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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む「…なに? なんかあんの?」
「苔」
「…は、分かるけど」
「ほら、良く見てよ!」
「良く見ろって…何度見ても苔だよ」
「もうっ、だけじゃないでしょ!?」
『いや、苔だよ……』
何度見ても苔しか見えない。それ以外なにかあるかのような言い回しに、変なものでも見えてるのか?と若干心配になる。
「ほら、ここっ!」
「んー………?」
「苔にさ、染み出た水が絶妙に溜まっててさ。ちょっとしか日の光入らないのに、小さく光っててさ。色々映ってるの。綺麗じゃね?」
「……そうだな。お前が可愛いことだけは分かった」
「俺じゃなくて苔見ろ苔っ!」
「や、まぁ。そうだな、これも綺麗だな」
「ほんと…お前ってやつは…」
相変わらずのド直球な言葉に呆れを含ませつつそう呟く安積だったが、こんなに綺麗な光景よりも自分に目を向け好意を向けてくれた事を、嬉しく感じないわけでもなかった。
市ノ瀬のこういった行動は度々起こり、その度に照れくささでドギマギしてしまうので、冷静を装うのが大変だ。
『…そのうち見られ過ぎて穴開きそう』
チラリと隣に居る市ノ瀬へと顔を向けると、その視線に直ぐさま気がついた市ノ瀬も同じように顔を向け、はからずも向かい合う形となる。
苔に溜まった小さな小さな水滴を共に見ていたせいで、予想以上の至近距離で視線が交わる事となり、瞬時にして心臓が大きな音を立てた。
安積を映した市ノ瀬の目が、数回瞼で遮られると、スッと目が細められ、そして微かに顔が傾いた
その時ー
「なにここ…」
「!?」
そんな呟きが2人の居る空間に響いた。
立ち位置が悪く、入り口から自分達の姿は見えなかったのだろう。それは彼が呟いた口調が現していた。
しかし狭い空間故に、辺りを見回した彼が自分達の存在に気がつくのは直ぐだった。
「びっ………くりした。こんな所に居たんですね、2人とも。なにしてたんです?」
「いやっ、あの…今のはその…別に、なにも…」
「あー…すいません、お邪魔しちゃいましたね」
「いやいやなに言ってんのっ!?そんな事な」
「ほんと、もーちょっとだったのに」
「睦月っ!!」
バシッと肩を叩き言動を諌めるが、市ノ瀬は悪びれる様子もなく笑うだけだった。文句の1つも言いたい所ではあったが、なんとかそれを飲み干し、班乃を手招きで自分達の所へと誘う。
誰もが思うであろうここの存在についての会話を交わした後、安積が先程自分達が見ていた物を指差すと、不思議そうに安積の指先を視線で追いかけた班乃は、直ぐ様その精悍な顔に微笑を作った。
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