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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む近くの柱に捕まり
逆手を鈴橋に支えられ
上半身を池の上に投げ出し
水面を水平に見下ろしながら
青い顔をしていた。
眼前には大量の鯉が、ガッポガッポと音を立てて大口を開け、バチャバチャと盛大な水飛沫を上げていた。
それは今にも食べられてしまうのではないかと恐怖する程の迫力がある。
しかし、その顔を青く染めたのはそれだけじゃない。
鈴橋に引っ張られるようにして体を浮御堂の上へと戻し恐る恐る後ろを振り向くと、悪びれた顔もせず、小学生、恐らく中学年ほどの子供が植野を見ており、そしてなにも言わず顔を背けた。
それは後ろから植野へと体当たりし、池へと突き落としかけた張本人で…
「大丈夫か?」
「あっ、あぁ、うん、平気平気」
心配する鈴橋に引きつった笑顔で返し、バクバク波打つ心臓を落ち着かせる為、胸に手を当て大きく息を吐た。
近くに柱があって良かった。
手が届く距離で良かった。
植野が無事だった事に安堵の溜め息をついた鈴橋が小学生へと目を向けると、一応は悪いことをしたと分かっているのか母親らしき人物の服を掴んでちらちらとこちらを見ていた。
「ちょっと、なにやってんの?」
「気を付けろって言っただろ」
「……」
『親が親なら……』
両親らしき2人の対応と言えば、自分の子供が他人にしてしまった事に気がついていながら、チラリと視線を向けただけに止め謝罪の言葉も心配の言葉もない。
そんな親子のやり取りに、鈴橋の目が鋭く光ったのを植野は見逃さなかった。
「かっ、がっくんー」
「人にぶつかっておいて謝罪もないんですか?」
「はぁ?」
『あぁ、声かけちゃった…(;´д`)』
間違った事は言っていない。言っていないのだが、触らぬ神に祟りなしという言葉がある。
どこかおかしな人には関わらないが吉と言うこともあるのだが…
「や、大丈夫だよっ、無事だったんだし」
「そう言う問題じゃない」
触れないことは鈴橋が許さなかった。
「なに子供のやる事にムキになってるのよ」
「別に何もなかったんだから良いだろ。そいつだって大丈夫って言ってんだし」
「……そうですか」
『子供の事だからムキになるんですよお母さん方…』
これが大人相手だったら馬鹿につける薬はない、つける時間が無駄だと一蹴している気がする。
それはさておき、植野の言葉に便乗し相変わらず謝る素振りも謝らせる素振りも見せない両親に、鈴橋が放った“そうですか”の一言のあまりの静けさは
まるで嵐の前の静けさのようで。
「がっ、がっくん??」
これは確実に人波乱起きるぞ…と確信するのは簡単だった。そしてどう場を納めようかと思考を巡らすよりも早く鈴橋が動く。
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