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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む目を合わせ2人揃って首を傾げるが、考えたって分からないものは考えても仕方がない。来る途中で渡った浮き石を渡らず、書道美術館の前をそのまま真っ直ぐ進んだ辺りに居るとの事なので、言われたままにそっちの道を進んでいくが……
「綾雪? 行かないのか?会長の所」
「行くよー! でもちょっとだけ寄り道っ!」
にっこりと笑い鈴橋の手を取ると階段を登り、2人が行き着いたのは先程皆で来た水琴窟前だった。
「意外だな。また来るくらいお前も気に入ってたのか」
「まぁ、それなりにね!がっくんも好きでしょ!」
「…ありがとう」
「どういたしましてっ!」
癒されると絶賛していたし、今しがたの一件で精神的にも疲弊したのではないかと思い、立ち寄ってみた。弱々しくお礼を口にし、吸い寄せられる様に音を聞くため竹筒に向かっていく鈴橋に、来て良かったと笑みがこぼれた。
そしてー
来たのはそれだけが目的じゃない。
1度周辺を見渡し誰も居ないことを確認した植野は、目を閉じ音に聞き入る鈴橋の額に、短く口づけを落とした。
「……な、にすんだよ」
「いやー…ね、実はずっと我慢してて。大丈夫、誰も居ないの確認したし。…嫌だった?」
「…別に、嫌じゃない」
「そ? 良かった」
微かに頬を染め、確認したと聞いても心配だったのかきょろきょろと辺りを見渡した鈴橋が、大きな溜め息と共に突如その場にしゃがみ込んだ。
「えっ、ちょっとっ、どうしたの?大丈夫っ!?もしかして具合悪いっ!?」
体力的にも精神的にも疲れていることも予想は出来ていたのだが、実は思っていたよりも疲労を感じていたのかも知れない。
しゃがみ込んで顔を上げない鈴橋の肩に手を置きその顔を覗き込もうとした瞬間ー
ぱっと顔を上げた鈴橋と至近距離で目があい、言葉を交わす間もなく、その距離がぐっと近づき息が止まった。
「…………」
「俺だって同じだ」
「……えっと」
「せっかく我慢してたのに」
「ごっ、ごめん…」
「別に。さて、いい加減行くか。会長の所」
「…はい」
不意打ちに動揺し、落ち着きなく心臓を鳴らす植野とは違い、何事もなかったかのように立ち上がり、平然と先へと歩き始める後ろ姿を呆然と眺める他なく、植野はその場に立ち竦む。
そしてそんな植野に気がつき振り向いた鈴橋のその顔には、どこか気力が戻ったような爽快さも垣間見えた。
不意討ちをしても、それを越える不意討ちを返される。もしかしたら自分が彼に勝てる日は来ないかも知れない。
しかしそれでも、鈴橋の元気が戻ったのならそんな事は些細な問題でしかないだろう。
感触の残る唇を指でひと撫でし、ざわつく心肺を深呼吸で落ち着かせると、置いていかれない様に鈴橋の元へと駆け寄った。
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