795 / 1,055
- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟むそれならそれで良いし、実のところ含があったとしても今は考えられそうもなかった。
『ちょっともう……限界かもしれない』
隣に立つ市ノ瀬に構うことなくリビングへと戻ると、力尽きたようにソファーへとダイブを決めた。
一方その頃。
「寒…」
安積宅にて心身共に暖まった体に容赦なく吹き付ける外気に班乃は1人呟いた。
折り畳み傘を広げマンションの外へと足を踏み出した頃には大分日も傾きちらほらと街頭がつき始めており、あと30分もしない内に真っ暗になるであろう道を体を縮め歩みを進める。
雪によって引き起こされるかもしれない事故は恐怖を感じざる終えないし、そんな危険性をもたらす存在その物が大嫌いだ。
けれどー
雪を嫌いなままで居るつもりもなければ
雪を好きになってはいけないという思いも
雪を好きになろうという思いもなかった。
そもそも、そんな事すら考えてもいなかった。
嫌な記憶が呼び起こされ落ち込むこの心を“どうにかしないといけない”、ただただそれだけだった。
試行錯誤するもどうにも上手くはいかず、半ば諦め時の流れに身を任せていればどうにかなるのではと手を駒根居ている現状だったが、彼等が与えてくれた今日はそんな自分にとって大きな大きな1歩となったのは間違いなく感謝しかない。
『安積は僕なんかよりもずっとずっと真剣に自分の問題に向き合って居たんですね…』
見上げた薄暗い空にこぼれたため息が白い花を咲かし、直ぐ様淡く溶けて消えていく。
「…好きが嫌いを上回った時、か」
こんな日には取り繕うのも面倒で、誰にも会わず1人閉じ籠っていた自分には見つけられなかった答えかもしれない。
傘を持つ手に填まる指輪を感慨深く眺めると、足を止めその場に立ち尽くす。しばらくの後なにかを決意したかのようにキュッと口を引き結んだ班乃は、再び駅へと向けて歩きだした。
そして安積はと言うと…
「おい……」
「…………」
「安積ー?」
「………………」
班乃の前では努めて元気に振る舞って居たのだと誰の目にも分かる程に、まるで電池の切れたおもちゃかのようにソファーへと沈みこみ返答すら出来ないでいた。
「大丈夫か?」
「……エネルギー切れ…なんだかんだ、昨日2時間くらいしか寝てなくて」
「2時間って…そりゃ、切れるわ。取りあえず布団いけよ。ソファーじゃ疲れ取れねぇぞ」
「………」
「おいこら、無視すんな」
「…………………」
「お姫様だっこすん……ぞ」
軽く飛ばした冗談に即座に起き上がり自分の足でベッドへと向かう安積を予想していたのだけれど…
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる