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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む彼の手がどんなに自分に触れようとも
自分は彼に触れてはならないのだ
辛いのも、我慢に身を焦がすのも、決意の上で望んだ結果であり、誰に何度問いかけられたとしても、後悔なんて1ミリもないと胸を張って言える。
だとしても好きという感情は直ぐに消えるものではなく、恋の傷は新たな恋がというけれど、安積以上に好きになれる人など、何処を探しても見つかる気はしない。
班乃は溢れそうになる溜め息を飲み込み横たえていた体を起こすと、組んだ両手を大きく伸ばし、深呼吸で気持ちを落ち着かせた。
「良く分かりましたね。正解です。お直しじゃなくてリメイクと言うべきでしたね」
「……どうして?…あんなに大事にしてたのに」
「大事だからですよ」
体に伝わるソファーの沈みが、安積が近距離に腰を下ろしたのだと伝えてくる。
お互い話題に出さないと、もう気にしないと、今まで通りにとすると言ったとしても、あまりに無防備すぎやしないだろうか?
『…こんな時こそ、神…神にならないと…人間くささなんてない、慈愛と慈悲の神に…』
「大事だからって、どういうこと?」
「あっ、と…それは、ですね」
班乃の葛藤などまるで分かっていない様な、純粋な心配が垣間見得る声色で問いかけられ、一気に現実へと引き戻される。
葛藤に苛まれていた頭を強制的に切り替えた班乃は、心配は無用だと伝える為、語弊のないよう慎重に言葉を探していく。
「睦月や貴方のおかげですよ」
「俺達のおかげ??」
意味がわからないと口をへの字に引き結び、首を傾げる姿がとても微笑ましい。
自分の行動が、自分の言葉が、沢山の誰かの心を救っている。安積自身にその自覚が全くないのだ。
辛い時も悲しい時も、気がつけばいつでも側にいて、迷った時には力強く引っ張り上げてくれた。厳しくも暖かな温もりを、いつだって全力で向けてくれた。迷走し傷つけてしまっても、大きな優しさで包み込み許してくれた。
ありのままを受け止め、好きだと言ってくれた。
『こんなにされて、好きにならないわけないですよね』
散々好き勝手に優しくして
好きにさせておいてー
それでも
安積からの好意の意味が変わる事はない。
憎まれ口も浮かんでくるけれど、それでもその “ 勝手 ” を嬉しいと、そんな彼が好きだと感じてしまう自分は、もっと勝手なのかもしれない。
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