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慰弦

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- 27章 -

- 謹賀新年-

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なんだかんだ色々と事情を知り合う仲となったせいかお互い当たりが強い時もあるけれど、本質的に植野という人間は、常に他人を気使う優しい人種だと言うのを節々で思い出させられる。

それが余計に申し訳なさを助長させてしまう時もあるが、嬉しくもあり、尊敬する所でもあるのは間違いない。

来る時たまたま見かけた、浮御堂の側にある小さな食事処に張られていた張り紙を思い出した班乃は、2人に背を向け其方へと足を向ける。

安積達と同じように、植野達にも2人での思い出を作って欲しい。

優しくされたからそう思ったのではない。

優しくしたいと思ったからそうするのだ。

自発的にそうしたいと思える程には、植野の事も鈴橋の事も大切だと思っている気持ちに嘘はない。

用事を済ませ短い間隔のアラームをセットすると浮御堂まで戻り、鈴橋の後ろで立っている植野へと無言で握り締めた手をつき出した。


「おかえり、あっきー………?」


何も言わずにつき出された班乃の手と顔を何度か交互に見やった植野は、困惑しつつも何かを渡そうとしているのだろうと、班乃の手の下に自らの手を広げる。


「…邪険にされたなんて思ってないですから」

「ぅん?」


鈴橋に聞こえないよう班乃は植野の耳元で小さく囁やき、植野の手のひらに小袋を落とした。その袋をまじまじと見つめる植野の肩を叩くと、出来る限りの笑顔を向ける。


「あとは2人でどうぞ」

「え、えと…」


戸惑いと躊躇が入れ混じった顔で言葉を探す植野を遮ったのは、班乃の携帯から発せられた “ 着信音 ” で、その音にぼんやり池を眺めていた鈴橋も班乃を振り返った。


「すいません、ちょっと電話が…良かったらそれ、2人であげてください」

「それ?」

「では、また後で」

「…うん」


後ろに居た班乃らのやり取りを知らない鈴橋が不思議そうな表情を浮かべるが、敢えてスルーし笑顔をだけ残すと携帯を片手にその場を離れた。


「植野、それって?」

「あ、多分これの事、かな。さっき明に渡されて…」


班乃の後ろ姿を、なぜだか少し悲しげに目で追い見送る植野へと疑問を投げ掛けると、ハッとしたように肩を震わせ、小袋を乗せた手がゆっくりと差し向けられる。

それは餌付けの出来る動物園等で良く見る様な手作り感満載の、鯉の餌とかかれたシールが張られていた小袋だった。


「ふーん、そんなの売ってるんだな」

「ね。そうみたい」

「せっかく買ったのに…会長戻ってくるまで待ってたほうが良いんじゃないか?」

「まぁ…うーん…そうね。そうかも、だけど」


多分だけれど、あの言い方だと暫くは帰ってこない気もするし、なんなら連絡するまで戻ってこない可能性もありそうだと、しばし小袋を眺め思考する植野だったが、せっかくの気遣いを無下にするのも申し訳ない。


「俺らであげてって事は時間かかるかもかなんじゃない? もし戻ってきたらまた買えば良いし、お言葉に甘えちゃおう?」

「そう…分かった。でもお前ー」

「ん?」


班乃の気遣いにより植野等が2人きりとなった
丁度その頃ー
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