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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む落ちた目蓋をそのままに無言で差し出された両手に言葉が途切れる。
「………」
「…なんだよ、自分で言ったくせに」
「や、まぁ、そうなんだけど…」
予想外の反応に固まっていると、怠そうに目蓋を持ち上げゆっくりと立ち上がった安積はベッドへ向かいそのまま潜り込んだ。
『…勿体ないことした』
そんな一連を目で追いながら心中後悔で染めるが、大分お疲れな安積の休息の為にも帰宅を決め荷物を手にベッドの横へとしゃがみこむ。
「安積」
「…ん?」
「俺も帰るわ。鍵はポストに突っ込んどくから、ゆっくり休めよ」
「……やだ」
「やだっ、て」
「……まだ、帰んないでよ」
「………」
「寝るまで……で、良いから…も、ちょっとだけ…」
顔を布団に埋めたまま差し出された安積の手がぱたぱたと周辺を彷徨う。
その行動が求めているものとは…
彷徨う手を握りしめると即座にか弱く握り返され、全ての動きを止めたかと思うと静かな寝息が聞こえてきた。
『……帰れるわけ、ねぇだろ…こんなん』
仕方なしにその場に荷物を置き腰を下ろすと、握られた手に触れるだけの口付けを落とし布団へと突っ伏す。
『…かなわねぇなぁ。もう』
30分したら帰ろう
そろそろ帰ろう
まだ眠りが浅く起こしてしまうかも
後30分したら帰ろう
後少し
後もうちょっとー…
「……….あれ。今、何時だ?」
そうこうしている内にいつの間にか自分も眠りに落ちてしまっていたらしい。床に座り込んで寝てしまっては暖房がついているとしても流石に冷える。寒さと体の痛みで目が覚め窓の外へと目を向けると完全に真っ暗になってしまっていた。
体感的にはそんなに経っていない筈。スマホを取り出し画面をつけるとまだ覚めきっていない目を何度かしばたかせた。
『まじか…』
00:13と表示されたその下に、LINEの通知マークがついている。今日は泊まりだとは伝えていない為その通知が誰の物かは予想がつく。
誕生日を祝いはしゃぎ疲れてそのまま爆睡してしまっていたと適当に理由をつけ、謝罪と共にこのまま泊まる旨を送る。流石に寝息につられて寝てしまって居たとは言えなかった。
元から放任主義であり、演劇部に入り安積達とつるむようになってからは泊まりがけも多かった為か、一応確認の連絡は来るが別に怒られると言うことはない。
ゆっくり息を吐き出しベッドの上で頬杖をつくと、気持ちの良さそうに寝息を立てる無防備な安積の寝顔を眺めた。
『…お疲れ様』
いつの間にか離れていた手に寂しさを感じつつ眠る頬をひと撫ですると、静かに立ち上がり勝手知ったる安積宅、置きっぱなしにしていた着替えを取り出し風呂場へと直行する。
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