。
兄として不甲斐なさも感じるけれど、兄や弟、大人子供ではなく、単純に人としての経験値が弟の方が豊かだったのだろう。素直に感謝するべきだと、ひねくれそうになる感情を宥めた。
0
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる