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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む仁王門を抜けた先、仁王池に架かる橋から池の中を熱心に覗き込む安積の横顔へなんとなしに視線を落とすと、直ぐに気がつき弾けるような笑みが返される。
ゆるく笑い返すと、そんな熱心になにを見ているのだろうかと高鳴る心臓を誤魔化す為、仁王池へと視線を逃がした。
しかしそこにあったのは、特になにか居るでもない当たり障りないただの池だ。
「ここ、暖かい時期だといっぱい亀いるんだよ!」
「へぇー、そうなんだ?」
「たまに寒くても起きてる子が居るって聞いたからもしかしてって思ったんだけど、流石に寝ちゃってるねー」
「雪降る寒さに勝てる子は居なかったみたいですね」
「あっ、でも反対側の池にさ、亀に似た岩があって、そこに小銭が乗るとご利益があるとかなんとか!」
「へぇ、そんな言伝えが。でも…」
相も変わらず仁王橋にも人はすし詰め状態で、更には道幅も狭まっているので尚更人を掻き分け逆側に陣取るのは難しそうだ。少し残念ではあるが、別に今日しか来れないわけでもない。
「また今度、暖かい時期に来てみるのも良いかもしれませんね」
「………」
「安積?」
そう思い話しかけるが、何故だか返答がない。故意的に無視するようなタイプではないしと不思議に思い視線を向けると、何やら一点を見つめていた。その視線の先に目を向けてみるが、特に気になる点はない。
「おい、どうした?」
「なにかあったんですか?」
「……ごめん、あっきー」
「はい?」
「綾っ!」
「えっ!? なにっ?」
班乃等と同じく安積の異変には気付いていた植野だったが、自分の名が呼ばれるれるとは思っておらず若干ひっくり返った声に顔が火照る。
しかし、そんな植野に構うことなくどこか焦った様な表情で見上げた安積はー
「がっくん借りるねっ!!」
「はいっ!?」
「はぁ??」
と叫び、状況を飲み込めない全員を置いてけぼりに鈴橋の手首を掴むと周辺の人々に謝りながら人混みを抜け出していく。
戸惑いの声をあげる鈴橋を無視し仁王橋から左右に延びる片方の道へと抜け出ると辺りを見回しどこかへ走り去ろうとするが、班乃達の視線から消える直前ピタリと歩みを止めて振り返った。
「今度来よう!暖かい時にっ!」
その言葉を最後に、今度こそ鈴橋を連れ姿を消した。突発的な行動は良くあることだけれど…2人の消えていった方向を3人仲良く、呆気にとられたように、または呆れたように眺める。
「……なんだ、あいつ」
「さぁ、どうしたんでしょう?」
「ってか」
「はい?」
「なんで学連れてくのに綾の許可がいるんだよ?」
「えっ!? さ、さぁ、なんで、だろう?」
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