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- 28章 -
-憎悪と情愛-
しおりを挟む良く分からないと言った表情を浮かべながらも、上体を起こした兄が優しげな笑みを浮かべ、前方へと両手を伸ばしたかと思うと、胸元辺りに手を持ち上げ宙を撫でた。
それはまるで、抱きついてきた子供を受け止め、大切に慈しむようで…
「ちょっと、羨ましいかな」
「ぅん?」
「いや、なんでもない」
「そう? あっ、どうしたしまして、だって」
「うん、伝言ありがと」
“ 俺からも、ありがとうね ”
弟からの伝言と共に、心の中でそう呟いた兄の言葉に安積が気づけるわけもなく、兄と、恐らくそこに居るのであろう子供との光景に、微かに胸がざわめく。
先程の顔が見えなかった時と言い、今のこの光景と言い…あの日を彷彿とさせる出来事に落ち着かなくなる。
知らない大人達と共に家を出て行こうとしている兄へ、行かないでと泣きわめき、しがみついた自分に、見えない顔でかくれんぼを提案してきた、あの時の光景に、目の前の全てが重なってしまう。
もしこのまま、兄が居なくなってしまう事までも、あの時と同じになってしまったらー
「ゃだよ…そんなの…」
「ん? なにか言った?」
「…聖」
「なぁに?」
「どこにも行かないでね?」
「えっ、勿論っ!どこにも行くわけないじゃん!?どーしたの急に??」
「や、なんとなく…」
「むしろ俺の方が、末永くよろしくお願いいたします、って感じなんだけどっ!」
「えっ…ぅ、うーん」
「えっ、駄目なの!?」
「なんか言葉のチョイスが絶妙に…いや、良いや。俺こそよろしくお願いします」
まるで、結婚相手にでも言うような言い回しに、“ なんか違う感 ” が浮かび上がるけれど、きっと込めた意味は同じだろうし、まぁ良いかと返事を返した。
常識はずれな話と、常識はずれな出来事に、本格的にキャパオーバーし、疲労感から思わずため息がもれる。
でも、こんな話は今日で終わらせないとと、安積は異変直前の会話へと、無理やり記憶を遡らせる。
『えーっと…あ、そうそう。母さんがもう1回引き取ったのはなんでだって話だ』
それは何気なしに呟いてしまったもので、兄への問いかけではなかった。だが同じ場所で、今の今まで会話していた相手が呟いたのなら、反応しないわけには行かないだろう。
『反、応?』
何気なく口にした自分の呟きが、兄にとって鬼門となりうる物だったとしたなら。呟き直後に起こったあの異変は…
『…水飛沫の時、同調してとかなんとか、言ってたよな。もしかしてー』
あの異変が、兄の心境の変化によって反応した何かが引き起こしたものだとしたら…
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