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- 28章 -

-憎悪と情愛-

自分が早産だったことは、誕生日がバレンタインと言うことで弄られた事を愚痴った際に教えて貰いはしたが、理由までは深く聞いたことがなかった。

そしてそこに、兄が関係してくるなんて思ってもなかった。


「もしかしたら、俺のせいで聖せいが産まれなかった可能性だってあったの。聖せいはそんな事でって思うかもしれないけど、祐子さんにとっては、実際に体に影響を及ぼす程のストレスで、無事に産まれたとしても、子供に…聖せいになんらかの障害が残る可能性だってあった。…聖せいが今健康に生きていられるのは、祐子さんが頑張ってくれたから。頑張って家族を守ろうとしてくれたからだよ」

「……でも、そうだと、したって。聖ひじりだって、家族なのに…どーして」


弟の口から発せられる未完成な文章や、流れ込んでくる感情が、新たに知り得た事実に頭の中がこんがらがっているのを、ありありと示していた。

無理もない。

実際に見て体験した事ではなく、自分の中にはない、聞いただけの誰かの感情を飲み込むのは、とても難しいことだ。

それでも、少しでも、弟の中の母のマイナス面が薄らいでくれたらと、願うしかない。


「家族、ね。まぁ、確かに、俺も裕子さんも家族になろうと努力はしてた。でも、俺は家族になれなかった。家族じゃないの」

「え？」

「家族じゃないの。俺と祐子さんは」

「…どうして、聖ひじりまでそんな事っ」

「俺と祐子さんは養子縁組してないから」

「……え？ えっ？ だって、前は…」


産みの親と育ての親、親族として正式な親が4人居る状態で、それは養子に迎えてくれたご両親と、自分の両親だと言っていたはずで…

『あれ…俺が聞き間違えてた？ ちょっと…いや
大分小難しい話だったし…』

ただでさえ、次々と告げられる真実になんとか食らいついている状態なのに、更に投下された小難しい話に、そろそろ思考停止しそうになる。

しかし、なんとか頭を働かせつつ兄を見ると、言い淀むような素振りを見せ、申し訳なさそうに眉にシワを寄せていた。


「…前に話した時は聖せいと兄弟なんだよって伝えられれば良いやって、少し説明はしょっちゃって…ごめんね、余計ややこしくしちゃた。書類上で言えば、俺の母親は養母とエリシア。本当の産みの親なんだよ」

「……じゃぁ、今も昔も、祐子母さんとは家族じゃなかった、ってこと？」

「そう。…ごめんね。でもしたくなくてしなかったんじゃなくて、これは本当に祐子さんが俺の為を思ってしてくれたことだから。結果的に今みたいになっちゃっただけで、家族になりたくないからとか、家族じゃないって言う為にしなかったわけじゃないよ」